第40話 無謀な声掛け
「いきなり告白は早すぎたかもしれない。次のターゲットは遊びに誘うところから始めるぞ」
無様に仁美に振られた次の日。
啓司は昇降口で待ち伏せする。帰りのホームルームからしばらく時間が経過する。そのため、昇降口には少人数の生徒しか見当たらない。
「俺が視認してないなら。おそらくまだクラスにいるはずだ。金髪碧眼の高身長美少女は」
昇降口前をうろちょろ啓司は歩く。
帰路や部活に向かう生徒から好奇の目を向けられる。しかし、啓司は全く気にしていない。いや、気づいていない。
「おっ!? 来たな」
わくわくした顔で待つ啓司が足を止める。
例の美少女が視界に入った。
楽しげにその美少女は笑顔を振り撒く。
「よ〜し! 声を掛けるぞ。誰かと話してるみたいだけど。関係ないぞ」
鏡なしで、手先で感覚的に髪をセットする。
「って。な!?」
驚きの声を漏らす啓司。彼にとって信じられない光景が目の前に露わになる。
金髪碧眼の美少女。海は広季と会話を交わしがら、頻繁に顔を綻ばせる。
その事実は啓司に衝撃を与えない。隣の人物が広季であること。これが何よりも啓司から冷静を抜き取る。
広季と海はお互いに靴に履き替える。1度は靴を履き替えるために別れ、再び合流する。そのまま帰路に就こうと試みる。
「ちょ、ちょっと待って!」
ドタバタ走りながら、啓司は広季達を制止する。目の前に立ち塞がるように。
啓司を視認した瞬間、広季は顔をしかめる。やはり中学時代の記憶は簡単に抜けない。前日にいくら仁美に抱きしめてもらっても。
現に、不快感と恐怖が混ざった感情が広季の心を広く支配する。
「なんですか? わたくし達を邪魔するような形で前に立って」
不快感を隠さない海。眉間に皺が2重ほど寄る。
「ちょっと待ってよ。落ち着こ。そんな陰キャのどこがいいの? なぜ君みたいな美少女が冴えない男と下校しているの?」
SNSでメッセージを打ち込むように、次々と啓司は広季の悪口を口にする。それを悪びれもせず。世の常識の如く言葉を紡ぐ。
「はい? …ちょっと待ってください。…もう1度言ってくれませんか?」
鋭い目つきで睨みながら、海は啓司へ顔を接近させる。顔の距離は目と鼻の先だ。
明らかに雰囲気が変わった。
「な…なに? 気分を害しちゃったのかな? それなら謝るよ」
「いいから、もう1度言ってください!」
体勢をキープし、海は啓司を無視する。
「いいよ。何度でも言うよ? この陰キャのどこがいいの? 俺みたいなイケてる人間の方が釣り合うとおも——」
パーーン。
甲高い音が昇降口辺りに響く。
「へっ」
何が起きたか。その現実を啓司は認識できない。ただ素っ頓狂な声だけを漏らした。
「次、口を開いたら、左頬を引っ叩きますから。また、口を開いたら今度は蹴りを入れます」
バイ菌を払うように、海は両手をパンパン叩く。
「行きましょ! 森本さん! あんなクソな人間の言葉なんて無視ですよ。無視!!」
表情は一変し、満面の笑みで海は広季の腕へ抱きつく。
「お、…おう」
目の前の時間に戸惑いながらも、海に流され、広季は啓司の横を通過する。
「森本さんの方があなたなんかより100倍。いや、1000倍魅力的ですよ」
通り過ぎる際、啓司の真隣辺りで海が断言する。
1言も啓司は反抗できない。ただ表情だけ固まる。
どんどん海は前に進む。
振り返りながら広季は啓司の後ろ姿を見つめる。
(なぜだか知らないけどダサいな)
広季にとって未だかつてないほど啓司の後ろ姿は情けない。
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