第4話 好かない奴と情報

 零娃が店の外へと出たことを確認し、私は目の前にいる化け猫を睨み付ける。何故こんなにも奴が好かないのか、私自身全ての理由を解りきっていないのだが。根本的に合わないのだろう。こいつと私の性格は。


「おー怖い怖い。そんなに睨まないでよ。シワが増えるよ?」

「余計なお世話だこの下級妖怪めが」

「え待って酷くない?」


そう言い、嘘泣きをしながらご自慢であろう茶色の尻尾と耳を左右に動かし此方を見てくるが、正直目障りでしかたがない。さっさと交渉を済ませて事務所へ戻るとしよう。


「先程の依頼だが……三日だ。三日でこの河童について調べ尽くせ」

「ハァ?!無理に決まって…」

「お前がお遊びに掛ける時間を使えば出来る筈だが?」

「…………」


こいつが今までどれだけ賭博や女遊びに使ってきたかなど鷹が知れている。不幸か否か、こいつとは長い付き合いだからな。すると、目の前の化け猫はゆっくりと無言を断ち切るかのこどく口を開いた。


「四日だ。四日なら何とか…」

「成る程二日だな」

「君には耳がついてないのかい?!」

「なら三日だ。解ったな?」

「……ハイハイ、解りましたよ~」


交渉は成立した。ならば後はここを離れるだけだ。私は直ぐ様扉へと足を進め、ドアノブへと手を掛けようとした瞬間、零娃が扉を開いた。理由は大方予想がついている。


「博狼、八咫烏やたがらすだ」

「あぁ、来たか」


八咫烏。それはこの宵において自警団の様な役割を担っている、政府公認の組織だ。そして、私達の様な闇で暗躍するような者の天敵とも言える存在でもある。やはり、すぐ終わるであろう交渉の間霊娃を見張りとして外で待たせたのは正解だったようだ。奴らと鉢合わせたら対応が面倒だからな。直ぐ様この場を離れようとすると、化け猫が口を開いた。


「そういえば、八咫烏で思い出したけどキミ達を追っかける担当のじいさん。引退して孫に引き継ぐらしいよ~」

「あの人の孫というと…」

「それよりそろそろ此方に八咫烏がくる頃だ。早く行くぞ」

「あっ!待って!後もう一つ!」


まだ話すことがあるのかこの化け猫は。確かに情報を対価無しで貰える事は悪くない。しかし今は時間に余裕があるわけではない。無視してしまおうと外へ出ようとした時、早口で伝えてきた。


「こっちの世界に向こうの世界からの訪問者が来たらしい。八咫烏は隠したがってるけど」

「成る程。ありがたい情報に感謝するよ」

「こんな奴に感謝などしなくて良い」

「感謝くらいしてくれないかなァ!」


とはいえ…訪問者か。霊娃が興味を持ちそうだ。私も例外ではないが。そして、私達は今度こそ外へ行き、雑貨屋を後にした。


 帰りは行きとは別の小道を通って行った。この辺一体の裏道は入り組んでいるため、上手く使えば奴らに事務所の場所がバレぬように帰ることも可能だ。仮に、事務所の場所がバレたとしても問題は無いが仕事がしにくくなるのは目に見えている。さて、零娃に交渉の結果を伝えながら情報交換でもするとしよう。


「交渉だが、三日でやってくれるそうだよ」

「交渉…ね。そういう事にしておこう。とはいえ、あの人が引退か。一生私達を追い続けるのかと思っていたよ」

「まあ、歳なんだろう。」


零娃は交渉をなんだと思っているのはさておき、あの担当官。いや、元担当官は拳銃で撃ち殺そうとしても平然としてそうで骨があったのに。残念だ。ただ、歳と言った時零娃が私の方を見たことは気が付かないフリをしようじゃないか。


事務所の前まで着いたところで、私はあの元担当官の孫である、新しい担当官が骨のある奴であることを期待しつつも、答えが予想できている質問をした。


「新しい担当官は私達を捕まえられると思うかい?」


その問いに、零娃は笑みを浮かべながら答えた。


「いや?そんな事、あるわけがないだろう。なァ?」


事務所の前に設置されたライトにより照らされてた彼女の姿は、とても楽しんでいる様に見えた。そして、彼女と、零娃と手を組むということは、何一つ間違えていなかったとさえ思わせた。


「さて、早く中に入ろうじゃないか。今日のスイーツはなんだい?」

「その様なはなしは事務所へ入ってからにしようか。霊娃」


そう言い私達は事務所へと入っていった。

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