第2話 とある河童の依頼

外からは本棚に隠れて見えない様になっている応質問が応接スペース……とは言っても濃い抹茶の様な色をした二人掛のソファーが木で作られたローテーブルを挟んで二つ、机の横に同じ色のソファーが一つしか置いていない。そこに依頼者を座らせ、私は向かいの席に、博狼は紅茶を入れ、一人掛のソファーへと腰掛けた。早速依頼について聞いていくか。此処は何でも屋。するがゆえに依頼者……主に裏で暗躍するような者の個人情報と言うものは直接散策するべきではない。何時もの通り情報屋に頼むとしよう。まぁ、稀に信憑性に欠けるため私達で直接調べる事もあるし、依頼者が自ら情報を晒け出すと言うことだってある。


「依頼についてお聞きしても?」

「大したことじゃ無いんですがね~?此を届けて欲しいんですよ~」


そう言って河童が自身の内ポケットから取り出し、テーブルの上へ置いたのは一つの封筒だった。何やら書類等が入っているのか少々分厚くなっている。そして不自然に膨らんだ部分が見受けられるにおそらくUSBメモリーでも入っているのだろう。何はともあれ、大切な物に代わりはなさそうに見えるが………


「いったい何処の誰に届ければ良いんですか?」

河虎新聞社かわどらしんぶんしゃの編集長にお願いします~あっ、依頼料はこれで~」


そう言って0が幾つかついている小切手を渡してきた。十分な金額と言えるだろう。相場より少々高いだろうが向こうから払ってきた物だ。貰ってもバチは当たるまい。


「確かに受け取りました。後はお任せを」

「じゃあ、これでアッシは失礼します~」


依頼者はそう言って去っていった。私は博狼の入れた紅茶を飲み干した後、テーブルに置かれた封筒を手に取る。そして、先程感じた違和感の正体を理解した。


「中身は偽物だったんだろう?」

「あぁ。中身はただの薄っぺらい紙で出来た箱だろう。USBメモリーは本物だろうが中身はからのファイルだけなんじゃないかい?」


そう言いながら私は壁に掛けた外出用のロングコートの内ポケットへと忍ばせた。


「とはいえ相変わらず演技が上手いな。博狼」

「おや……急に何を言い出すんだ?」


この男はどう思って愛想が良く人柄の良い様に振る舞っているのだろうか。特定の人物の前や一人の時はとても冷たい顔をしているのに……しかしまぁ、私に素を見せてくれるのは良しとしよう。だが、素の表情はそこまで変化が無いのでつまらないと言えばそうなのだが。


「もう既に素が出てるぞ……良いじゃないか。別に出先でも事務所に人が居るわけでもない」

「……ならそうさせて貰おうじゃないか」


"何時もそうしているくせに"そうボソリと言い、飲み干した紅茶を片付けようと席を立った時、私はなにもない場所で盛大にすっ転んだ。幸い、ティーカップは割れていない。


「ハク…能力を使ったでしょ?」

「おやおや何の事だ?誰もレイが転ぶ確率を上げていないが?それより君もさっさと素を出したらどうだ?」


──博狼 逝路 『確率操作』──


こいつ…絶対能力を使って私が転ぶ確率を100%にしたでしょ。後ちゃっかりティーカップが割れない確率も100%にしてるでしょ。不満を抱きつつも自分のせいということもあるのでほんの少し反省しよ。そんなことを考えながらハクの差し出した手を取り立ち上がった。因みに、ハクは博狼の、レイは私のあだ名の様なものである。何気にいちいち呼ぶのが面倒臭いというような理由で使っているが、いつの間にか定着している。


「そんなに何回も確率100%にすると今日の不運が大変なとこになるよ」

「なに、此くらい大したことじゃない」


……私は知ってるぞ。この前同じことを言ってその日ハクが楽しみにしていた小説が行方不明になったのを。あれ私が原因…というより借りてただったのだけどバレてないから良しとしよう。いや、良しとさせてくれ。このせいでハクの何時もつくってくれるお菓子が食べられないなんて悲しすぎるッ!


「もう暫くしたら情報屋のところに行こ。今は居ないだろうし」

「アイツはどうも気に食わん」

「まあまあそんなこと言わずに」


そうして、それまでの時間をそれぞれ好みの小説を読みながら過ごすのだった。因みにこの後またなにもない場所で転んだがハクはなにもしていなかった様で少々驚きながらまた手を貸してくれた。……え?なんで?

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