第2話 動画を見て現状を把握する話
【横浜高層ビルの様子.mp4】
「ほらあれ。最上階のところ、窓側に人が集まっててさ」
記念撮影を取るためにポーズを取っていた女性は、撮影者の男性の声によって背後を振り返る。
「混んでるだけじゃないの?」
「いや、風景を見るためにあんなにギチギチにならないでしょ。もしかして、何か起きてるんじゃないか?」
カメラが高層ビルの最上階をアップする。窓際の人の上に人がよじ登り、次々と波のように人が押し寄せている。
「ええ? ヤバ」
「……何かから逃げてる?」
撮影者の周囲の人間も起きていることの異常さに気が付き、感想を口々につぶやきはじめる。
「うわ、あれ人? キモッ!」
「……血じゃない?」
「うそ~!」
次の瞬間、最上階の窓に赤色の液体が飛び散る。異常な事態が発生していることは明白で、戸惑いの声が悲鳴に変わる。
「なに? テロとか?」
「あ、割れた」
最上階から洪水のように赤い液体と人の様なものががあふれ出す。発展の象徴たる青いガラス張りの高層ビルは、みるみるうちに赤黒く汚れ、グロテスクな見た目に変貌した。
最上階からの洪水が収まると、ひとつ下の階のガラスが同様にはじけ飛ぶ。同じように人だったものが流れ出す。以下繰り返し。
「やばい、やばい」「離れた方がいいって」一瞬にして撮影者の周囲はパニック状態になる。
撮影者は撮影モードをそのままスマホをポケットに入れたのだろう。画面は真っ黒になり、サイレンと怒号の音声だけが聞こる。そして、爆発音が聞こえたところで映像は終わった。
【テレビJX.mp4】
アナウンサーがバタバタと慌てた様子で席に座る。背後に映るフロアのスタッフも大勢が右に左に駆けずり回っている。映像の右上には14:03との時刻表記されている。
「速報です。本日午後、東京・神奈川・大阪の高層ビルにて暴動があり火災が発生しました。現在も炎上は続いており、消防による消火活動が行われています。えー……新宿と中継が繋がっています」
画面が中継先に切り替わり、アナウンサーが中継先の人間に説明を促す。
しかし画面から聞こえてくるのは「ハァハァ」という誰かの息遣いばかりで映像は暗いままだ。人の動く喧騒と、叫び声だけが数秒間流れ続け、映像がアナウンサーに戻る。
「映像が乱れ失礼しました。中継先につながり次第現地からお伝えします。本日午後、東京・神奈川……」
「こっち先に読んでっ!」
番組スタッフがテレビで放送されていることも構わずに大声でアナウンサーを指示する。アナウンサーは慌てて渡された用紙を一瞥すると、目を大きく見開き驚きの表情を浮かべる。その後すぐに表情を元に戻し、原稿を読み始める。
「速報です。国交省によりますと、現在、羽田空港・成田空港にて多数の航空機が墜落・炎上しており、すべての滑走路を閉鎖……えー、すべての便の離発着の取りやめているとのことです。繰り返します……」
アナウンサーが原稿を情報を読み終わる前に、新たな原稿がスタッフから手元に寄せられる。アナウンサーは寄せられた順に原稿を読んでいくが、その内容はどれも全国規模かつ現在進行形の事案ばかりで、大規模な何かが発生していることを想像するのは難しくなかった。
アナウンサーは原稿を読み上げるのをやめ、息を整えたのちカメラに向かって落ち着いた表情で語り始めた。
「現在、情報が錯そうしております。それぞれ詳細が分かり次第、整理してお伝えします。全国各地にて混乱が生じているようです。まずは各ご家庭・ご自宅に鍵をかけて待機し、ご家族と安全を確保しましょう」
アナウンサーはそう言うと、新たに届けられた原稿の消化を再開した。
【大阪_定点カメラ.mp4】
大阪に建つ超高層ビル『大阪蒼天タワー』が画面の中央に映っている。カメラは一定間隔で左右に首を振り、大阪の風景をライブ中継している。右下には時刻が13:49が表示されている。
13:45:04 『蒼天タワー』の展望台のガラス窓が徐々に黒ずんでいく。
(人が窓際に密集しているものだと思われるが、遠方からの映像のため詳細は確認できず)
13:47:30 最上階から順に下の階層が黒ずんでいく。
13:50:37 最上階の窓の上の上の方まで赤い液体が飛び散る。
13:52:01 最上階の窓が割れ、人が割れた穴から流れ落ちる。
13:54:20 下の階層の窓も同様に割れる。最上階から数えて3つ下の階層から出火する。
13:56:59 旅客機が撮影箇所とタワー間を体勢を崩しながら落ちていく。
14:00:30 街中から煙の炎が上がり始める。
14:03:09 ヘリコプターがタワーの周囲を周回し始めるが、数十秒でコントロールを失い地上に向けて落下していく。
14:05:40 街からの炎上が強くなる。
14:20:20 インターネット接続が途切れる
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