第28話 冷え切った対応
「ただいま」
沈んだ表情で健は帰宅する。玄関で靴を脱ぐ。
「…海」
偶然にも、健は海と遭遇する。
階段を降りる途中だった海。
水分を補給するため、海は1階の玄関を訪れた。
「…なんですか?」
あからさまに嫌な顔をする海。
以前はここまで対応が冷たくなかった。すべてはあのときから始まった。
「どういうことなんだい。どうして2度も写真を送ってきたの?しかもまるで俺に見せつけるような写真を」
例の写真に対して、健は疑問を投げ掛ける。彼の顔はどこか疲れている。
「さぁ。自分で考えたらどうですか」
そっけない口調で海は返す。こんな雑な言葉を普段は用いない。
信じられないといった顔を形成する健。現実を受け止めきれていない。口が達者な彼でも何もできない。
「もういいですか?わたくしは話すこと皆無ですので」
早々と話を切り上げ、海はドアに手を掛けようとする。
「ちょっと待ってくれ!このままじゃ、お兄ちゃん納得できないんだ!!」
必死さを漂わせながら、健は海の右腕を掴む。
明らかに制止させるつもりだ。
「…離してくれませんか?」
冷え切った声色。吹雪が舞うように。
睨みを利かし、海は拒絶反応を示す。眉毛はわずかに下降する。
そのせいか。普段とは比べられないほど凄みが増している。
「っ」
肩を跳ね上げ、健はぶるぶる身震いする。身体全体にその震えは伝わる。
「はぁ〜〜。金輪際わたくしに触れないでくださいね」
海は盛大なため息を漏らす。呆れやうんざりとはもはや次元が違う。
完全に健は海の心から消えてしまったのだろう。
ぱっ。
海は健の手を素早く振り払う。
雑ではなく、その所作は不思議と滑らかだった。
そのまま見向きもせず、海は足をリビングへ踏み入れる。
パタンッとドアが閉まる。その音は閑散な空気で存在感を放つ。
健の視界から完全に海が見えなくなる。
「クソッ!どうしてだ!!なぜあんなに海は変わってしまったんだ!!!」
悔しそうに健は玄関の壁を蹴り上げた。
玄関に大きな音が響き渡る。
「いってぇ〜。なんでこんなに壁が頑丈なんだよ!」
痛めた足を涙目で押さえながら、健は八つ当たりする。左足をけんけんしながら、不満も口にする。
しかし反応は全くない。うんともすんとも壁は言わない。
なんせ壁は生き物ではない。物なのだから。
恥ずかしながら、静寂な壁に健は敵対心を向けたのだった。
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