第54話 羨ましい光景(啓司)
「あ〜あ。学校つまんねぇな。転校してぇな」
校内を啓司はぶらぶらする。特に行く当てもなく。
「でも。親が許してくれないしな。絶対に無理にでも登校しろって言われる。その結末しか見えない」
気怠げに地面に落ちる石ころを蹴る。石ころはコロコロ転がる。
のびのびと進む石ころを啓司は目で追い掛ける。
すると、ちょうど石ころはキリのいい場所で止まる。
啓司は石ころから視線を外し、前方へ移動させる。
「ねぇ広季。今日は学食に行かない?」
隣に並んで歩く仁美が上目遣いで尋ねる。仁美は背中の後ろで手を組む。
「それは構わないけど。昼休みに突入してから10分ほど経過したよ。あと残り30分ほどたけど。東雲は大丈夫?」
もう片方を歩く海に話を振る。
「ええ。わたくしは全然大丈夫ですよ。実は食堂に行った経験が無いので興味を惹かれてます」
「東雲さんもこう言ってるし。今すぐ行こ!」
広季の制服の裾を、仁美は指で引っ張る。
「…わかった。だから引っ張らないでくれ」
冷静に広季はそれだけ伝える。
仁美の力が伝わり、わずかに制服の裾が伸びる。
「それならよし!」
納得したように仁美は制服の裾から指を放す。
「それでは行きましょうか」
海の言葉を合図に、広季達は食堂の道を進み始める。先ほどまで進んでいた道とは異なり、軌道修正する。
「あ!? 森本君達どうしたの? 3人でどこか行くの?」
偶然にも舞と1階の廊下で遭遇する。食堂へ向かう途中で遭遇する。
「あ! 笠井先輩。私達今から食堂に行く予定なんですけど。一緒に行きませんか?」
仁美が舞を同行に誘う。
海も同じ気持ちらしく、何度か頭を縦に振る。
「本当に! 嬉しいの! うちも昼まだ取ってないから都合がいいの」
飛び跳ねるように舞は喜ぶ。自然と顔が綻ぶ。
「それでは舞さんも一緒に行きましょうか」
「行くの!」
4人は広季を真ん中に横に並びながら、食堂へと歩を進める。
仲良く談笑しながら。
「…」
口をきつく噤み、啓司は黙ってその光景の成り行きを視界に収める。何も口にせず、特に輪へ入ろうともせず。
いや啓司に入れる余地など皆無。
「本当は俺があの陰キャの森本のポジションだったはずだ。…どこで間違えたんだ」
大袈裟に啓司は頭を捻る。
「くそ! わかんねぇ!!」
苛立ちを盛大に露わにし、地面を蹴り上げる。
「いてぇ! チクショ〜」
涙目でつま先の部分を押さえる。
勢いよく刈り上げた際、啓司のつま先辺りと地面のコンクリートが衝突した。
「くそ〜。美少女3人達。俺に少しでも興味を示してくれ〜〜」
美少女達の手を握るように、なぜか啓司は前方は腕を伸ばすといった不可解な行動を取った。
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