第6話 正妃様に会ってみたい

 もうすぐ婚姻式だ。


 今日はウェディングドレスが出来上がってきたと連絡を受け、試着の為に登城した。

 側妃なのにこんなゴージャスなドレスを着て大丈夫なのだろうか? 正妃様は気を悪くしないだろうかと思う。


 もしも、私は正妃で夫が側妃を娶ることになったらそれだけでぶち切れるだろう。   


 大聖堂で豪華なドレスを着て婚姻式だ? 舐めとんのか! この泥棒猫! 馬鹿ゴリクマ! と怒鳴り込むだろう。


 私は正妃様に会いたかった。会って話をしたかった。

 敵意がないことを伝えたかった。


 何度も会いたいとお目通りを願いでたのだけれど、会わせてもらえなかった。


 やはり、側妃になんて会いたくないわな。

 体調が悪いので離宮にお住まいだと聞いているが、どの離宮だかも教えてくれない。


 みんは正妃様の話をすると何故かはぐらかす。


 余程私に会いたくないのか? それとも会わせたくないのか?


 私は式を挙げて王宮に入る前にどうしても会いたいとテディ様に言った。


「どうしてもお会いしてご挨拶がしたいのです」


「無理だ」


「そこをなんとかお願いします」


「正妃には会えない」


「どうしても会わせていただけないのなら挙式は致しません」


 テディの顔色が変わった。何か隠している。ひょっとして正妃様の病が重いのか?


「病が重いのですか?」


「……」


 テディ様はダンマリを決め込む。


 私たちの間には、また沈黙が流れた。


「ロゼを必ず幸せにすると誓う。だから私を信じて欲しい。頼む」


 テディ様は大きな身体を折りたたむように私に頭を下げた。


「わかりました。もう言いません。私は波風を立てたくないだけです。正妃様に敵意を持っていないことを解っていただきたかったのです。だって、テディ様を取られたと誤解されて命を狙われたりしたら嫌ですもの」


 折りたたんだ身体を持ち上げて、テディ様は驚いた顔で私を見た。そして私の手を掴んだ。


「そんなことは絶対させない。ロゼのことはこの命をかけても守る」


 重いし痛いわ。命をかけられても困る。


「痛いです」


 抑揚なく言ってしまった。


 テディ様は驚いて手を離した。


「すまなかった。力加減がよく分からなくて……申し訳ない」


 そう言ってまた身体を折り曲げた。


 力加減がわからないって、まるで女性にあんまり触る機会がないみたいに言う。

 奥さんいるんだよね。しかも病気だし、お見舞いに行ったりしたら、手を握ったりしないのかな? 


 もう長いこと会ってないのかもしれないな。


 正妃様なんだか気の毒だわ。


 私はウェディングドレスを試着しながら正妃様のことを考えていた。 

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