第6話 急展開

 時刻は18時頃。


 光と健は長く滞在したショッピングモールを退出した。それから、2人は仲睦まじいさまで談笑しながら、ある公園に到着した。


 その公園にはブランコやすべり台などの遊具が設置される。それぞれは少なからず存在感を放つ。


 光と健は隣同士でブランコに座り、継続的に会話を楽しむ。


 話の内容から今日のデートに関する話をしているようだ。ペアルックやカップルジュースなど他にも色々ある。


 一方、仁美と彩音は一定距離を保ち公園の外側からじっとその光景を観察する。


「それにしてもラブラブみたいだな。ずっと笑顔で会話してるしな」


 彩音は隠れながら率直な感想を述べる。


「本当に。イライラさせるぐらいにね」


 仁美は不機嫌な表情で彩音に共感する。明らかに普段とは態度も様子も異なる。


「ははっ。落ち着きなよ。ずっとイライラしてたら身体に悪いぞ」


 彩音は顔に一滴の汗を垂らし、作り笑いを形成する。少しでも仁美を落ち着かせる魂胆だろう。


 仁美と彩音がそんな話をする間、光と健は身体を密着させハグをしていた。


 2人はブランコから立った状態でベッタリとお互いの身体を密着させる。その際、光は心底嬉しそうに健の身体に身を寄せる。


「そろそろ良い時間だし。帰った方がいいんじゃない?」


 健は光の両肩を掴み、自身から優しく遠ざける。そのため、一定の距離が2者間に生まれる。


「えぇ〜。まだ7時にもなってないよ〜」


 光はあざとく頬を膨らませた。彼女は実に不満げだった。


「いや、もう7時だよ。光の親御さんも心配するかもしれないしさ。だからもう解散しよ?」


 健は合理的な理由を用いて光を諭す。


「う〜〜ん。健君がそう言うなら・・・」


 光は完全に納得できないらしい。未だにわずかに頬を膨らませ、視線もわずかに逸らす。


「かわいいな」


 健はそう呟き、よしよしと光の頭を撫でる。


「そんなことしてもダメだから・・・」


 光は抵抗するようにぎこちない態度を露わにする。しかし、抵抗も虚しく。徐々に顔を赤くし、気持ちよさそうな顔を示す。


「また、すぐデートできるから」


 健はようやく光の頭から手を離した。その瞬間、光は名残惜しそうだった。


「本当に?」


 光は心配そうに瞳を潤ませ確認する。


「ああ。本当だよ」


 健は安心させるようにニコッと爽やかな笑みを作った。口角が上がった理想的な笑顔だった。


「わかった。今日は帰る」


 光は「バイバイ」と寂しそうに手を振ってから帰路に着いた。


 一方、健はすぐに帰宅せず、なぜか再び公園のブランコに座った。


「どうしたんだろう?なんであの人帰らないんだろう?」


 仁美は首を傾げながらも、次の健の行動を逃すまいとする。


 しばらくすると、光の姿が完全に消える。


 健はブランコから立ち上がる。わざわざ公園の出口まで移動し、その事実を確かめに行く。


 すると、健はスマートフォンを用いて誰かに電話を掛け始める。


「もしもし。ああ。ああ。すぐにいつもの公園に来てくれ」


 どうやら何者かと落ち合うつもりのようだ。


 健は電話を終えると、薄く笑みを浮かべながら再度ブランコに腰を下ろす。


 仁美達は違和感を覚えながらも静観する。


 数分後。


「健〜。待った?」


 光よりも大人びた黒髪美女が公園に現れた。


「え!?なんでこの時間から女の人と会うの?」


「さ、さあ」


 仁美と彩音は突然の急展開に驚きを隠せない。2人は声が漏れないよう口を両手で塞ぐだけで精一杯だった。


「遅くにごめんね玲(れい)」


 健は上機嫌な口調でその女性の名前を呼ぶ。光と一緒にいるときよりも明らかにテンションは高い。


「いいのよ。だって他ならぬ彼氏の頼みだもの」


 玲は健の元まで鼻歌交じりに歩み寄る。


「ははっ。さすが本命の彼女だな。嬉しいよ」


 健はブランコから立ち上がり、早速玲の身体に触れる。


「やん!毎回いきなりなんだから。それにしても今日も高校生の女の子と遊んだの?」


 玲は凛としたキレのある声で尋ねる。


「ああ光のことか。遊んだよ。まあ、俺にとってはただの遊びだけどな」


 健は自慢げに語る。


「ふ〜ん。それで女の子には好まれてるの?」


「ああ。それは間違いない。向こうは俺にベタ惚れ。単なる俺の遊び相手だとまったく気づいていない」


 健はおかしそうに笑った。口元から整った歯が剥き出す。


「それであたしのことはどうなの?」


 玲は自信満々に問い掛けた。まるで試すかのような口ぶりだった。


「大好きだよ!」


 健は玲の頭をホールドし、顔を接近させる。そのまましばらくお互いの目を見つめ合う。


「・・・行くよ」


 健は耳元で優しく囁き、玲の頬に手を掛ける。


「ええ」


 玲はこくっと首肯した。


 健と玲は良い雰囲気を醸し出す。それから、そのままゆっくりと唇を重ねた。長い長いキスを。


「ぷはっ」


 何秒間ほどキスをしていただろうか。ようやく2人の唇が離れる。


「もう。長すぎ!」


「悪い。玲の唇が気持ち良すぎてさ」


 健は玲の返答を待たず、今度は強引に唇を奪う。


「う〜っん」


 玲は一瞬目を大きく見開くが、すぐに目をゆっくりと閉じてしまう。まるで眠りつくかのように。


 健は先ほどの優しいキスとは打って変わり、熱いエロいキスへとシフトさせる。


 玲も健の行為に答え、熱いキスをやり返す。キスの音が公園の端々に行き渡る。もちろん、仁美や彩音の鼓膜もうざいほど刺激する。


「ちょ、ちょっと待って。これはチャンスかも」


 仁美はあせあせとコートのポケットからスマートフォンを取り出した。


 彼女はカメラで健と玲の情熱的なキスシーンを写真に収める。


 仁美は即座に撮れているか確認する。どうやら、無事に写真フォルダに保存されていた。ばっちりと写真内で健と玲は熱いキスをしていた。


「もしかしてすごい価値ある写真を撮れたかも」


 仁美は例の写真の映るスマートフォンを彩音に見せびらかす。嬉しそうにゆっくりと頬を緩めたまま。


「おいおい。悪いな」


 彩音は仁美の企みを推量したのか。若干顔を引きつらせる。おそらく、引いているのだろう。


「さ~て。どうでしょうかね」


 仁美は納得した表情でスマートフォンをポケットに仕舞った。

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