第2章 転校生編

第32話 転校生

「今日から6月に突入した。梅雨の時期だな。…いきなりだが。お前たちに朗報だ。転校生だ!」


 謎の間を開けた後、元気なはきはきした口調で担任が言った。


「え!?いきなり!」


「この時間に転校生て珍しくない?」


「男子かな? 女子かな?」


「どっちでもいいけど美形がいいなぁ~」


 突然のサプライズにクラスは大いにざわつく。


「転校生にそこまでテンションが上がるのかね」


 眠そうに小さな声で不思議そうに、広季は呟いた。頬杖を付きながら。


「私も理解できないかも。それか私達が変わってるのかな?」


 広季のささやかな言葉を聞き取った、仁美が同意を示した。その顔には苦笑いも浮かぶ。


「どうなんだろうね。昔からそうだし」


 少し考えたが、いい答えは発見できなかった。


「気持ちはわかるが。静かに! 静かに!」


 力強く何度か、担任は手を叩く。


 パンッパンッ。


 教室内に甲高い音が響き渡る。そのうるさい音に反応し、徐々に生徒達は口を閉じ始める。


「入ってきていいぞー」


 間延びした伸びた声が廊下へ伝わる。その声と共に教室の扉が開かれ、1人の男子生徒が入って来る。


 黒髪の万人受けしそうな男子が、担任の隣まで歩み寄る。


(なっ!?あいつは!?)


 転校生の顔を視認するなり、驚きのあまり広季は大きく目を見開く。瞬時に、広季の額や背中から汗も噴出する。汗は収まりそうにない。


「それでは自己紹介を頼む」

 

 1度視線を向けた後、担任は言葉を促す。


「はい!井尻啓司(いじりけいじ)です。隣町の高校から転校生してきました。今日から同じクラスメイトとして宜しくお願いします!!」


 はきはきしたスムーズなしゃべり方で、スムーズに啓司は自己紹介を終える。


 パチパチ。


 歓迎するように生徒達から拍手が送られる。


 照れくさそうに啓司は色々な方向に頭を下げる。まるですべての生徒に敬意を示すように。


「なんか転校生の男子よくない?」


「うん!清潔感もあって雰囲気もカッコいいし。それに高身長だし!」


「何か良い顔してるよな!」


「仲良くなりてぇな。今日昼飯に誘ってみねぇ?」


 口々にクラスメイト達は好意的な反応を示す。1人を除いては。


 チラッ。


 偶然にも、広季は啓司と目が合ってしまう。啓司は一瞬だけ意外そうな顔を作ると、意地悪な笑みを形成する。


 その瞬間、広季の身体全体に悪寒が襲う。身体に力を加えなければ、上下にブルブル震えてしまうほどだ。


(やっぱり間違いない!あの井尻啓司で間違いない!)


 人物を特定できた瞬間、広季にとって苦い記憶が脳内でフラッシュバックする。


 一方、そんな広季の状態など露知らず、啓司は担任に案内された席へ腰を下ろす。

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