第3話 一癖ある情報屋

 時計の針が五時を回り、辺りが暗くなり始め た。そろそろあの情報屋も戻ってくる頃だろう。私はソファーの直ぐ近くに立っているコートラックに掛けて置いた黒のロングコートを身に纏い、同じく黒の皮手袋を身に付けた。ハクは情報屋の元へ行く事を察したのか、不機嫌そうな顔をした。しかし、私は構わずハクの黒のロングコートと黒のホンブルグ・ハットを手に取り差し出した。


「さて、そろそろ行こうか」

「……仕方ない」


そう言いながら、ハクは諦めた様に手渡したコートを素早く羽織り、帽子を被った。そして、仕上げと言わんばかりにコートの内ポケットから白手袋を取り出し、手にはめた。相変わらず私達は黒が好きなのだと実感すると同時に、手袋という一つのポイントで、全ての好みが同一ではないとも実感する瞬間である。


因みにこの姿は何でも屋としての姿であり、普段はこの様な姿では断じてない。普段からスーツ姿が多いと言うのに黒のコートや帽子等を身に付けているなんて明らかに不審者だしね。


「相変わらず用意が早いね」

「そこまで用意する事が無いからな。無駄話は程々にしてさっさと行くぞ」

「……私が一人で行こうか?」

「絶対に駄目だ。アイツと二人になるんじゃない」

「ハイハイ」


何故ハクはここまであの情報屋を毛嫌いするのか……それでいながら私が一人で行くというと毎回止め、わざわざついて来る。まあ、あの情報屋の性格があれだからなのだろうがあれくらいなら太刀打ち出来ると言うのに…良く分からない。


私達は事務所を出ると、人通りがほぼ消え失せる程の場所まで歩き、一軒の雑貨屋の前までやってきた。数m先から店の明かりが漏れ出ているのを見ると店にいるのだろう。早速私達は店へと入った。


「情報屋。仕事を頼めるかい?」

「おやおや?これはスピリタスのお二人がボクにご依頼かい?」


そう言いながら此方へやって来たのは情報屋、もとい化け猫の祅冥ようめいだ。博狼程ではないがコイツも何処か掴めない様な性格をしている。そして一癖…いや二癖程あるが対して問題は無い。……ハズだ。


「あぁ、今回はこの河童について頼むよ」

「はいよ。任せんさ~い。あ、代金はこれくらいで」


そう言うと相場より0が二つ程多い伝票を持ってきた。……理由は察しがついたが念のために聞いておこう。


「さては…負けたな?」

「あったり~それじゃあその金額で宜しく!」


この情報屋…いや祅冥は重度の賭け好きギャンブラーである。そのせいかは知らないが、昼間は囲碁や将棋を使った賭博等を行って毎回結構な金額を使っている。そのため、依頼料はその賭けの勝ち負けによるのだ。負ければ今回のように桁が増える代わりに、勝てば多少はまけてくれるだけ良いと思うしかない。しかし、コイツは…


「霧咲ちゃんがボクと逢引デートしてくれたら代金をまけてもいいよ~」

「いや、そんなことをしなくてもこの代金で払うので構わないよ」


 コイツは賭けだけに飽き足らず女好きでもあるのだ。そのため、花魁等にも金を注ぎ込んでよくツケ払いをしているのらしい。そして、多少の好みはあるようだが基本的に女性なら何でも良いらしいが詳しい事は知らん。特別知りたいわけでは無いしね。


「期間は五日で頼めるかい?」

「五日ァ?そりゃ随分と難しい願いじゃないか!」


 やはりこの期間だと短すぎるのか。さて、どうしたものかと良案を考えていると、博狼が"私が交渉するから店の前で待っててくれないかい?"と囁いてきたので店から出てきた。店が情報屋ということもあり外から中の様子や声は一切分からないため、大人しく待つ他無いだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る