第7話 送信

 その夜。


 仁美は帰宅した後、早速SNSのウィッターで裏アカを作成する。


 ウィッターは有名なツイート型のSNSだ。


「う~ん。どうせ今日しか使わないだろうから。名前は適当でいいよね」


 裏アカの名前は適当に考えた『さとみ』に決定した。


 仁美はアカウント登録を完了させ、即座にウィッターの検索エンジンへ単語を打ち込む。


 『笠井光』と打ち込むなり、すぐに光のアカウントは見つかった。プロフィール画像は健と一緒に撮ったプリクラ写真だ。光はその写真で幸せそうに笑顔でピースをする。


「これだね。DM(ダイレクトメッセージ)送るためにまずフォローしないと」


 仁美は顔をしかめながらも光のアカウントをフォローする。このアカウントはフォロワーの数からして本アカと容易に推測できる。ちなみに、フォロワーは500人ほど存在する。


 彼女はDMを開き、例の写真を貼り付け光のアカウントに送信した。光の自宅はWi-Fi完備なため、あまり時間を要さず送信を完了した。


 返信の内容はどうでもいいのだろう。仁美は即刻、光のアカウントをブロックした。


 その後、裏アカまできれいさっぱり消去してしまった。



☆☆☆☆☆


 その頃。


 光は自宅のベッドでゆったりくつろいでいた。スマートフォンを慣れた手つきで操作し、楽しいデートの余韻に浸った様子であった。


 そんな幸せ真っ只中、彼女のスマートフォンはブブーーッとバイブ音を吐き出しながら振動する。


 幸せな時間を邪魔されたためか。光は不快そうな顔を示す。ただほっとくわけにいかず、光は通知を確認する。


 スマートフォンの画面は『さとみさんからウィッターのDMが来ました』といった通知1件を表示させる。


「さとみ?誰それ。まったく知らないんだけど」


 光は見当もつかない人物名に首を傾げる。


 だが、気にはなるのだろう。彼女は通知のバーを指でタップし、DMの内容を確認する。


「えっ。えっ」


 光は写真をばっちり視認し、目を見張る。次第に身体全体の力は抜け、呆然とした状態になる。


「うそよ…。うそよ…」


 光は表情を曇らせ、同じ言葉を繰り返す。それから、ぽろっとベッドにスマートフォンを落とす。


「そんなこと絶対にない!こんな画像インチキ!フェイクに決まってる!」


 光はブンブンと強く首を左右に振る。直面した現実を受け止めきれないのか。頑なに現実を認めようとしない。


 情報を遮断するためか。光は身を隠すように素早く布団の中に潜り込んだ。


「こんなことありえない。いたずらだよ!」


 光はガクガクと小刻みに身体を震わせ、何者かによって送信された写真の存在を否定し続けた。

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