第4話 現状を確認する話

 俺が目を覚ましたのは夜中の3時だった。


 非現実的な情報を一気に受け取ったことで、体調不良のことを忘れていたのだが、会話がひと段落した時点で一気に疲労が襲ってきた。

 ただ、状況を知ってしまった以上、現在の潜伏先の確認をせずに眠りにつくわけにはいかなくなった。三人は安全だと強調していたが、信頼する根拠がなにもない。


 今いるのは8階建てのオフィスビルの2階である。企業がいなくなったばかりのようで、それなりの広さのフロアに点々と業務用の机と椅子が置かれている。そして、奥には段ボールが無数に積まれているが、何かが潜んでいるような隙間はない。

 オフィスのドアを開けるとエントランスがありエレベータと階段に続いている。エレベータは動いておらず、移動は手段は階段に限られた。


 1階に降りると内側から施錠された鉄扉があり、人力ではとてもではないが壊すことはできそうになかった。扉の向こうの状態は分かっておらず、開けるには相応の覚悟が必要だ。今は開ける時ではない。


 3階は2階と同じような構造のオフィスだった。2階と違うことと言えば、直前までオフィスとして使われていたからであろう、残存物が大量にあることだ。


 風子と二人は日中に確認し、ゾンビも人もいなかったと言っている。フロアを周り、誰もいないという情報は信頼してよいと判断した。

 残存物を漁り、コピー用紙と筆記用具を回収する。


 フロアの最奥に進むと事務員の作業場所があり、職員用の冷蔵庫を見つけた。中にはシュークリームが二個とペットボトルの清涼飲料水が数本残っていた。三人はこれを見つけることができなかったらしい。電気は切れていたが若干の冷気は残っており、品質的にも問題なさそうだった。飲み物だけ取り出し、シュークリームは置いていく。二階に戻ったら教えてやろう。


 俺の期待した防災セットは見つけることができなかった。奥にしまわれている可能性が高いので、明るくなってから探すことにする。


 4階に上がる階段には1階のものと同様の金属扉が設置されている。

 ただし、1階と異なる点としては鍵がこちら側からは掛けられないことがある。扉の向こうは三人も確認していないということだった。


 ……なんとなくだが、この扉をこのままにしてはいけない気がする。


 俺は3階に戻り、机を1台、音をたてないように4階の階段前まで移動させる。金属扉は外開きとなっているため、障害物を置くだけでそれなりの対応になる。机を周囲の柱にビニール紐で括り付けたのち、重量のあるものを重しとして机の上下に詰め込み、開けた際につっかえ棒となるように配置する。


 ゾンビドラマでよく見る雑多に積み上げられたバリケードが完成した。なるほど、ちゃんと考えずに作るとこうなるのか。

 机を両手で動かしてみるが、ビクとも動かない。金属扉の重さも合わせればそれなりの対策にはなるだろう。


 俺は2階に戻るとサラとリリーは眠っていた。窓際に膝を立てて座っている風子に4階での作業を報告した。

 風子は「私は起きて監視してるから寝ていいよ」と言う。


 俺の意識を保つことのできる気力も限界だったため、その言葉に甘えて再び敷いてある毛布の上に横になった。

 現実とは思えない現実と、全身の熱と痛みと疲労がグルグルと混ざり合い、平衡感覚がなくなっていく。俺は横になってすぐに眠りに落ちた。


*****


 翌朝、窓から差し込む日の光によって目が覚めた。

 かなりの汗をかいたのだろう。シャツがぬれて気持ちが悪い。だが、体のだるさはなくなっている。飲みかけだったペットボトルの水を最後まで飲み干す。


「風子。食料と水はどうなってるんだ?」

「おはよう、くらい言いなよ」


 風子は俺が寝た時と同じ場所で同じように座っている。一晩中起きて見張っていたようだ。


「3階に防災セットが大量にあったんよ。水と食料は4人だと1週間は持ちそうやね」

「ああ、もうすでに見つけてたのか」

「うん。という訳で、朝ごはん」

 そういうと風子は防災セットの中に入っていたであろうゼリー飲料とスティック状のクッキーを投げてよこした。


「あ、黒岩さん。おはようございます。体調よくなりましたね」

 フロアの奥の休憩室からリリーとサラが表れる。


「高堂さん、次どうぞ……水とタオルが大量にあるので、奥の部屋で体をふいてきたんです」

「よしよし、じゃあ善ちゃんセンパイの体を拭いてあげよう」

 風子が俺の腕をグイッと引っ張り、奥に連れて行こうとする。

「いい、いい。自分でやる」そして俺は抵抗する。


「そのー……」

 リリーがその様子をみて何か言いたそうにしている」

「二人って付き合ってるんですよね?」

「付き合ってない。こいつの距離感がバグってるだけだ」

 俺は風子がその場に留まるよう、頭を押さえつける。


*****


 体を拭くとタオルが黒くなるほど、俺のからだは汚れていた。サラの言う通り、水は大量にありシャンプーも置いてあったので、ありがたく使わせてもらう。

 俺の後に風子が体を拭き、四人がフロアの中心に集まる。時計は午前8時を示していた。


「さあ、これからどうしようか」

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最弱メンバーでゾンビパンデミックを生き残る話 フカワトイ @fukawatoy

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