第57話 冷徹対応で恋人感漂うざまぁ攻撃
広季と手を繋いだ状態で海の自宅到着した。
紺色を基調とする家であり、3階建ての大きな1軒家で、相変わらず巨大だった。広季も目にするのは2回目だが、以前と同様に圧倒された。
「ね、ねぇ。そろそろ手を離したほうが良いんじゃないか? ずっと繋いでるのも何か変だし」
海の自宅前で、広季は尋ねる。流石にずっと手を繋いでいる訳にもいかなかった。広季と海は付き合っていない。それが起因して広季は背徳感を覚えていた。
「ダメです! 絶対にまだ離さないでください! もし離したら、わたくし泣きますよ」
張りのある口調で拒否し、海は首を横に振った。海にしては珍しく、広季に対して強く意志を主張した。普段、海が広季の言葉を拒否することはまず無い。基本的に広季の言動を海が受け入れる。ほぼ全部受け入れていたと言っても過言ではない。
「わ、わかった。流石に泣かれるのは困る。東雲が悲しい気持ちになるのなら…今は離さずに握っておくよ」
10分ほど握られた状態の自身の手を広季は見つめる。ホールドするように、海の手が優しく包み込んでいた。
「はい! お願いします! 」
嬉しそうに笑みを浮かべる海。自身の主張が受容されご機嫌そうだ。気分がいいのか、上機嫌に手を上下に振る。したがって、広季の手もブランコのように上下に揺られる。まるで子供が両親と両手を繋いで遊んでいるように揺れる。
「では一緒に入りましょう」
広季と海は一緒に彼女の自宅に足を踏み入れた。広季はお邪魔する形になる。
「お、お邪魔します」
依然と変わらず、以上に広く、長い玄関が目の前に現れる。
「どうしたんですか? 早くわたくしの部屋に行きませんか? 」
海は靴のローファーを脱ぐ。一時的に広季と海は手を離す。流石に靴を脱ぐ際まで手を繋ぐ状態をキープすることは無かった。海に倣って、広季も普段靴を脱ぐ。きれいに揃えて、海の自宅の床に上がる。手触りや色からおそらく大理石が床の原材料だろう。
「少しの間手が離れちゃいました。また繋ぎましょ」
隙を突くように、海が広季の手を取る。先ほどと同じように、再び広季と海の手が触れ合う。結果的に、両者の手が合わさって、握られた。
「やっぱり…。ドキドキしますが、森本さんの手は最高です」
頬を仄かに染めながらも、不思議と海は安堵した表情を形成する。
(おいおい。どういう表情だよ。意味が分からないぞ。ミステリアスだぞ東雲! )
広季の気持ちなど露知らず、海は手を引いて前に進む。引きずられる訳にはいかず、広季は歩幅を合わせ、海の後を追う。
階段を上がり、2階に到着する。目の前に海の部屋があり、隣には健の部屋ある。
(東雲の兄貴の部屋か。東雲には完全に愛想をつかされたと本人から聞いたが。現在はどんな状態なんだろうな。できれば、できれば対面したくないな。東雲の兄貴にいい思い出がない。彼女は奪われるし、見下されるしな)
ガチャッ。不意に海の隣の部屋のドアが開く。健の部屋だ。
突然、健が姿を現した。
「お、おお。海に。それにお、お前は!? 」
東雲の後に、即座に健は広季を視認する。敵を見るような目で鋭い眼差しを向け、広季を睨み付ける。
「あ、いたんですね。東雲健さん。森本さん、放って置きましょ。居ない者として扱っても構いませんから」
異常なスピードで、海は健を視界から外し、自室のドアを開ける。完全に他所他所しい態度だった。家族に対する対応ではなかった。まるで仲の悪い親戚に対して行う言動であった。声のトーンは完全に冷え切っていた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! いい加減に許してくれよ! もう何日も口を聞いてくれてなかったじゃないか。それに、ゴミを見るような軽蔑した目で俺の相手をしないでくれ。ちゃんと家族として扱ってくれよ! 頼むから! シスコンの俺のメンタルが耐えられないから」
懇願の意志を示すため、健は妹に頭を下げる。律儀に45度も頭を下げる。健の頭は滑り台のように斜めに傾く。
「…気持ち悪いですね。さあさあ無視してわたくしの部屋に入室しましょう」
適当にあしらい、やや強引に、海は広季の手を引っ張る。
「ね、ねえ。そんなあっさりで言いの。すごい真剣に謝罪してるけど」
「いいんです。いいんです。どうせ口だけですから。ここで許したら調子に乗るだけですから」
広季と会話する場合、打って変わり、愛嬌のある態度で海は接する。健との対応とは天と地との差だった。
「お、おい! それにそいつ手を繋いでるじゃないか! どうしてだ! 理由を説明してくれ! 無視しないで! 何とか言ってくれよ!! 」
2階に情けない健の叫ぶが響く。だが、海は一切動じず、うんともすんとも言わなかった。機械のようにドアだけを開き、広季を入室させようと試みる。
広季は健に注意を向ける。健の必死な形相が広季の視界に映る。ここまで行くと、少し可哀そうに見えた。
だが、海に対する健の訴えも虚しく、残酷にも海は自室のドアを閉じた。境界線を作るように、ドアは優しく閉じられた。
無慈悲にもガチャっと鍵を施錠する音が2階に響き渡る。当然、健も耳にも届いただろう。
「はぁぁぁ~~。どうして。……どうしてこうなるんだよ……」
ショックが立ち直れない様相で、健は目の前のトイレに足を踏み入れた。本当に不幸であり、花火上の尿が健から噴出し、トイレを入念に掃除する羽目にもなってしまった。
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