第17話 挙式と夜会と密談『テディside】

 いよいよ待ちに待った婚姻式だ。


 正妃とは大聖堂で婚姻式をしていないのでと揶揄する声もあったが、我が国では、キンバリー帝国で広められている真実の愛などという話を知るものはほとんどいない。 

 留学生や商人などキンバリー帝国で聞いてきた者もふたりの仲睦まじい姿を見たことがないので実は国家がからむ訳ありの政略結婚でしかも不仲。

 正妃は私の外見が嫌いで拒否しているんじゃないかと言われていた。


 私たちが必死で隠しているのがバカみたいだ。

 その上、正妃との結婚の話は大々的にしていないので国民の中には知らない者もいる。

 国民はみんな私たちの婚姻を喜んでくれているようだ。


 朝、準備のためにロゼが王宮にやってきた。


「ロゼ、おはよう。来てくれてありがとう」


 私は嬉しくなりロゼにハグをした。今日結婚するんだ。ハグしてもいいよね?


 しかし、ロゼから悲痛な声が聞こえてきた。


「テディ様、痛いです。骨が折れてしまいますわ」


 私はロゼの声に慌てて身体を離した。


「すまない。嬉しくてつい」


 凹んでいるとマックスがやってきた。


「姉上、おはようございます。今日もお美しいですね」


 やつは今日もカッコいい


「兄上は長年の思いが叶って感無量なのです。どうか多目に見てやって下さい。兄上、ハグはもっと優しく柔らかくしなければいけません。気をつけてください」


 マックスに叱られた。


 私がしゅんとしていたからか、ロゼが側に来て手をとってくれた。


「大丈夫でございます。私はこう見えて骨が太いのでそう簡単には折れません」


 気を使ってくれたんだな。


 ロゼは準備が忙しい。私は「また後ほど」と言って部屋を出た。


 私はダメだなぁ。舞い上がってしまうと力加減がわからない。


「はぁ~」


 私は大きなため息をついた。


 いよいよ時間だ。


 支度が終わり、ウエディングドレス姿で現れたロゼを見て私は言葉を失った。


 女神だ。いやもう女神を超えた。


「ロゼ、綺麗だ」


 気の利いた言葉が出ない。きっと真っ赤な顔をしているのだろう。


「テディ様も素敵ですわ」


 社交辞令でも嬉しい。



 大聖堂で大司教が私たちに問う。


「……誓いますか?」


「はい、誓います」


もちろん誓うに決まっている。


ロゼの番だ。


「誓いますか? 誓いますか?」


「誓います!」


 良かった。大司教が聞いても何も言わないから焦った。やっぱりロゼは嫌なのだろう。


 私たちは婚姻証明証にサインする。


 これは側妃用ではなく、正式な妃用の証明証だ。ロゼだけじゃなく、王族でもわからないかもしれない。


 ロゼはやっとロゼッタ・ブロムヘキシンからロゼッタ・カモスタットになった。


 誓いのキスは唇を合わせるだけの軽いキスだ。


 私ははじめてだったので、ドキドキしてガタガタと震えててしまった。


 ロゼは変に思わなかっただろうか。


 あとは夜会だな。


 その後は初夜か。その前にやることがある。私は気を引き締めた。


 式が終わり、ロゼをエスコートし外に出た。


 白い鳩が放たれ空に舞う。


 みんなおめでとうとお祝いをしてくれる。


 やっと愛するロゼと結婚したんだなぁ。感無量で泣きそうだった。



 少し時間をおいて夜会が始まった。


 ロゼはウエディングドレスから、私色のドレスに着替えていた。鼻血が出そうだ。


 来賓との挨拶は面倒だけれど仕方ない。

 とりあえず主要な貴族と挨拶をする。


 父上があの男と一緒にいるのが目に入った。仕方がないので側に行く。


「テディ、ロゼッタ、おめでとう」


「ありがとうございます」


「こちらは、シンバレッド王国の使者だ。今日のお祝いに来てくれた」


 偽の失敗だ


「ロゼッタでございます。本日はご足労いただきありがとうございます」


 ロゼのカーテシーはいつ見ても美しい。こんな奴にしなくてもいいんだ。


「本日はおめでとうごさいます。これからはカモスタット王国とシンバレッド王国の友好の為にご活躍していただけると嬉しいです。よろしくお願いします」


さすが、キンバリーの影。上手く化けているな。


「妹のことはお気になさらないで大丈夫ですので、セオドア殿と幸せになって下さい」


 言われなくても幸せになる。あと2年の我慢だ。


 玄関ホールがなんだか騒がしい。マックスとキースが対応しているようだ。任せておいて大丈夫だろう。

私たちは来賓への挨拶周りを続けた。


やっと挨拶がひと通りおわり、ロゼが初夜の準備のためにひと足に部屋に戻った。


 私には今から大仕事がある。


 話をつけなければいけない。私は国王と影が待つ部屋に急いだ。


「王太子殿下、ロゼッタに本当のことを話すわけにはいきませんか? 他言はしないと約束致しましたが、このまま何も話さないまま過ごすのは無理です。ロゼッタは信用できる者です。どうかお願いします」


 私は頭を下げた。王太子殿下と呼んではいるが、キンバリー帝国の影だ。


 影は難しい顔をしている。


 国王も影に頭を下げた。


「ロゼッタには絶対、他言せぬように申し付ける。もしも約束を破った時にはあの者の命はお任せする」


 父上が突然そんなことを言うので驚いた。


 父上の威圧に押されたのか影は口を開いた。


「ふたりとも頭を上げてください。わかりました。信じます。しかし、絶対ロゼッタ妃以外には他言しないようにして下さい。もしも約束を破った時は最初の約束どおり軍隊をこの国に送ります。お互いの国の平和のためにも約束はお忘れなきように」


 皇帝から全権を委ねられているキンバリー帝国の影は手を差し出した。


 私はその手を握る。


 父上も上から私たちの手を握る。


 ここに3人の約束は再び固く結ばれた。


 だがしかし、今更だが、なんで私がこんな役を押し付けられたんだ。

 ロベルトがこの役でも良かったんじゃないのか? ロゼが婚約を破棄しなかったら、何の疑問も感じなかったが、もしもロゼが悪者に思われるようなことになったらと思うと腹が立つ。


 私は私たちを見張っているキンバリー帝国の影にこっそりつぶやいた。


「もしも、正妃がいることで。ロゼが国民から批判されるようなことになったら私は何をするかわかりません」


「それは大丈夫です。約束は5年です。5年が過ぎたら全て終わります」


 影は礼をして部屋を出ていった。


 言葉の意味がよくわからない。


 その時ロゼにあんなことが起こっていたなんて私は知る由もなかった。

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