第15話 スリーショット

(どうしてこうなったんだ?)


 広季は胸中で率直な疑問を呟く。彼の視界にはベッドに座り会話する仁美と海の姿が映る。仲良さそうに隣同士に座る。ちなみに、広季は丸い絨毯の上に座る。3人は制服姿である。


 現在、広季達は仁美の自宅に身を置く。場所は仁美の部屋だ。内装は広季が仁美とハグした日と変わりない。


 綺麗に手入れされたベッド、丸い絨毯、勉強机、本棚、ソファなどが以前と同じ場所にある。本棚には当たり前のように少女漫画が並ぶ。


 広季は体育の時間に海と一緒に帰る約束をした。そのため約束通り仁美も交えて帰路に着いた。


 広季が真ん中、仁美が右、海が左といったポジションを取り、帰路を進んだ。


 そこでなぜか仁美が自身の自宅で遊ぼうと提案した。海が食い気味に提案へ乗った。


 もちろん2人だけで話は終わらなかった。仁美と海は当然の如く広季を遊びに誘った。2人に上目遣いで誘惑するように見つめられたのは記憶に新しい。


 亜麻色の瞳と青色の瞳はそれぞれ広季の目をじっと放さなかった。広季は圧に負け、誘いを了承した。そして今に至る。


「広季!前みたいにここでハグする?」


 仁美は両腕を大きく広げる。へらっと笑う。まるで広季を子ども扱いするかのように。


「森本さん!前みたいに私の膝まくらもどうですか?」


 海が対抗するように太ももをポンポン叩く。スカートから伸びる純白なモデル並みの長い脚は健在だ。


 もちろん仁美の足もシミ1つなくきれいだ。彼女の足は日本人特有の薄いオレンジ色である。


 足に惹きつけられるのか。広季は美少女達の足をそれぞれ見てしまう。無意識に視線が露出する彼女達の肌に移動する。


「どっちにする?」「どっちにしますか?」


 仁美と海の声が重なる。2人は準備万端なようだ。


 未だに仁美は両腕を大きく拡げる。まるで広季がダイブするのを待ち望んでいるように。


 また、海はもう1度優しく太ももをポンポン叩く。こっちは広季を優しく太ももに引き寄せるかのように。


「えっと」


 広季は逡巡する。両方してもらいたかった。それが正直な願望である。


 しかし、仁美と海はどちらかの選択を望む。広季はそれを重々理解する。そのため、歯切れの悪い返答になってしまった。仁美の身体と海の太ももの両方を堪能したくて堪らなかった。


 そんな最中、広季のスマートフォンが振動した。ズボンのポケットでスマートフォンが小刻みに震える。その振動は広季の右太もも辺りをくすぐる。優しい電気みたいな刺激が太ももに伝わる。


 広季はスマートフォンの画面を凝視する。


 SNSのチャインからメッセージが届いた。画面には1件の通知バーが表示される。その通知バーには笠井光と記載される。


 広季は不快そうに顔をしかめる。眉間に皺が寄り目は鋭くなる。明らかな嫌悪感を抱く。


「どうしたんですか?」


 海が心配そうに尋ねる。感情の変化を推量したのだろう。


「実はね。光から連絡が来たんだ」


 広季はスマートフォンの画面から視線を外す。


「「え!?」」


 仁美と海は同時に驚嘆する。共に口は半開きになる。その際、きれいな桃色の唇が強調される。


 仁美の唇は薄く、海のものはわずかに厚い。両者ともに女性特有の色っぽさがある。


「それでどんなメッセージが来たの?」


 仁美が食い気味に聞く。ベットに座りながら体勢が前のめりだ。


「『話したいことがあるから明日会えないか💗』って」


 広季はスマートフォンに表示される文字を1言1句そのまま読み上げる。


「ふ~ん、そうなんだ~。なるほどなるほど」


 仁美は、にや~と意味深な笑みを浮かべた。口元はへの字に曲がる。


「広季、ちょっと携帯貸して」


 仁美はベットから立ち上がる。それから広季の元に足を運び、右手を差し出す。


「ああ。いいけど」


 広季はスマートフォンを仁美に手渡す。


「ねえねえ。広季と東雲さんは私に寄って!」


 仁美が2人を手招きする。


「それで広季が真ん中で。東雲さんは左ね」


 仁美は左のポジションを取る。3人が広季を中心として隣に座る。


「はい写真撮るよ~」


 仁美はカメラを起動させる。スマートフォンの画面に3人の顔が映る。それぞれがスマートフォンを見つめる。


 仁美と海はそれぞれ広季に顔を接近させる。肌と肌が触れ合うほどに。広季は彼女達の柔らかい肌感触を味わいたい欲望に駆られる。


「はいチーズ!」


 仁美はシャッターを押す。パシャッとシャッタ音が生まれる。その高い音が広季の鼓膜を刺激する。


「これを送ると…」


 仁美は勝手に広季のスマートフォンを操作する。


 仁美はなぜかロックを容易に解除する。それからチャインのアプリを起動させる。


 先ほど撮った写真を選択して光に送信する。


 広季、仁美、海が近距離で映る写真がトーク欄に表示される。


 仁美と海は満面の笑顔なのに対し、広季の表情は硬かった。


 仁美なんかはウィンクする。広季は突然のカメラ撮影に上手く対応できなかった。


「はい。ありがとう!」


 仁美は用が済んだようにスマートフォンを返す。画面には光とのトーク欄がある。


「ちょ、なんでさっきの写真送ったの。意味がわからないよ」


 広季は画面を視認した直後に不満を口にする。画面には“既読”の文字が現れる。


「いいんだよ。向こうも何かしら感じ取ってくれる思うから」


 仁美は平然と答える。何か計画があるかのような顔をしている。


「とにかくこの件はもう終わり。おしゃべりしよ!」


 仁美は強引に話を打ち切る。再びベッドに戻る。


「そうですね。違う話をしましょう!」


 海も仁美に同調した。


 広季にとって仁美の行動は不可解だった。脳内にモヤモヤが渦巻くように残った。

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