第52話 痛い一撃

「くそ…。どうして俺がこんな目に」


 以前とは打って変わり、俯きながら啓司は廊下を歩く。


 前までは黙っていれば、クラスメイトの誰かが声を掛けてくれた。陽キャの男女が進んで話題を振ってくれた。


 だが、今では見る影もない。誰1人として啓司に話し掛ける者は存在しない。


 基本的に啓司はクラスでぼっちであり、独立してポツンッと自席に居座る。


 誰も相手をしてくれないため、暇つぶしに啓司は図書室へ向かう。


 適当に本を読む予定だ。


「こんなつもりではなかった」


 弱々しく独り言を発する啓司。


 しばらくして、啓司は図書室へ到着する。


 啓司にとって図書館は初訪問だ。人生で1度も学校の図書室を訪れたことは無かった。


「あ」


 丁度、図書館に足を運んでいた舞が啓司を指さす。舞に反応し、啓司は視線を走らせる。


「あんたは。あの先輩の美少女の」


 途端に啓司の機嫌が悪くなる。


 おそらく、拳を受け止められた過去を思い出したのだろう。過去に啓司は舞に力勝負で完敗した経験がある。


「もしかして君1人? 球技大会以来、クラス内での信頼や地位を失ったの?」


 意地悪な笑みを形成しながら、舞は疑問を投げ掛ける。実に意地悪な問いだ。


「……」


 何も答えず、啓司は舞から視線を逸らす。目線は図書館の床に移動する。


「ふふっ。図星だったみたいなの。あら、ごめんなさい」


 おっとりした口調ながらも、舞はグサグサと尖った言葉を放つ。遠慮は一切ない。愉快に笑みを溢し続ける。


「うちも暇ではないの。ここらで失礼します」


 意図的に舞は頭を下げる。ゆっくりと歩を進める。徐々に啓司との距離は詰まる。


「実にお似合いなの。寂しそうに後悔している姿が」


 口元を歪めながら、啓司の耳元で舞は囁く。伝言を伝えるように。


「くっ…」


 啓司は目を大きく見開く。だが、何もできず、ただ舞と反対の方向を進む。


 多量の書籍が存在する本棚へと。


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