第26話 再び
「か、身体は洗われましたか?」
海は恥ずかしそうに広季へ尋ねた。視線も彷徨わせる。
「あ、ああ。お湯に浸かる事前に洗ったよ」
広季はちらちら胸を見ながら答える。自然と目が行ってしまう。
「そ、そうですか」
海は一瞬、残念そうな顔を示す。だがすぐに打ち消すなり、まず頭を洗い始める。
丁寧に時間を掛け、長い金髪をごしごし洗う。
シャワーでざぁぁとシャンプーを洗い流す。
頭髪を済ませると、次は身体全体を洗う。
ごしごし。
優しい手つきで純白の指や腕、太ももを触っていく。
広季は目のやり場に困る。
戸惑い天井に目を走らせる。もちろん知らない天井だ。
しばらくすると、海は再びシャワーを用いて身体の泡を流し始める。
お湯と泡が胸を強調する水着に浸入する。まるでお湯や泡が胸に吸い込まれているようだ。
ざあぁ。
ピチャピチャ。
泡の混ざったお湯の落ちる音が妙にエロい。
それらの音が遠慮なしに広季の鼓膜を刺激する。
「…入りますよ」
「う、うん」
海は静かに広季の真隣へ入浴する。
チャプンッ。
海の身体がお湯にゆっくり吸い込まれる。身体を両肩が隠れるまで挿入させる。
シ——ン。
再度、無言の時間が続く。
広季は何を話せばいいか見当がつかない。
ただ硬い表情で前だけを見つめる。広季の目にはバスルームの戸しか映らない。
とんっ。
沈黙を破るように海が広季の肩に頭を載せる。濡れた金の髪が右肩をくすぐる。
「ちょっとこうさせてください。すごい落ち着くんです」
海は甘えるようにつぶやく。柔らかい吐息も広季の右肩に吹き掛かる。それがまたくすぐったい。
「し、東雲がそう望むなら」
広季は海の顔を直視できない。
緊張からか。両肩もわずかにあがる。心臓の鼓動も遥かに通常時よりも速く脈打つ。
「ふふっ。肩に程よく筋肉があって男らしいですね」
すりすり
海は頭を広季の右肩に擦りつける。海の髪と広季の肩が刺激し合う。
「えへへっ」
頭を動かすたびに海の顔がだらしなくなる。
「あの…もしよければこの体勢で一緒に写真を撮ってもいいですか? 思い出にしたいので」
「うん。それは構わないけど」
海はあらかじめ浴槽の角に置いたスマートフォンを手に保持する。
カメラを起動させ、広季の右肩に再び頭を載せる。
海がスマートフォンを構える。
内カメラなため広季と海の姿がはっきり画面に映る。海は恋人みたいに広季の右肩へ身を委ねる。
「いきますよ。はいチーズ!」
海は控えめにピースをする。
広季も焦りながらも彼女に倣う。
『パシャッ』
鮮やかなシャッター音が生まれる。撮れた写真はスマートフォンに無事保存される。
「ありがとうございます」
にこっ。
海は可憐な笑みを広季に向ける。
彼はその笑顔にあっさり魅了される。本物のお姫様かと錯覚する。
海は隠れるようにスマートフォンを操作する。
ピロンッ。
ある人物へチャインを送る。先ほど撮った写真を添付して。
☆☆☆☆☆
一方、健は日課の女遊びをしていた。海が相手をしてくれないため仕方なくだろう。
本命彼女の玲と一緒にいつもの公園でラブラブする。2人だけの空間が醸成される。
ブブッ。
そんな最中、健のスマートフォンがポケットで振動する。
「ごめん。通知だ」
健は面倒臭そうにスマートフォンを確認する。
パッ。
しかし、彼の表情は一変する。
海からのチャインだった。そのため表情は明るいものへ変わる。即刻、気持ちは期待へ変貌する。
さすがに今度こそ許してくれたのだと決めつけ、チャインを起動させる。ゆっくり海のトーク欄をタップする。
ポンッ。
1枚の写真がトーク欄に出現する。
「なっ!?」
健は愕然とする。わなわな顔も震わせる。口もだらしなく開く。
無理もない。
なぜなら海から送られてきたのは広季と海のイチャイチャを象徴する写真だった。
海は浴槽の中でピースしながら広季の肩に頭を載せる。健に見せつけるかのように。
広季も前の写真ほど表情は硬くない。
「羨ましすぎる! なぜあいつが!!」
健は本命彼女が隣にいるのにも関わらず、悔しそうに地面を蹴り上げる。
砂が斜めに舞い上がる。
「ちょっとどうしたの?」
玲は心配する。それほど態度の変化は激しい。
「ああごめん。ちょっとね」
健は作り笑いを披露し、スマートフォンをズボンのポケットへ仕舞う。
「そう…。ならいいけど」
玲は不思議そうに首を傾げる。納得もしてないように見える。
「ああ。今度のデートなんだけどさ」
健は深入りさせないため意図的に新しい話題を振った。
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