第16話 決意

「あっ!返ってきた!!」


 光はご機嫌な声でスマートフォンを起動させる。画面は白色の光を放つ。


 自室のベッドから立ち上がり、呑気に鼻歌を奏でる。愉快に自室を歩き回る。おそらく広季からこんなに速く返信が来ると思ってなかったのだろう。


「やっぱりまだ森本君は私のことが好きなんだよ」


 光は調子に乗った口調でチャインのアプリを開く。スマートフォンの画面に『TYAIN』と記載されたロゴが表示される。


 光は慣れた手つきで広季とのトーク欄を開く。


 他にも多くのトーク欄が存在する。


 その1つに『健君』といった名前もある。トークはもう数日ほど進んでいない。ちょっと前まで頻繁にトークを交わしていたのにも関わらず。少し哀愁が漂う。


「え!?」


 光は広季のトーク欄を開くなり、驚嘆な声を上がる。両目は明らかに大きく見開かれ、スマートフォンの画面をこれでもかと直視する。まるで携帯自身に心を奪われたかのように。


 光が驚くのも無理はない。広季、仁美、海の3人が映る写真が広季のアカウントから送信されていた。仁美と海は満面の笑顔なのに対し、広季の表情は硬かった。仁美なんかウィンクする。写真はトーク欄内で尋常な存在感を放つ。光の目には写真のみ映る。


「どうして!なんで森本君がこんな写真を送ってくるのよ!」


 光は激昂し、スマートフォンをベッドへ豪快に投げつける。女子なりに全力で右腕を振り上げる。ボンッとスマートフォンがベッドから跳ねる。


「はぁはぁ…」


 光はゆっくり荒い息を漏らす。目は怒りに満ち、睨み付けるような感じだ。ギシギシ歯ぎしりも始める。


「違う。多分、森本君は送ってない」


 光はベッドに上り、スマートフォンを手に取る。雑にスマートフォンのロックを解除する。再び例の写真が表示される。


「うん。森本君の表情が硬いのに対し、後の2人はすごい楽しそう。森本君は不意打ちで撮られた。だから表情が硬い。これは絶対にどちらかが意図的に送ったに違いない。そう間違いない。そうに決まってる!森本君がこんなひどいことするわけないもん!!」


 光は写真の光と海を睨みながら、大袈裟に舌打ちする。チッと舌の弾く音が室内に響く。


「このままじゃダメ。森本君を取り戻さないと。この2人から引き離さないと!」


 光は1つの決意を固める。貧弱な胸の前で右拳を握り締める。


「待っててね森本君」


 光の目に炎のような闘志が宿った瞬間だった。

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