第17話 実姉
広季は学校の図書館に身を置く。図書館には複数の生徒達がいる。だが閑散とした空気を醸成する。
広季はかなり横に長い机のイスに腰を下ろし、ライトノベルを読む。
小説の紙面にはびっしり縦に文章が刻まれる。ライトノベルはラブコメ系。そのタイトルは『アルバイトを辞めたらモテ始め、ざまぁも起きた』である。
「あらあら。相変わらず小説がお好きそうね」
おっとりした声が広季の鼓膜を刺激する。人生何度目かのような人間の声色だった。
広季は音源に対して視線を走らせる。その際、小説の文章から目が離れる。視界に映る世界はミクロからマクロに変化する。
彼の視界に熟したオーラを放つ女子生徒が映る。おっとりした雰囲気があり大和撫子感も醸し出す。
キメの細やかな黒髪に鮮やかな緑の瞳。手足もスレンダーで長く胸も大きい。まさにスタイル抜群。光とは明らかに差がある。
「舞さん…」
広季は女子の名前を呟く。
笠井舞(かさい まどか)。大和高校の3年生であり図書委員長でもある。
その証拠に図書委員と本人の名前が記載された首下げ名札を掛ける。その上、名字からわかるように光の実姉である。
「最近、どうして以前よりも図書館に来なくなったの。中学生の頃は毎日のように足を運んでいたのに」
舞は悲しげに瞳を揺らす。目全体に液体が混じる。不思議と尊さを感じさせる。
「ちょっと色々ありまして」
広季は慎んで言葉を濁した。さすがに光に浮気された事実を姉の舞に話すことは躊躇われる。誠実さは欠けるが致し方ない。若干、広季は罪悪感を覚える。
「う~ん。そうなの~?じゃあ、うちが力を貸せることある?」
舞は不満そうにゆったりした口調で尋ねる。両手は上品に腰の後ろで組まれる。その姿勢に気品と育ちの良さが垣間見える。
「いや今のところないですね」
広季は特に考えずに答える。図書委員長で忙しい舞に迷惑を掛けたくない。これが本音だった。広季が何か頼めば舞は快く引き受けるだろうから。
『キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン』
広季と舞がやり取りを交わす最中、休み時間の終了チャイムが鳴り響く。その耳につく高い音は図書館全体に行き渡る。他の生徒達はバタバタと図書館の出口にダッシュする。皆、マネするように同じ行動をする。
広季はなぜか音源を探すように天井を見上げる。図書館の電気は広季の目を豪快に照らす。そのおかげで強い眩しさを感じる。
「やばっ。舞さんまた今度!」
広季はイスから立ち上がり、速攻でライトノベルを定位置に返す。
「あらあら」
一方、舞は余裕な口ぶりを披露しながら広季の背中を見つめていた。出口に向けて移動し、どんどん距離を作り遠くなる背中を。
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