第61話 告白
次の昼休み。
「ねえ、ちょっと私に付いてきてもらっていい? 」
昼休み突入直後に、仁美は広季に声を掛ける。2人は隣の席なため、4時間目終了のチャイムが鳴り響いた直後に、声を掛けた。
「いいけど。どうしたの? お昼ご飯食べないの? 」
率直な疑問を口にする。広季の机には購買で購入したサンドウィッチが3つほどあった。今から食するつもりだった。
「後から食べる予定なの。ちょっと大事な用件だから早く行こ」
いつになく真剣な表情で、仁美は広季を催促する。両腕を組み、少しイライラしているようにも見えた。
「う、うん。わかった」
らしくない仁美の態度が引っ掛かりながらも、要望に従い、席から立ち上がる。
「今から屋上に行くから。付いてきてね」
仁美が歩を進め、広季も後を追う。
教室の後方の戸から退出し、廊下に出て、最寄りの階段を1段1段上り、屋上のドア前に到着する。
特に立ち止まることなく、仁美は屋上のドアを開放する。
開けた途端、開放的な屋上のスペースが広季の視界に飛び込む。それと同時に、海と舞の姿も視認する。2人とも屋上の真ん中辺りで待機する。
「東雲に。舞さんも。どうしてここに」
「森本さん」
「森本君」
海も舞も仁美と似たような態度だった。普段のように愛嬌の笑みを振り撒かない。何て言うか、多少冷たく不愛想だった。
その態度の変化に広季は多少なりとも不気味さを覚える。その不気味さは広季に怪訝さも抱かせた。
「今からね。広季に大事なことを伝える。そのために、私達3人は屋上に集まったの。そして、広季をここに連れてきた」
代表するように、仁美が経緯を説明する。同意の意志を示し、無言で海と舞が首肯する。
仁美、海、舞は横に1列に並ぶ。
「私達は広季のことが好きなの」
まず真ん中の仁美から口を開く。
「へ? 」
突然の告白に広季の目が丸くなる。驚きから僅かに視界がぼやける。3人の立ち姿もぐにゃっと多少歪む。3人の身に付ける制服やスカートも歪む。
「驚くの無理もありませんよね。でも本当なんです。わたくしたちは中学時代から森本さんに好意を寄せていたんです」
仁美の告白に、海が補足する。存在を主張するように、1歩前に足を出す。
「お、おいおい、冗談だよね。そんなの有り得ないよ。俺が学校でも有名で人気な仁美、東雲、舞さんから好意を抱かれてるなんて。ライクの方ですよね? 」
「ライクじゃなくラブなの。本当にうち達は森本君のことが大好きなの。それほどあなたは魅力的な男の子なの」
必死に現実を認めようとしない広季に、今度は舞が真実を告げる。舞は1歩だけ進み、広季を真面目な顔で見つめる。舞のパッチリした緑の瞳が広季を見据える。
「そんな…買い被りすぎですよ…」
衝撃の事実に、広季は絶句して、これ以上何も言葉が出なくなる。誤魔化すように、下方に視線を逸らす。
「相変わらず謙虚だね。そういうところも魅力的なんだけど」
「ですね」
「そうなの」
仁美、海、舞はようやく口元を緩めた。思わずといった形で、3人から笑みがこぼれた。
その光景を目にし、広季は些か安堵感を覚える。ようやく彼女達らしい姿が見えた気がした。
「だから、私達は広季。あなたに好意を伝える。せぇ~の」
「わたしと」「わたくしと」「うちと」
「「「付き合ってください」」」
仁美、海、舞は息を合わせて、手を前に出して頭を下げる。
「この中から付き合いたいと思った子の手を握って。広季に選んでもらいたい」
仁美が頭を下げたまま、広季に伝える。
屋上には沈黙が流れる。シーンっと静寂な空気に包まれ、誰も一言も喋らない。仁美達は未だに頭を下げた姿勢をキープする。
衝撃の展開に広季の頭が真っ白になる。ほぼ思考が停止した状態だ。焦りも生まれ、冷静に物事を判断できない状態だ。
(どうすればいいんだ。俺がこの3人の美少女から1人を選ばないといけないのか。そんなの無理だ。俺にそんな資格ない。でも選ばなけらば、3人の気持ちを無下にする)
広季の心の中で葛藤が生まれる。手足も落ち着かず、バタバタさせる。
静寂な空間がより広季に圧力を掛ける。短い間でも激しく悩み、頭も割れそうだった。
「ご、ごめん。やっぱり。俺には選べない」
自身の情けなさに肩をがっくり下ろす広季。
「ごめんなさい。どうしようもない男で」
誠意を込めて、広季は謝罪する。きれいに45度ほど頭を下げる。申し訳ない気持ちが広季の胸中を支配する。
仁美、海、舞、3人が3人共魅力的で、この中から1人を選ぶなどできなかった。優柔不断な性格を呪いたかった。頭を上げれば、悲しげな表情を浮かべているであろう3人と視線を合わせる勇気もなかった。3人に失望されるのが怖かった。
「そっか。選べないか」
仁美の声が広季の鼓膜を刺激する。
仁美の悲し気な表情を想像すると、頭を上げられない。次の仁美の言葉が予想できない。だが、怖くて怖くて仕方ない。言葉を発さないで欲しいと願ってしまうほどに。
「じゃあ、3人と付き合わない? 」
「それが得策ですね」
「そうしたら不幸になる人間もいないから。皆がハッピーになるの」
仁美の言葉に海と舞も同調する。不思議と3人とも嬉しそうだった。3人に失望の顔は浮かばない。どちらかと言えば、安心しているようだった。
「へ? 」
その発言に、広季は顔を上げる。驚きのあまり、無意識に顔を上げてしまった。
仁美、海、舞は微笑んでいた。3人とも目は幾分か細まり、口元から白い歯が露になっていた。
「じゃあ、私達を宜しくね」
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