第30話 ダブルざまぁ

 助けを求めるように光は広季の教室に足を運ぶ。もちろん広季に声を掛けるためだろう。


「ねぇ広季!今日も一緒に帰ろうね」


 だが残念ながら先客がいる。一足先に幼馴染の仁美が広季に声を掛ける。同じクラスなため仁美の方が有利だ。


「待ってください。わたくしも混ぜてください」


 すぐにひゅっと海が教室に現れる。別クラスにも関わらずだ。


 2人の美女の登場で光は教室の戸の前で立ち止まる。仁美と海のせいで広季に接触できない。


「全然構わないよ。それで今日の学校どうだった?」


「ぼちぼちです。ですが森本さんと会うときは毎回楽しいですよ」


 海を交えた会話が始まる。


「どういうこと?ちょっと気になるな。ちょっと嬉しいし」


 照れ隠しするように広季は頭を軽く掻く。


「事実ですから」


 海は上品に微笑みを送る。


 その表情を視認し、広季はうっとりしてしまう。


「ちょっと!2人の空気を作らないでよ。私もいるんだからね」


 取り残されないように仁美は割って入る。


 再び、3人を交えた会話が始動する。


「それに広季、頬が緩んでるよ。もしかして照れてる?」


 仁美はにひるといたずらな笑みを作る。


「い、いや。そんなことないよ」


 図星なため広季はわざとらしく視線を逸らす。


「そろそろ教室を出ない?話の続きは帰りながらしようよ」


 置かれた状況を打破するように広季は1つの提案を投げ掛ける。


「確かに。それは否定できないね」


 教室の時計を見ながら仁美は首肯する


 帰りのホームルームが終了してから既に15分が経過する。


「では、お2人は帰りの支度を済ませてますし、そろそろ教室を出ませんか?」


 この言葉を合図に広季と仁美は自席から立ち上がる。


 そのまま流れるように3人は教室を退出する。楽しそうに談笑しながら。


 光はただ黙ってその成り行きを見届けるしかなかった。何もできず、ただ教室の外でポツンと佇む。


 彼女はただ広季達の光景を目に留めることしか叶わない。まるで仁美と海に阻害されたかのように。




「あぁ~。講義だるかった~」


 大学の講義をすべて受け、健は1人帰路に就く。だるそうにポケットへ手を突っ込み、のしのし歩く。


 健は地元の国立大学に通う。高校時代は成績優秀だった。いわゆる秀才だった。


「今日の授業ではしっかり予習をしていたのでわからないところありませんでした」


「私もだよ!広季は相変わらず予習してなかったみたいだけど」


「うっ。しょうがないだろ。宿題やるだけで精一杯なんだから」


 広季は弱音を吐露する。


 広季は地頭があまりよくないのだ。その上、勉強も苦手だ。そのため努力もわずかしかできない。


「まあそういうところも可愛いんだけどね!」


 仁美は勢いよく広季の右腕に抱きつく。


「わたくしもそう思いますよ!」


 同意しながら海は広季の左腕へ抱きつく。


(はぅ。2人の柔らかい塊が…)


 動揺しつつも、広季は興奮を抑えられない。健全な男子高校生なら当然の本能なのではないか。


 必然的に広季は彼女達の柔らかい感触を堪能する。胸や手足は広季をどんどん刺激する。


 その度に広季は幸せな気持ちに包まれる。


 2人の美女にダメにされてしまう。


「なっ!?なっ!?」


 一方、健はだらしなく口をあんぐりオープンする


 偶然にも健は海が広季と腕を組む姿を認識する。


 彼の目はまったく仁美を捉えていない。


「なぜだ。なぜなんだ。そんな奴のどこがいいんだ海…」


 次第に口を閉じ、悔しそうに健は口元や歯をガタガタ震わせる。

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