第34話 運動神経抜群
「キャーーー!!」
グラウンド内で、女子達の黄色い声援が拡がる。その声援は停止することを知らない。
「ほい!」
バレーボールのネットに向かうように大ジャンプし、再び啓司が悠々と激しいスパイクを決めた。ボールは豪速に砂の地面へ衝突した。
女子達の黄色い声援が生まれる。毎度、女子達は啓司のプレーに反応していた。
「また決めたわ!」
「転校生の井尻君すごいね!」
「雰囲気がカッコよくてスポーツも上手なんて最高じゃない?」
女子達は言葉が留まらない。体育の時間において、常に啓司に関する話をする。
「すごいぜ井尻!」
クラスでも目立つ陽キャの男子が興奮気味に啓司とハイタッチする。快く啓司もハイタッチを受け入れる。その表情は実に晴れやかだ。
「井尻がいれば百人力だ。俺達マジで今年の球技大会ので優勝できるかもしれないぜ! そう思わないか?」
陽キャの男子はチームメイトに同意を求める。もちろん、一同の答えはYESであった。
広季は啓司の相手チームに所属する。同じチームにならないことに強く喜びを覚えた。バレーの試合でボロ負けしてても、特に苦ではなかった。
啓司と同チームに属する方がよほど過酷だろう。
しかし、広季のチームメイト達は完全に意気消沈する。啓司を一切止められず、なす術がない事実に諦めモードである。
結局、そんなチームが善戦できるわけもなく、圧倒的大差で広季のチームは敗北を喫した。
スコアは25対10である。25点マッチでこの点差は全く勝負になっていない。
「弥生さんどう思います? あの目立ってる人、カッコいいですか?」
特に啓司へ目を引かれず、平常運転の海が隣に立つ仁美に尋ねる。
「まさか。本気で言ってるの? 私にはカッコよさが微塵もわからないわ。女子達はどうして興奮してるのかな?」
不思議そうに仁美は首を傾げる。仁美から黄色い声援など出る気配がない。本心から啓司に対する興味がなさそうだった。
「あ!森本さんがボール触れましたよ! ナイスですね! おかげで失点が防げました」
再び、男子の試合が始まった。偶然にも相手からのサーブを広季が拾った。
「ただのレシーブにも関わらず、広季はかなり絵になるね」
仁美と海の2人はご機嫌な口調で広季のプレイを絶賛した。
啓司の方が何倍も高難易度のプレイを披露する。
だが、彼女達にとって広季のプレイの方が魅力的に映る。啓司のプレイに興味は興味なのにも関わらず。
そんな嬉しい出来事に気づかず、一生懸命に広季はバレーボールをプレイする。時折、ミスを織り交ぜながら。
一方、啓司は随時、アピールするように女子達に手を振ったり、ウィンクを決めたりする。
その仕草に嫌悪感を持つ男子もいる。主に陰キャでモテない男子がその対象に該当する。
啓司の視線を注視して追うと、最終的に仁美と海に辿り着く。よくよく観察すると見えてくる。
しかも何度も何度も。毎度の如く啓司の目は仁美と海に届いていた。
下心を帯びた目を駆使する形で。
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