第63話 衝撃のNTR風なキス

 舞に誘われ、広季は自宅にお邪魔した。これでお邪魔した回数は4回目だ。


「今日も密着してイチャイチャするの! 」


「はいはい。舞さんが求めるなら、好き放題どうぞ」


 舞の欲求を満たすため、広季は受け入れる。舞が広季の手や胸に触れても、特に抵抗しない。逆に、交際し始めてからは、スキンシップされれば、やり返すようになった。


 現に、舞は広季の首に手を回し、ハグする。返すように、広季は舞の背中に両手を回す。


「ふふっ。森本君の温もり、めっちゃ落ち着くの。それに、前はうちに、されるがままだったのに、最近はやり返すように、身体に触れてくるのも嬉しいの。カップルみたいだよ」


「流石に俺も男ですからね。女性に一方的に黙ってやられてばかりではいけませんからね」


「ほうほう。ちょっとカッコいいこと言うね。それと、1つ注意事項。もう付き合ってるんだから、敬語は禁止ね。タメ口でお願い」


「ええ~。いきなりは難しいですよ。ずっと舞さんとは敬語で会話してたんですから」


「ダメ。カップルらしくないから。早くタメ口にして」


「わかりました。いや…わかったよ。ああ~やっぱり慣れないな〜。違和感ありまくり」


「ふふっ。まあ、徐々に慣れてね」


 微笑ましい光景が、舞の自宅のリビングに流れる。広季と舞はゼロ距離で未だにハグする。当然、舞の豊満で制服からでも形が露な胸は広季にこれでもかと密着する。


「…ただいま」


 覇気のない声が、玄関からリビングに届く。か細い声だった。だが、広季には聞き覚えのある声色だった。瞬時に元カノの光の声色だと認知した。


 遠慮するように、ゆっくり光はリビングのドアを開けた。


「お姉ちゃん…手洗いうがいしたいから、ちょっとお邪魔してもいい? 」


 ひょっこりはんのように、身体に大部分をドアで隠し、顔だけ覗き込み、光が尋ねる。姉の舞に怯えたように、光はおそるおそると様子を窺う。身体は微量に上下に震える。


「う~ん。手洗いうがいか~。ならしょうがないかな。いいよ」


 舞は了承する。つまり、リビングに入室してもいい合図だ。


「ありがとう。すぐ抜けるから。そこは…安心して欲しい」


 リビングに足を踏み入れ、ドアを優しく音を立てずに閉める光。自宅にも関わらず、光は早歩きでリビングを通過しようと試みる。早歩きもドタドタせず、忍者のようなすり足である。目的地はおそらく洗面所だろう。


「ねえねえ、光ちゃん。うちと森本君、付き合い始めたんだよ」


 急いで洗面所へ移動する光の背中に、薄く笑みを浮かべながら、舞が光の背中に言葉を掛ける。


 電池が切れたロボットのように、光の動作がぴたっと止まる。


「…そ、そうなんだ。それは…よかったね」


 振り返らず、舞に視線を向けず、光は簡単な祝いの言葉を口にする。光は俯き、暗い表情を形成する。色々な感情が光の胸中を支配しているようだ。その中に、後悔や悔しさの感情は当然、存在するのだろう。


「他にも、仁美ちゃんとも海ちゃんとも付き合ってるんだよ。森本君はモテ男だよね。まあ、当然だよね。優しくて可愛いし。魅力だらけだよね」


 広季のことを褒めちぎる舞。


 ハグしている最中、照れや嬉しさから身体に多大な熱を帯びる。自身の体温が舞に伝わっている。そう考えると、恥ずかしさも込み上がる。未だに、ハグした状態なので、熱い熱い体温は舞に直に伝わっただろう。


「……」


 何も言葉を返せず、泣きそうな瞳で、光は舞を睨む。明らかに、目には怒りを帯びる。


「悔しい? 悔しいよね。優良株を自ら捨てたんだもんね。それは悔しいに決まってるの。うちは広季の正式な彼女だから、こんなエッチなこともできるよ」


 広季の首から両腕を解放し、舞は広季の頬に手を添える。


「舞さん? 」


 真剣な舞の瞳が広季を捉える。大きくぱっちりした目と広季の目が合う。


「カップルらしいこと、やっちゃおうか? 」


「うん? …う、う~~~ん」


 いきなり舞は広季の唇を奪った。柔らく弾力ある感触が広季の唇全体に伝わる。広季と舞の唇が重なった結果、生まれた産物だ。


 広季は大きく目を見開く。突然の舞の行動に心が追いつかず、パニックになる。だが、決して逃げたりはしない。唇は重ねたままだ。パニックな状態ながらも、不思議と舞の唇の感触を失いたくなかった。


 一方、光も広季と同様に目を大きく見開く。ぱっちりした目がさらに大きく見開く。まるでフィリピンメガネ猿のようだった。


 舞の破天荒な行為に、光は驚きを隠せない様子だった。


「ぷは~~」


 長い長いキスを終え、息継ぎのため、舞は広季の唇を解放する。2者間の唇の間に、糸のような細い唾液が伸びる。


「ファーストキス…広季君にあげちゃった。どうだった? うちは最高だったよ。幸せで心が満たされたの」


 高校生離れした妖艶な表情を形成し、おっとりした空気を舞は醸し出す。感触が忘れられないのか。自身の唇を、人さし指と中指で何度も触っていた。


「お、俺も最初は戸惑いましたが。最高でした。キスは最高だなって感じました」


 本音を広季は口にする。欲望に従えば、まだまだキスを堪能したい気分だった。


「そうなの。それはうちも嬉しいの。じゃあ、もっとしよう? 」


 誘惑するビッチのように、舞は甘い言葉を投げ掛ける。頬は真っ赤に紅潮し、色香も漂う。


「う…うん」


 敬語ではなく、自然とタメ口になっていた。舞の誘惑にあっさり敗北を喫し、次なるキスを受け入れた。


「うぅん…」


 再び、舞は広季の唇を奪う。広季と舞の唇が再び重なる。甘い吐息が広季の口元をくすぐる。風に似た吐息が、広季の口元に吹き掛かる。


(さっきもそうだったけど。やわらけぇ~。それに、キスってこんなに気持ちよくて美味しいものだったんだ。舞さんの唇、美味すぎ!! )


 食べ物や飲み物では表現できない、不思議な美味な風味が広季の口内を支配する。キスをする度に、その風味の拡がりは強化される。


「チュッ。クチュ…。…はぁはぁ。んちゅ…」


 キスのレベルはエスカレートし、舞の舌が広季の口内に侵入する。


 広季も興奮して、ムードを形成していた。そのため、動揺せず、スムーズに舞の舌を受容し、自身の舌と積極的に絡める。


 クチャッ。ベチャッ。


 ベロチューによって生じる生々しく、エロく嫌らしい音がリビング内に木霊する。


「うぅ~ん。もっと。もっと来て。もっと激しく来て広季君」


 ベロチューを交わしながら、途切れ途切れの聞き取りにくい声で、舞は要望を伝える。


 広季も舞の気分を上げるため、さらに激しく舌を絡める。その甲斐もあり、ビクンッと舞は身体を上下に震わせる。


 光の前で熱い熱いキスが何度も何度も繰り広げられた。広季と舞は抱き合いながら、AVのようによだれを垂らしながら、舌を絡め続ける。


「ッ…」


 流石に耐えられず、光はリビングから洗面所に逃げ込んだ。


 洗面所のドアを閉め切っても、生々しい舌の絡まる音は光の鼓膜を攻撃する。音を聞くだけで、広季と舞の熱いキスが連想できる。


「うぅ…。うぅ~~」


 多量な涙を滝のよう流し、感情をぶつけるかの如く、光は洗面所で必死にゴシゴシ手を洗っていた。洗面所に大量の涙が降り落ちる。


「ひどい。ひどいよ。流石にやり……すぎだよ」


 手を洗った後、光は制服で涙を拭く。だが、不幸にも拭いても拭いても涙は溢れる。留まることを知らなかった。制服の袖には、水たまりのようなシミが残る。

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