第2話
ヒマリは今も、おいそれとは外出をすることができない。
だから実家の自室やリビングで過ごすことが多い。
そんな彼女を両親と2才上の義兄が優しく見守っている。
義兄と言うのは両親は再婚同士で、ヒマリは母の連れ子、
義兄ハルトは父の連れ子だ。
「おにい、またスマホゲーム?」
ヒマリが飽きれた顔で兄を見ていいながら
二人掛けの隣に座った。
義兄・義妹と言っても仲は良い。
兄は返事をせずゲームに集中している。
かまってくれない兄にむくれたヒマリが抱きつく。
すると兄ハルトが視線はスマホのまま、
ヒマリのおでこにキスをした。
ヒマリははっとした顔から、
デレた表情になって頭をハルトの肩に乗せた。
「ヒマリ」
相変わらず視線はスマホのままで言う。
「なに?」
「仕事が決まった。来週から働く。」
「大学は?」
「もう辞めてるよ。」
「えっ!どうして!」
つむぎは驚いてハルトを無理やりこっちを向かせた。
「もちろん、ヒマリと俺のしあわせのためだ。」
「そんな...」
「だから俺たち二人のためだ。
ヒマリがアイドルを続けるにしても、辞めるにしても
きちんと働いていないといけない。
おやじの金じゃなく俺の稼ぎでヒマリを喰わせたい。
これは俺のけじめだし、覚悟だ。」
話を聞いて泣きじゃくるヒマリの頭を、
優しく撫でた。
ヒマリは
「うん、わかったよ。私も今、一番良い答えを出して
進むからね。」
そう言って自分の大きくなったお腹をさすった。
まだ、二人が結ばれる前の話。
ヒマリがアイドルになるずっと以前から
ハルトとはとても仲の良い義兄妹だった。
だが、ヒマリがアイドルとなり、
しかもセンターポジションとなってから
だんだん忙しくなり家に戻れることが
少なくなってしまった。
それがかえって兄妹が互いに対する気持を
強く自覚することになった。
ヒマリとハルトは幾度も
交わしたメッセージでの、
素直な気持ちのやり取りから、
互いが互いを男と女として
好き合っているんだと知った。
ヒマリは義兄が自分と同じ気持であることに、
この上ない幸福感で心が一杯になった。
だからハルトに会いたい気持ちで
居ても立っても居られなくなった。
ヒマリは自分のスケジュールを確認して、
家に帰れる時間をつくり、
事務所に無理を言って、
タクシーに乗り込んだのだった。
それはあまりにも衝動的行動で、
家には連絡を入れずに帰った。
どうせなら突然の帰宅で驚かせようと思っていた。
特にハルトにはそう思っていた。
「ただいま!」
ヒマリが弾んだ声でドアを開けた。
帰宅してわかったことだが両親は不在で、
ハルトだけが家に居たのだった。
ヒマリはハルトと目があった。
けれど言葉が見つからない。
代わりに涙が溢れて仕方がなかった。
ハルトはゆっくりとヒマリに近づくと
その涙で濡れた頬にキスをし、
そのままヒマリの唇にキスをした。
ヒマリはそれに応えるように、
ハルトの背中に手を回して強く抱きついた。
その日は両親が帰ってこない夜。
二人が互いが好きであることを確認した夜。
そして、初めての.....夜になった。
二人は自分の感情を抑えることができなかったし、
抑えようともしなかった。
だから結ばれた。
結果、妊娠が訪れた。
その事実をヒマリは秋山慶子に打ち明けた。
慶子はもちろんかなりの衝撃を受けて驚いた。
ただ、ヒマリにとって救いだったのは、
そのことを責めるのではなくヒマリの気持として、
どうしたいのかを聞いてくれたこと。
ヒマリはもちろん赤ちゃんを産みたい。
それにより当然グループを辞めることを伝えた。
慶子もその気持を理解し上司に話をした。
しかし、他の大人たちは慶子のようにはいかない。
現状の人気を得るところまで来るのには
随分のお金が動いている。
今の状況を世間に正直に
話せばその損失は計り知れない。
グループの解散にもなりかねない。
事務所としての結論はアイドル継続。
もちろん妊娠のことは極秘。
いずれ時期を見て、違う理由での卒業発表を
する結論となった。
慶子は事務所の意向をヒマリに説明する。
「そ、そうですよね。たくさんの費用がかかっているのに、
私のせいで大きな損失とかになったら大変だし。
それに何より私のせいでエンジェルファンタジーが、
解散になってしまったら謝ってもすまないですから。
今後のことは慶子さんと事務所に従って行動します。」
そう言って深く頭をさげた。
ヒマリの出産は間近になっている様子だった。
妊娠が分かってからは慶子の手配で
信用できる所に通院し、
近々入院予定になっている。
ハルトは当日は付き添いたいが、
目については、地方から事前に制止されていた。
ヒマリも仕事始めたばかりのハルトを
気遣い慶子に賛成した。
会田メグミは事務所のヒマリに対する
秘密厳守ぶりを、かえって怪しんでいた。
本当に体調の問題なら、身内側にはどこからか
漏れてもおかしくない。
そうではない事に大きな
スキャンダルの匂いを感じていた。
ここはある都心のホテル。
メグミはタクシーから降りる。
目深な帽子とサングラス。
それにマスク。
いかにもと言ういで立ちで
エレベーターの最上階を押した。
明かりの抑えられた部屋。
二人の逢瀬が影となり揺れている。
やがて男が女にかぶさり溶ける様に
体を沈めた。
その後はいつもの様に
女は甘えた声で男の胸に頭を乗せた。
そうすると男は決まって女の頭を撫でる。
「そう言えば驚くべきことを聞いたよ。」
「何ですか?」
「これは君にも関わることだよ...メグミ。」
男はエンジェルファンタジー所属事務所
の役員をしている河田アキラ。
女の方はエンジェルファンタジーの現センターの
会田メグミだった。
どうして、今人気上昇中のアイドルグループの
センターであるメグミが、
10以上も離れた男と今ベッドにいるのか。
それまでどこでもチヤホヤされるのが
当たり前だったメグミは
圧倒的な美少女であるヒマリを前にして、
常に二番手になっていたのだった。
メグミは誰よりも上昇志向とプライドが高い。
いつかヒマリを超えてセンターに
立つことを目標にしていた。
それをベッドの中で手に入れていたのだ。
河田は続けて言った。
「今、休養をしている牧瀬ヒマリだが、どうやら
ただの体調不良じゃないんだ。」
「どういうことですか?」
メグミは河田に顔を近づけた。
「それはね。」
と言いかけてメグミの唇を指で触れにやりと笑う。
メグミは口元を歪めて微笑むと
ゆっくりと頭を下へ向けた。
男の欲望にかしづくように上下する。
河田は快楽の笑みを浮かべながら
メグミの欲しい情報を与えた。
「そのまま続けていろ。そのまま話をするから。」
メグミは返事の代わりに吸着力を強めた。
「どうやら牧瀬ヒマリは...大スキャンダルを抱えている。
それはこともあろうに妊娠だ。」
それを聞いてメグミの動きが止まった。
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