第12話 真実

「弟を人質に取られているんだ」


 テディ様からいきなりそんな衝撃的なことを聞かされた。


 人質に取られているのはやはりロベルト殿下だった。


 テディ様は難しい顔をして話を続ける。


「私たちが何もしなければ殺されることはない。このことを知っているのはごく一部のものだけだ」


 何もしなければが気になる。反対に何をすれば戻ってこれないのだろ?


「3年前、友好国だったシンバレッド王国に弟が留学した」

 その話は知っている。私がアカデミーに在籍していた時にシンバレッド王国からも交換留学生が来ていた。学年が違うので接点はなかったが、楽しく過ごし戻られたと聞いている。


「その時に弟と一緒に留学した側近がまずいことになってしまったんだ」


 まずいこと?


「王女と深い中になってしまった」


 王女? つまり正妃様?


「それは正妃様ですか?」


「……」


 俯いたままテディ様は話を続ける。


「当時王女はキンバリー帝国の第2皇子の婚約者だったんだ。キンバリー帝国の皇子の婚約者がカモスタット王国の第3王子の側近と深い中になってしまったとわかり、キンバリー国の皇帝は激怒した」


 あかん、話が重すぎる。


「キンバリー帝国が色々調べた結果、王女が我が弟の側近に懸想し、思いを告げたが断られた。それを根に持ち、媚薬を使い側近を我がものにし、監禁していたのを、行方不明になった側近を探していたロベルトや一緒に探していたシンバレッド王国の国王に見つけられた。それで我が国はシンバレッド王国に抗議をし、側近は返してもらったし、慰謝料ももらった。しかし、キンバリー帝国はメンツが立たない。

そこで、ロベルトをキンバリー帝国の皇女の婿にする代わりに、まだ正妃がいない私に、皇帝が頼み込み、娶らされたんだ。頼み込んだといっても断れない命令なんだけどね」


 テディさまは自虐的に笑った。


 私はなんだか意味がよくわからない。


「意味がわからないのですが、テディ様もロベルト様も関係ないですわよね?」


「うん。ただキンバリー帝国は大きくて軍事力の強い国だ。うちとは友好関係にあるが攻め込まれてはひとたまりもない。ロベルトをすでに、連れてか行かれてしまっていたし、我が国を戦火に晒すわけにもいかない」


 確かに帝国は強い。我が国も軍事力はあるが、そんな理由で戦争をし、戦火に晒すわけにはいかない。テディ様のいうことはもっともだ。

 しかし、大国のくせにプライドのためにそんなことをするのか?


「シンバレッド王国は何も処分を受けなかったのですか?」


 元々の原因を作ったシンバレッド王国はどうなったのだろう?


「帝国に国を乗っ取られたよ」


「乗っ取られた?」


「あぁ、入り込まれて、今は帝国が国を動かしている。表立って発表はされていないがそのうち属国になったと発表されるだろう。シンバレッド王国は軍事力が弱い。王家も平和ボケでのんびりしていた。」


 そんな、怖すぎる。


「帝国ではシンバレッドの王女と私がどこかで出会い真実の愛に目覚めた。皇子はふたりの気持ちを尊重し、ふたりを応援し、ふたりの結婚を認めた。我が国ではそんな話は流れていないが、帝国ではそう言う話になっているんだ。王女は体が弱いので婚姻式や夜会など長い時間人前に出ることはできない。結婚式も王宮のチャペルでしたと国民には伝えられた」


 あぁ、そうか。そうだった、それで婚姻式をした印象が無かったんだ。


「では、正妃様はここにはいないのですか? いまどこに?」


「多分帝国の第2皇子に監禁されている」


「監禁?」


「第2皇子は自分を裏切った王女が許せなかったようだ。きっと媚薬漬けだろう」


 怖い怖い怖すぎる~。


 やったことの倍返しされちゃうんだ。


「でも、使者が来ていたではありませんか?」


「あれは帝国の使者だよ。シンバレッド王国の使者と偽って参加していたんだ」


 見張られているのか。


「さっき、使者にロゼにこのことを話す許可をもらった。この秘密が他にもれれば我が国は帝国から攻められ戦火になる。ロベルトは殺され、国王と私は責をおう。ロゼには話したかった。知らない方がロゼは幸せだと思う。でも私はロゼに嫌われなくない。不信感を払拭したかった。自分が可愛いからロゼをまきこんでしまった。ダメな男だ」


 ちょっと待った。それって私が話したらこの国は終わるってこと? 


「私が話したらどうするのですか?」


「ロゼが話したのなら仕方ないよ」


 いやいや、仕方ないじゃないでしょう?


「私を信用しているということですか?」


「もちろんだ。秘密の続きはまだ少しある。結婚して5年経ったら正妃は病死したと発表することになっている。そこで我が国とキンバリー帝国の約束は終わりだ。ロベルトは我が国に戻るもよし、そのままキンバリー帝国の皇女に婿入りするのもありだ。本当なら私は結婚するつもりはなかった。だからキンバリー帝国の話を受け入れたんだ」


 テディ様は顔を上げて私の目をじっと見た。


「私には好きな人がいた。でもその人には婚約者がいて、私の思いは届かないと諦めていたんだ」


「そんな方がいらしたのですね。その方は今は?」


「ここにいる。私の目の前に」


 へ? 私? 私なの?


 テディ様の突然の告白に私は固まってしまった。


 国同士の大変な問題より、私を好きだったという告白の方が私には衝撃的だった。

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