第48話 球技大会②

「よし!俺のすごさをあの美少女3人に見せつけてやる!」


 大きな独り言を呟きながら、啓司は意気込む。やる気を出すように右拳を強く握る。


「やる気十分だな!優勝するためには井尻の力が必須だ。頼むぞ!」


 クラスメイトであり、普段から啓司と仲良くつるむ陽キャが声を掛ける。


「ああ! まかせろ!! 絶対にこのチームを優勝へ導いてやるよ!」


 格好をつけながら、啓司はサムズアップする。


「それでは試合を始めます。礼!」


「「宜しくお願いします~」」


 審判の教員の声を合図に、両チームの選手達が挨拶を交わす。各々、軽く頭も下げる。


 両チーム共に選手達は所定のポジションに就く。


 球技大会はバレーボールだ。


 まずは相手チームのサーブから始まる。


 ぴー。


 審判のホイッスルを合図に、相手チームの選手がサーブを繰り出す。


 運動神経が低いなのか。緩やかなサーブだった。


「俺がレシーブする!」


 先ほど啓司に声を掛けた陽キャが滑らかにレシーブをする。


「井尻!」


 セッターのチームメイトが啓司に向けて緩やかなトスを上げた。コースバッチリな絶好のトスだ。


 先制点は1番得点可能性の高い啓司に委ねられる。


「くらえ~!」


 叫ぶように大きな声を上げながら、啓司は剛速球のスパイクを放つ。


 スパイクは容易にブロックをすり抜けた。


 しかし、バレーボールはコート内から大きく外れる。


「アウト!!」


 審判が判定し、相手チームに1点が加算される。


「ドンマイドンマイ!スパイク自体は悪くなかったよ!」


 チームメイト達は啓司を励ます。


「くそ!なぜだ! いつもならこんなミスありえないはずだ!」


 ぼそぼそ啓司は不満を吐き出す。より腕や手、足に力が入る。リラックスから到底かけ離れる。


「気にするなよ! 次だ次!」


 チームメイトの励ましも、残念ながら啓司には届かない。


 再び、相手チームのサーブから試合が開始する。前と同じサーバーだ。


 同じ緩やかなサーブが繰り出される。


 以前と同様に、レシーブが成され、再度トスが啓司に向けて上げられた。


「次こそ!俺の初得点だ~」


 力いっぱい全力で啓司はスパイクを放つ。豪速球が空を切る。


 今回はブロックは存在しなかった。


 だが、今回のレシーブは先ほどよりも大きく外れ、コートの外に落下する。


「アウト!」

 

 審判のハキハキした言葉を合図に2点目が相手チームに入る。


「クソ!なぜ入らないんだ!」


 啓司は地面の砂を勢いよく蹴り上げる。砂煙が嵐のように舞う。


 啓司は周囲に目をやる。


 自然と広季と仲良さげに話す仁美、海、舞の姿が映る。彼女達の視界には啓司は存在しない。広季しか見ていない。


「こんなんじゃだめだ! 試合で大活躍しないとあの美少女達は俺に注目しない」


 ギリギリと悔しそうに啓司は歯を食い縛る。全身がカチコチに力む。一見して明らかだ。


「お。おい井尻。ミスは気にするなよ。一旦力抜けよ」


「そうだぞ。それにお前、なんか顔怖いぞ?」


 チームメイト達のアドバイスも決して啓司には届かない。彼は完全に自身の世界に身を置いていた。


 そんな啓司の胸中など無視し、相手チームのサーブが放たれ、止まっていた試合が動き始める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る