第20話 ティリオの立場
一国の宇宙戦艦が惑星アースガイヤから、その隣の星系軌道にある惑星アレスの間を航行していた。
魔導文明アースガイヤでは、珍しくもなくなった全長千キロの宇宙国家戦艦の一つ。
その宇宙国家戦艦の名は、セイントセイバー。
かつて、ディオスの元に集まった十二名の者達を始まりとして、聖帝ディオスの専属戦士から部隊へ、そして…それは今や巨大な宇宙国家レベルの戦力軍団へ拡大した。
この宇宙国家戦艦セイントセイバーは時空間を移動する時空航行能力を有している。
その理由は…数多の時空間問題が起こった時に、超越存在や宇宙王達が協定を組んでいる時空間連合軍をまとめる役目を持っている。
数年前、ディオスがシュルメルム時空、シュルメルム宇宙工業学園の時空で発生したディスガードの事件の際に、宇宙王や超越存在達による時空間連合軍が出撃して、そのディスガードに侵食された銀河を救済した時も、この宇宙国家戦艦セイントセイバーが出撃していた。
それは、ヴァナルガンド事変というティリオがヴァナルガンドの英雄となった事件の時に…。
宇宙国家戦艦セイントセイバーの巨大な住居空間、都市がまるごと入っているそこの公園をランニングしている十代後半の少年がいる。
金髪をなびかせて公園をランニングしていると、目の前に少年の上官であるアーヴィングの姿があった。
「アーヴィング隊長、お疲れ様です」
と、少年が呼びかける。
アーヴィングが呆れ気味に
「休暇の時に隊長はやめろ。さんでいい。クロスト」
宇宙国家戦艦セイントセイバーには、十二の部隊がある。アーヴィングはその一番隊、要するに十二の部隊を纏める部隊の隊長だ。
クロストは、そのアーヴィングの下についている副官の一人だ。
アーヴィングが
「こんな休暇中でも訓練か?」
クロストが首を横に振り
「いえ、休暇です。体を動かす方が…気分が良くなるので…」
アーヴィングが
「健康的で良いが、ムリはするなよ」
クロストは頷き「はい」と答えた後、クロストの通信に友人の女性が出て
「失礼」
と、クロストは腕にある端末に触れると立体映像が出現し、その友人の女性が
「クロスト! ティリオが帰ってきているって知ってる?」
クロストが眉間を寄せて
「本当か?」
と、次にアーヴィングを見る。
アーヴィングが微妙な顔で
「クロスト、ティリオは用事があって一時帰還をしているから…」
クロストが背筋を伸ばして
「アーヴィング隊長、失礼します。急用ができました」
アーヴィングが頭を抱えて
「ティリオの邪魔はするなよ」
と、全速力で去って行くクロストの背中へ呼びかけた。
◇◇◇◇◇
ティリオは軌道エレベーター型コロニー・ミリオンの工業区にいる。
ティリオがいるオペレーション席には、ファクドとレリスにグランナの三人と、グランナの仲間五人がいる。
十キロ程の巨大な工業施設内を浮遊移動式の席で飛び回りながら、これから目的の宇宙戦艦を建造する。
十キロの施設ない空間に目的の宇宙戦艦の立体映像の等身大設計図が投影される。
その立体映像の設計図を元に様々な部品を組み立てる。
グランナが
「じゃあ、オレ等は施設内に設置されたオメガデウス・フォーミュラ・スペリオルで資材を生産するから」
グランナの仲間のラドとシェルテの五人が頷く。
ティリオが
「ああ…よろしく」
ファクドが
「ぼくも手伝うよ。見ているだけじゃ、つまらないから」
レリスも
「自分も手伝う」
ティリオが戸惑い気味に
「いいの? 助かるけど…」
ファクドは微笑み「いいさ」と。
レリスは頷き了承をする。
ファクドはゴールドジェネシスの力、空間を操作する力を使って宇宙戦艦のエネルギー経路と細かな部品を生産する。
そのエネルギーはグランナの超越存在から受け取る。
レリスは、工業施設内にある膨大な組み立てドローンを操作してグランナとファクドにティリオが設計し生産する部品を目的の箇所の立体映像の設計図へ運び繋ぐ。
ティリオは、宇宙戦艦のメインエンジンを製造しながら、協力してくれる事で早く完成するので、彼らに感謝した。
エアリナとルビシャルは…。
◇◇◇◇◇
ルビシャルは、充人の屋敷があるヴォルドルの敷地内で、充人の子供達と共に機神の見せ合いっこをしていた。
ルビシャルは、自身の機神の中でも最も
ルビシャルの背中から独特の紋様、機神の顔を形取った光の像が出現し、そこをゲートに四十メートルという機神が出現する。
青紫で重甲冑のような体と背中には、巨大な翼を広げているルビシャルの機神。
「おおお」と充人の子供達は喜び見上げる。
そして、充人の子供達三人も機神を取り出す。
上下V字の翼を伸ばす甲冑の体を持つ機神が三つ出現する。
ルビシャルと充人の子供達は、お互いの機神に乗ったり説明し合って、アースガイヤを飛んで回る事になった。
ルビシャルの機神を中心に、充人の子供達の機神が周回する感じで飛んでいき、アースガイヤを巡る。
それを遠くから見つめる充人の妻の一人レディナは、有り触れた光景なので
「遠くへ行ってはダメよ」
と、何時もの忠告する。
子供達とルビシャルは、楽しげにアースガイヤの回遊飛行を楽しむ。
◇◇◇◇◇
エアリナは…ジュリアとナリルとアリルの三人と共にディオスの屋敷の日々を見る。
そこには、ディオスの子供達が機神の素体を元にしてゼウスリオンを庭先で作っている風景を見る。
エアリナが困惑と驚きに眉間を曲げて
「これ、マジなの?」
ティリオ達の弟妹が多腕を持つ小型の人型装置、デウスメーカーに乗って、様々な装甲や装置をミリオンから降りて来る輸送艇から取り出して組み立てる。
エアリナの右にいるアリルが微笑み
「そう、これがティリオの家の日常だよ」
ティリオと年齢が近い十六歳の弟のシュリオがエアリナの前に来て
「完成したから乗ってみる?」
と、組み立て終わったゼウスリオンを指さす。
エアリナが困惑するも、その背中をナリルが押して
「大丈夫よ。問題があっても、弟達が何とかしてくれるから…。それに操縦は前に乗ったゼウスリオンと同じ思考制御だから」
「う、うん」とエアリナは頷きゼウスリオンに乗る。
ゼウスリオンの操縦席、それは前に乗った感じと同じで、思考で動く事が出来る。
エアリナの指示する思考でゼウスリオンは飛翔して飛んでいく。
それに、シュリオが機神を呼び出して乗り、後を付いていく。
エアリナが操縦するゼウスリオンは、数秒で宇宙へ到達、ミリオンがハッキリと見える宇宙域まで来た。
エアリナは溜息交じりだ。
エアリナの時空では、
「ホント、なんていう時空なの…」
と、漏らしてしまう。
そして、同時刻、クロストが乗った宇宙艦がミリオンに到着して、クロストは直ぐに感覚を研ぎ澄ます。
自身にあるシンギラリティの渦の感覚を増大化させて
「見つけた」
◇◇◇◇◇
ティリオは、宇宙戦艦の建造中に感じた。
手が止まったティリオにグランナが
「どうしたんだ?」
ティリオが微妙な顔で
「面倒くさいのが…また…」
グランナが首を傾げ
「え? 本当にどうしたんだ?」
ティリオがとある部分に視線を向けると、足場のカーゴに乗って降りて来るクロストの姿があった。
グランナがクロストを見つめて
「アイツが…何か?」
クロストがティリオとグランナのいるオペレーションポッドに来て
「やっと帰ってきたんだな…」
と、クロストは腕を組んで答える。
ティリオが難しい顔で
「クロスト…話は後で…」
グランナはティリオとクロストを交互に見つめる。
クロストが厳しい顔で
「何時まで、遊んでいるつもりだ。ティリオは自分の立場を分かっているのか!」
と、剣呑な雰囲気になる。
それに別のオペレーションポッドに乗っているファクドとレリスも気付き、ティリオ達の元へ来る。
ファクドが
「ティリオ…彼は…なんだい?」
クロストがファクドにグランナとレリスを見つめると同時に、自身のシンギラリティの渦の感覚を使って、三人を調べる。
それにファクドとグランナにレリスが気付き、レリスが
「いきなり覗くなんて…失礼じゃあないか?」
そこへ、資材生産をしていたラドとシェルテの五人も来て
「どうしたんですかぁぁぁ」
と、五人が乗ったオペレーションポッドも来た。
クロストが
「なるほど、ティリオが覚醒させた
グランナとファクドにレリスはアイコンタクトする。
グランナが
「どういうつもりだ…アンタ…」
クロストが
「どういうつもりも…自分は」
そこへ「クロスト」と上から呼びかける声がした。
その主は、同じ足場のカーゴに乗るジュリアとナリルだ。
アリルにエアリナを任せて、アーヴィングから連絡が届いて、ここへ来た。
いや、クロストが行くと知って駆けつけた。
ジュリアがクロストに
「クロスト、ティリオは用件があって帰還したから、話は…」
クロストが
「ジュリアお嬢様の言葉でも、引けません」
ナリルが
「クロスト…みんなの話し合いで納得して」
クロストが
「ナリル、自分は納得していない。親同士の話し合いで決まった事で、自分には関係ない」
ジュリアとナリルが呆れる。
ファクドが
「あの…こちらの方は…?」
その問いにジュリアが
「彼は、クロスト・セカンド・ヴォルドル。私の分家の子で」
ナリルが
「私の父さんの妹が母親の親戚なの」
グランナとファクドは、内心でうわぁ…と親戚の濃さを感じた。
ティリオが
「で、ぼくの幼年部から中等部にかけての同級生、幼馴染みの一人」
うわぁ…とグランナとファクドは納得する。
クロストがティリオに近づき
「なぁ…いい加減にしろ。ティリオ、自分の立場を分かっているのか…」
ティリオが呆れ気味に
「分かっているだから」
クロストが
「分かってない!」
ファクドとグランナの仲間達が間に入り、ファクドが微笑みながら
「まあまあ、とにかく…積もる話が多そうなので、ちょっと休憩して…ね。話し合いという事で」
グランナも
「ティリオ、とにかく、一旦は作業を休止でいいな」
ティリオが面倒で頭を掻いた。
◇◇◇◇◇
大きなカフェエリアがあるコロニーで、コロニーないの自然風景を前にカフェ休憩をするティリオ達。
その一団から少し離れた席で、クロストとティリオにジュリアとナリルが見合う。
直ぐ隣の席にファクドとグランナにレリスが見つめる席と、ちょっと離れた位置にラドとシェルテ達五人の席がある。
シェルテが飲み物を吸いながら
「ラド…なんか似ているよね」
ラドが頷き
「ああ…」
グランナの仲間達はクロストの感じに憶えがあった。
◇◇◇◇◇
腕を組みティリオを見つめるクロスト
そのクロストを説得しようと悩むティリオ。
ジュリアとナリルは、相変わらず暴走気味のクロストに手を焼く。
クロストが
「ティリオ、お前は…将来、ディオス様と同じく我らセイントセイバー部隊を率いる使命がある。それを忘れてはいないだろうなぁ…」
ティリオが
「忘れてないよ。だから、勉強の為に」
クロストが
「この時空でも、問題ないだろうが」
ティリオが
「それじゃあ、勉強にならないだろうが。別の場所、自分の立場が通じない所に行って初めて、色々と分かる事があって…」
クロストが
「こんな、お遊びみたいな事が勉強なのか!」
その話し合いをファクドは見つめていて、クロストの雰囲気にどこか…似た人を横見する。
それはレリスも同じだ。
二人に横見されるのはグランナだ。
グランナは頭を抱える。
そう、クロストの雰囲気が自身と似ているのだ。
グランナはティリオと付き合い易い理由が分かった。
こういう事だ。
自分と似た、仲間思いで郷土愛が強いタイプが近くにいたからだ。
グランナは、ティリオとクロストの会話を聞いても平行線な状態だ。
多分、ティリオが折れないとムリな感じだが…ティリオは折れないだろう。
グランナが席を立つ。
「お…」とファクドが声を出す。グランナがファクドを見て、ファクドは席から立ち上がりそうなのを止めて座る。任せる事にした。
ティリオと平行線状態のクロストにグランナが
「なぁ…クロストさん」
クロストが鋭くグランナを見る。
入ってくるな!と無言の圧だ。
グランナは頭を掻いて
「約束するよ。必ずティリオは、規定通りの勉学日数で勉学を終わらせて、アンタ達の元へ帰すから」
クロストが驚きの顔だ。
クロストは、ティリオがなんだかんだ言って、外で勉強する日数を伸ばさせるだろうと思っていたからだ。
それにシャナリアの事件の話も聞いて心配もしていた。
ティリオが、えええ…と困惑を見せる。
グランナが
「アンタが…クロストさんが、心配して色々と言う理由も分かるけど、ティリオはチャンと勉強している。ここにいる面子を見ても分かるだろう」
クロストが渋い顔をする。
もし、ティリオが適当な相手と組んでいるなら、無理矢理でも戻すつもりだった。
だが、違う。ティリオが共に連れてきた者達に関しても事前に調べている。
なにより、グランナだからこそ通じる。
グランナは、ティリオによって超越存在になった。
そして、今もだが、将来に渡って自分の時空を支える仕事をしている。
その信頼は強い。そして、グランナもティリオの家族、桜花の親族でもある。
クロストが
「本当に約束してくれるのか…?」
グランナが
「クロストさん。ティリオの事が大切なんだろう。分かるよ。だから」
と、グランナは自分の端末を取り出して
「オレの直通の連絡先を教えるから、心配ならオレを通じて来ればいいさ」
クロストは静かに頷いた。
何とかクロストとの話し合いに説得を取り込む事が出来て、終えた。
◇◇◇◇◇
ティリオ達は宇宙戦艦建造に戻り、ティリオがグランナに
「ありがとう。グランナ」
隣で操作するグランナが
「いいさ。お前、大事にされているって分かるよ」
ティリオが苦い顔で
「色々と昔にあったから」
と、自分の背中を…あの呪いを無意識に触れる。
グランナが
「大切に思っている人達がたくさんいるんだから、変な事をするなよ」
ティリオが
「ああ…」
グランナがポツリ
「オレも、その一人だけどな」
◇◇◇◇◇
グランナ達が手伝ってくれたお陰で宇宙戦艦の建造が早くに終わりそうだった。
建造後半になると、ほとんどが自動作業となり、ティリオに暇が出来た。
ティリオは、その暇な時間の時に宇宙国家戦艦セイントセイバーへ向かった。
ティリオは、セイントセイバー部隊の顔馴染み達の元へ向かい、ティリオが来た事で、セイントセイバー部隊の中が活気づいた。
ティリオは色々とセイントセイバー部隊の仲間から質問攻めにされるも、悪い気分ではない。彼ら彼女らは、ティリオの事を心配しているのが分かる。
そして、ティリオ達はシュルメルム宇宙工業学園へ戻る事になり、後で検査を終えた長期航海訓練の宇宙戦艦が到着する。
シュルメルム宇宙工業学園へ戻る宇宙戦艦内でルビシャルが
「色々と楽しめたし、また…夏期休暇の時に来たいなぁ…」
ティリオが
「また、この面子でアースガイヤに帰還するのか?」
ルビシャルがイタズラな笑みで
「問題ある?」
ティリオは
「別に…問題ないけど」
と、他の学友達を見る。
ファクドは笑み、レリスは淡々として、グランナが
「オレは、一向に構わないぜ。そっちは?」
ファクドが
「ぼくも問題ない」
レリスも
「自分も」
ティリオが頷き
「分かったよ。また…」
「当然、私も入っているわよね」
と、エアリナがティリオの肩を掴む。
ティリオは溜息交じりで
「はいはい。分かりましたよ」
こうして、また…この面子をアースガイヤに呼ぶ約束が出来てしまった。
ティリオはフッと笑ってしまう。
嬉しいような、呆れるような不思議な感情をティリオは感じるのであった。
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