第49話 自爆
「クソ!どうしてスパイクが入らなかったんだ!」
結果として、啓司のチームは1回戦で敗退した。原因は啓司のスパイクが一切点に繋がらなかった。
チームメイト達も作戦の変更をせずに、何度もエースの啓司にボールを渡した。これも敗因の1つと言えよう。
「井尻落ち着けよ」
陽キャの男子が啓司を宥めようと試みる。
「うっせぇよ!黙っとけ!話しかけんな!!」
だが、効果は無意味だ。八つ当たりにするように啓司は声を荒げる。
肩をぴくっとさせ、陽キャの男子は口を硬く噤む。
「ねぇねぇ。次はうちの試合があるんだけど。森本君は見てくれる?」
「もちろんですよ。しっかり応援しますよ!」
「そうなんですね! 私達も応援します! ねっ東雲さん!」
「はい! 笠井先輩、頑張ってください」
一方、暗い空気が漂う中、待機場所で広季達は楽しく談笑する。
広季は近くで勃発した啓司の怒りの様子を時折り窺っていた。
だが、仁美、海、舞は全く気にした様子はない。ご機嫌な口調で広季と会話を展開する。
「それになんだよ! なんで俺からいじめを受けてた陰キャの森本が美少女3人と青春してたんだよ!」
キッ。
近くの待機場所に座る広季達を、啓司は敵対するように睨む。
いち早く広季は啓司の視線に反応する。刹那的な速さだった。
未だに残る啓司に対する恐怖が広季をその行動へ仕向けた。
一瞬で笑顔を消し、仁美達もゆっくり啓司へ視線を移動させる。圧力を掛けるように。
「お、おい。井尻、今なんて言った?」
恐る恐る陽キャの男子が話を切り出す。
「あ? だから、中学時代に俺からいじめを受けていたのが、そこの森本なの。部活が一緒で奴隷のようにパシリとして使ってたりした。ははっ、ウケるだろ! 弱者の鏡だろ?」
広季を指さしながら、啓司は嘲笑する。共感を求めるために周囲も見渡す。
だが、周囲から共感は獲得できない。クラスメイト達は引いていた。
軽蔑した目で啓司を凝視する。
「お、おい。なぜ皆笑わない。おかしいだろ。まじで面白くないか?」
動揺した表情で、啓司は周囲のクラスメイト達へ訴え掛ける。
しかし、反応は皆無だ。どんどん啓司の評価は落ちる。
「な、なぁ森本。いじめを受けていたのは本当なのか?」
待機場所に腰を下ろす広季へ歩み寄り、啓司と1番親しい陽キャが尋ねる。
「…」
返答に困る。真実を言うべきか。それとも嘘を吐くべきか。この状況で真実を口にすれば啓司に大ダメージを与えられるだろう。それと同時に、ダメージを受けた啓司を想像し、申し訳ない気持ちにもなる。
「広季迷わないで」
近くに座る仁美が広季の手を握る。優しく包み込むように。
「真実だけを話してください」
海は左手を握る。
「森本君のやりたいようにすればいいの」
舞は広季の両肩に優しく両手を置く。
(そうか。俺の正直な気持ちに従えばいいんだ)
3人の美少女の温もりを感じ、広季から迷いが消える。
未来の行動が決定する。
「そうだよ。井尻の言う通り俺は中学時代にいじめられていたよ」
恥ずかしもなく、堂々と広季は言葉を紡ぐ。決心が付いてから、自然と脳内で言語化が進んだ。
「え! 本当に! でも本人からの言葉だから」
「最低! 井尻君かっこいいけど性格最悪なら台無しだね」
「まじかよ。井尻やばくないか」
「しかも、いじめを悪いとも思ってなさそうだぞ」
周囲が騒がしくなる。広季の言葉を耳にし、クラスメイト達の啓司の見る目がより一層変貌する。
広季の証言の影響だろう。
「お、おい。お前ら何騒いでるんだよ。…笑えよ。そして、変な目で俺を見ないでくれよ…」
先ほどまでの威勢はどこへやら。啓司は弱々しさを露見する。
チラチラ視線を彷徨わせ、何人ものクラスメイトと目が合うたびに、逃げるように目を逸らす。
一方、仁美、海、舞はカオスな光景に直面するにも関わらず、薄く嬉しそうに微笑を浮かべていた。
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