第5話 噂の訪問者

 俺、早瀬はやせ 勇矢ゆうやは絶賛迷子だ。高一年にもなって情けねぇと自分でも思うが言い訳をさせてくれ。何故俺がこんな目にあっているのかを。


 まずは俺の生い立ちでも話そう。その言い訳にも関わってくることだからな。俺には産まれた時から父親と呼べる存在がいなかった。だから母さんが女手一つで必死になって働きながら俺を育ててくれた。俺はそんな母さんが大好きだったが、この度母さんがあの世へと行ってしまった。交通事故らしい。らしいというのは、警察から聞いた話で、実際に俺が現場を確認した訳じゃないからだ。俺には親戚も居なかったからこの先どうすれば良いのかと、母さんの葬式の後ずっと悩んでいた。そんな時、母さんの遺品の中からあるメモを見付けたんだ。メモには"私に何かあればここへ行きなさい"という文字と一緒に、住所が書いてあった。しかしこの住所、スマホで調べても一切出てこない架空の住所だった。どうしたもんかと頭を抱えていると、メモの裏に"東京のてきとうな裏路地に行き、目をつぶって歩きなさい。貴方ならきっと行ける。"と書いてあった。東京のてきとうな裏路地ってなんだよ。からかってんのか?とも思ったが、母さんはこんな時にはふざけないと知ってたから、信じてみることにした。


 翌朝、俺はスマホと充電器、財布と腹が減った時用の菓子パンを鞄にいれ、東京へと向かった。とはいえ埼玉の県南に住んでたから直ぐに着いた。やはり都会。駅前にはビルが建ち並び、裏路地なんて沢山あった。俺は、比較的綺麗な裏路地を見つけ、早速目をつぶって歩いてみることにした。考えるより先に行動。それが俺の癖だから。そうして一歩、また一歩と歩いてみた。十歩ほど歩いて目を開けると、そこはさっきいた裏路地おは全く違う裏路地だった。一瞬見間違えかって思ったけどそんなんじゃないって直感でわかった。まあそんなこんなで俺は絶賛迷子というわけでだ。


「スマホも圏外だし…なんなんだよッ……」


取り敢えず裏路地から抜けるか?そう思い早速走って大通りらしき場所に出た。だけどそこは…


「はッ…?嘘、だろ?」


そこは、本当にさっきまでいた東京だったなんて信じられないような場所だった。あんなに建ち並んでたビルなんて一つもなく、街灯はガス灯のような物に変わっていた。町の雰囲気を一言で表すと、なんとゆーかその、あれだ。教科書なんかに載ってる大正時代だ!それに加え気になったのは大通りに行き交う人々の服だ。確かに俺と同じような服を着てる人もいるんだが着物?浴衣?いや着物か。着物を身に付けてる人もちらほらいる。そして何より…


「なんでカエルやらキツネやらが普通に服着て出歩いんだよッ!」


っていうか目が一つの奴とか首がなげーやつとかもいるし!あれって妖怪だよな?そうだよな?夢とか幻覚とかじゃねぇーよな?……マジかよ!?一体この先俺はどうすりゃいいんだ…そう途方に暮れていると後ろから誰かに声をかけられた。


「君、迷子かい?」


その言葉に慌てて後ろを振り向くと、そこには真っ赤な鬼がいた。この時俺の脳内に正常な判断が無く、唯一口から出たのは


「うわあぁぁぁぁ?!」


という叫び声だった。俺の中にある本能が"逃げないと"と言ってる気がして、俺は叫んだままこの場を走り去った。見たこと無い場所で、何がなんだか分からなくって、息が切れまくってるのも無視して走った。走った方向なんて覚えてないけど、何かの偶然でまた来た道に戻ってる事を願ながら走った。頼む!戻っていてくれ!!


 暫く無意識に走って走って、ふと足を止めるとまた見知らぬ場所にいた。辺りを見渡すと住宅街の様に見えたが建っている家はどれも日本家屋だった。これからどうすれば……そう途方に暮れてると黒よりの銀のような色をした髪をしている同い年くらいの人が歩いていた。男か女かは分かんないけど見た目は普通の人間だったから一気に親近感を感じるな。早速ここがどこだか聞いてみよ。


「あの、ちょっと!すみません!」


そう叫ぶと相手はこっちを向いた。そうして見えた顔は整った顔立ちで、黒目の俺とは違う灰色の目をしていた。海外のやつだったのか?でも顔立ちは日本人っぽいんだけどな…


「突然すみません!俺、迷子になっちまって!」

「……何処に行きたいの?」


やっぱり日本語喋ってるし日本人だよな?取り敢えず、これでなにか変わることを願うしか、今の俺には出来なかった。

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