裏世界に住む何でも屋

霧裂 蒼

新たな幕開け

第1話 始まり始まり

 よいの裏路地にある比較的小さな古本屋。といっても普通の人も来る程度の裏路地だが……その場所は私、霧咲 零娃きりさき れいあと相棒的存在である博狼 逝路はくろう せいろが共に営んでいる何でも屋の事務所だ。表向きは人探し等をやっているが、裏ではガッツリ黒い仕事もしている。依頼があれば対価次第で引き受ける。……たまに引き受けないけど。


 さて、こうやってのうのうと私達の説明をしているが、私達は絶賛依頼遂行中である。依頼内容は木から降りれなくなった猫の救出だ。実際現場に行ってみると、高さ4~5mの木の上に、金色の鈴をつけた三毛猫が降りれなくなっていた。


「なんであんなところにいるんだあの猫は…」

「高い場所に移動するのは猫の習性だから仕方がないんじゃないかい?」

「取り敢えず能力使って助けるか」


 ───霧咲 零娃『空間操作』───


 そうして、私は右手から空間を作り、猫のいる地点の空間を繋げ、そこから腕を伸ばして猫を捕まえた。空間から手を完全に取り出すと、その場にはなにも無かったかのように、空間が消えていた。猫は暴れていたが、近くにいた飼い主を見て安心したように私を蹴って飼い主に飛び付いた。………えぇ…なんで?


「猫は飼い主の方が良かったようだね」

「仕方ないとしても悲しいんだが……」


 とはいえ、飼い主の方はとても嬉しそうにしているので良しとしよう。これくらい料金もいらないな。それに、依頼と言ったが実際は通りすがりに困っているのを見かけただけだし。


「博狼、そろそろ…」

「おや、では行こうか」


 事務所につくと、博狼は本棚から一冊の小説を取り出し立ったままなのにも関わらず読み始めた。エメラルドの様な色をしたツリ目に白髪、そして左目に片眼鏡を付けているこの男、博狼は世間で言うイケオジ?という言葉が合う顔をしている。何故そこまで顔が良いのかは知らないが正直なことを言うとちょっとだけ羨ましい。対して、私は血のような色をしたツリ目に黒髪を腰まで伸ばしている。二人で共通していることと言えばツリ目ということとスーツを好んで着るということ位である。


 時刻が昼時を過ぎた時、古本屋へ河童がやってきた。希に依頼とは関係無い者が誤ってやってくる時があるため、念のための言葉をかける。


「いらっしゃいませ。本日はどの様なご用件で?」

「なに、ちょいと依頼をしに来ただけですよ~」


 どうらや、"何でも屋"のお客様だったようだ。それでは、もてなさなければ……ね?

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