第3章 決断編

第50話 天国と地獄

 球技大会を終えて、クラスメイトの啓司に対する扱いは一変する。


 誰1人として啓司に話し掛ける人物は居なくなった。


 啓司に話し掛けられたとしても、全員が塩対応だ。


 それほど啓司のイメージが下がった。


 広季をいじめていた事実。いじめを悪いと

思わず、逆にしたことを誇っていた。


 この2点がクラスメイトの啓司に対する評価を大幅に減少させた。


「…」


 休み時間において、啓司は俯きながら静かに自席に座る。以前は席を離れ、陽キャの男子達と談笑していたが、ここ何日か、その姿は皆無だ。


「ねぇねぇ。今日は久しぶりに広季の自宅へお邪魔してもいい?」


 隣の席に座る仁美が広季へ尋ねる。


「それは構わないけど。なんで行きたいの?大して何もないよ?」


「何もなくていいの! 広季さえいれば!」


 躊躇なく、仁美は断言する。


「わたくしもお邪魔しても宜しいですか? 森本さんの自宅は前々から気になっていたんです」


 休み時間に突入してから、わざわざ広季のクラスへ足を運んだ海が仁美に便乗する。


「東雲もか。別に全然いいけど」


 胸中でクエッチョンマークを浮かべながらも、広季は了承する。特に断る理由も存在しない。


(家は特に魅力的ではないけどな〜)


「決まりですね。やりましたね弥生さん」


「うん! わーい! 久しぶりに広季の家で遊べる」


 仁美と海は両掌を仲睦まじげに合わせ、お互いに満面の笑みを溢す。非常に嬉しそうだ。


「そんなに喜ぶことか? まぁいいけど」


 広季が呆れてしまうほど、仁美と海は喜びの反応を示す。


「喜ぶよ! だって最高だもん!」


「そうですよ? 森本さんの自宅ですよ?」


 仁美と海は前のめりで広季へ顔を接近させる。まるで、広季の自宅の価値を証明するように。


「う、うん。そうなの…ね」


 2人の剣幕に圧倒され、広季の返答は歯切れが悪い。仁美と海から熱い気持ちが伝わる。


 戸惑いと同時に嬉しさや喜びも不思議と生じる。自身の自宅に遊びに行けるだけで喜んでくれる。中々に喜ばしい出来事だ。


 相変わらず教室は喧騒だ。クラスメイト達は男女関係なく親しい友人と談笑する。陽キャ陰キャ関係なく皆が楽しげだ。


 一方、啓司だけはクラスの空気から取り残される。


 彼だけはポツンっとぼっち状態で自席に腰を下ろす。


「…」


 啓司に以前までの権力は存在しない。もはや陽キャではない。スクールカーストも最底辺かもしれない。


 弱々しげな表情で啓司は広季の方へ視線を向ける。


 啓司など眼中になく、広季は仁美や海と会話を展開する。時折、笑みを漏らしながら。


 広季は啓司の視線に気づき、視線を走らせる。


 広季と啓司は目が合う。


 そこには、羨ましそうな悔しそうな表情を露見させた啓司の姿があった。


 啓司は広季と目が合うなり、逃げるように目を逸らした。

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