第21話 宇宙戦艦デュランダル


 長期航海訓練まで、あと五日となり、アースガイヤで検査を終えた宇宙戦艦がシュルメルム宇宙工業学園へ届けられる。

 その宇宙戦艦に今回、一緒に乗り込むホームの者達が荷物やらマキナやら、色々と運び込む。

 ティリオ達、グランナ達、ファクド達、レリス達、ルビシャル達、エアリナ達の六つのホームの生徒達が共に二ヶ月を過ごす長期航行訓練。

 その違う種族や時空民が共に暮らせるように建造された全長四千メートルの宇宙戦艦に七つ目の生徒達が来る。

 それは…

「こんちは〜」

と、呼びかけるのは千華と

「よろしくお願いします」

と、紫苑だ。


 別時空の宇宙女子学園の生徒という事で、千華や紫苑の組織にいる十代の少女達が一緒に加わる事になった。

 学年で紫、赤と何処となくスーツのようで女子らしいシックな制服を纏う、千華達の組織カレイドの女子メンバーと対面したティリオは渋い顔だ。

 シックな制服は、明らかに布地に似せた特殊ナノマシン合金で構築されていて、様々な武装に変形する。

 それを身に纏う彼女達は特別な改造を施されている。

 ナノマシンとカレイドの技術である次元転移型エネルギーの生産炉。

 カレイドは、かつて…ティリオに超越存在とゾロアスの呪いを植え付けた聖櫃という装置を遙か昔に作り出した。

 今は、その聖櫃は失われて、その応用技術から次元のエネルギーを様々な動力に変換する生体炉を内蔵する、生体人造人間…というべき存在をカレイドは使っている。

 無論、千華や紫苑も…。


 ティリオは渋い顔で千華や紫苑を見つめていると、千華が

「そんな怖い顔をしない。アタシ達も訓練の一環として参加するだけだから、ね」

と、ウィンクする千華。


 紫苑が冷静に淡々と

「それもありますけど、スラッシャーが貴方に固執しているので、今回の事を狙って襲いかかるかもしれないので、そこを…私達が…」


 ティリオが項垂れて

「まあ、いいか。普通の生徒として過ごしてくれるなら問題ないから」


 千華がイタズラに

「もしかして、ウチの子達と、アンタ達の誰かがラブロマンス! なんちゃって」


「フン」とティリオは鼻で笑った。


 千華は不満な顔で

「そういう態度を隠さないのが、腹立つんだけど」


 紫苑が

「まあ、戯れはそこまでとして…今回の実習の宇宙戦艦の名は?」


 ティリオが到着した四千メートルの宇宙戦艦を見つめて

「デュランダル…って名前だ」


 紫苑が「デュランダル…」と言って横に見える宇宙戦艦デュランダルを見る。

 青と赤の船体は鋭い剣のように真っ直ぐで、その周囲を動力と推力を生み出す金属の翼が船体に備わるリングに乗って周回している。


 千華が

「しかし、アースガイヤの技術は凄まじいねぇ。空間を操作して動力と推力を生成して動くなんて、そのお陰で船体に動力炉を備える必要がないとは…」


 ティリオが

「予備的な動力と、マキナやその他の修理、食料生産の動力は別で生産している。全てがあの翼から生成される訳じゃあない」


 紫苑が

「それでも、その技術はどの時空より凄まじいのは変わりありませんから」


 ティリオは無言だ。

 この宇宙戦艦デュランダルに使われている技術は、全部が自分の、アースガイヤで使っている、自分にとっては有り触れたモノばかりだ。驚きはない。でも…

「とにかく、普通に学生の生徒として振る舞ってくれよ」

と、千華と紫苑に釘を刺した。



 ◇◇◇◇◇


 ティリオとジュリアとナリルとアリルの四人が学食の食堂で食事をしていると、エアリナが来て

「座るわよ」

と、ティリオの対面側に座った。


 ティリオが

「そっちの荷物の搬入は?」


 エアリナが

「もう、終わるわ。後は…他の連中のなんだけど…聞いたら、私達と同じらしいわ」


 ティリオが

「じゃあ、問題なく長期航行訓練に行けそうだな」


 エアリナが呆れ気味に

「マキナまで修理運用できる宇宙戦艦って、どんだけ豪勢なんだか…」


 ティリオが顔を上げ

「今までは出来なかったのか?」


 エアリナが呆れ笑みで

「マキナの運用って難しいのよ。それ…ほんと、やれる施設を組み込めるんだからアンタの技術は凄いわ」

 そして、エアリナが

「アンタみたいに、無敵なら何でも出来るんでしょうね。どんなヤツだって救えちゃうくらいに」

と、軽めにエアリナが、ちょっとした皮肉と嫌みだった。

 

 だが、ジュリアとナリルとアリルの三人はティリオの雰囲気が変わったのに気付いたが…


 ティリオが手を握り締めて、ダンとテーブルを叩き

「ぼくは、一番、大切な人を、友達を救えなかった! だから、クソ!」

と、ティリオが再びテーブルと怒鳴って叩いた衝撃で、エアリナの食事が載るパレットが跳ね上がった。


 エアリナは困惑していると、ジュリアとナリルとアリルがティリオを抱えて、ジュリアが

「ごめん、エアリナ。今は…マズいから」

と、ティリオを連れて去って行った。


 エアリナが困惑で固まっていると、そこへ食事しに来たグランナ達が来て、グランナが

「おい、今、ティリオの怒鳴り声が聞こえて…エアリナ、お前…」

 グランナは、エアリナがまた、余計な事を言ったと…。


 エアリナは困惑気味に

「ええ、私が…?」

 

「全く…」とグランナが呆れつつ、後でティリオ達に事情を聞こうと…。


 エアリナは自分の何処が…問題なのか?と困惑していた。




 ◇◇◇◇◇


 ティリオは、自分のホームに帰ってきて頭を抱えていた。

 自分達のベッドに腰掛けて

「どうして、あんな事を言ったんだ?」

 先程、エアリナに声を荒げた事に、やってしまった…と後悔していた。

 あの程度の皮肉なんて、何時もなら受け流せるのに…。

 そもそも、エアリナの皮肉なんて何時もの事で、動じる事なんてない筈なのに…。

 自分で、声を荒げてしまった事にショックを受けていた。


 そこへジュリアが来てティリオの隣に座り

「ティリオ…調子はどう?」


 ティリオは頭を振り

「そんなに悪くないはずなのに…なんで…さっき…」


 ジュリアが

「言い過ぎたと思ったらなら…後で謝りに行こう」


 ティリオが立ち上がり

「いや、今すぐに謝ってくるよ」

と、エアリナのホームへ向かった。


 ティリオが出て行った後にグランナが来て

「おーい、ティリオ…どうした?」


 それにナリルが

「ああ…グランナ、いらっしゃい」


 グランナが呆れ顔で

「遠巻きで見たけど、エアリナのヤツ…変な事を言ってティリオを怒らせたんだろう。何があったんだ?」


 ナリルが少し暗い顔で

「普段なら…ティリオは平然と受け流すんだけどね」


 グランナが首を傾げ

「何か、深刻な事でも?」


 ナリルが

「ちょっと、話をしよう」

と、立ち話では長くなるので、ホーム内で一服しながら話す事にする。


 ◇◇◇◇◇


 グランナがテーブルで飲み物を貰いながら、ジュリアとナリルとアリルの三人を正面に話を続ける。


 グランナが

「ちょっと、長くなるってどういう事なんだ?」


 ジュリアが

「最近、ティリオ…笑う事が多くなってきたじゃあない」


 グランナが首を傾げて

「そうか? オレには変化が分からないんだけど」


 アリルが

「ここに来る前は…もっと、そう…厳しい感じで、どこか…固い感じだったの。何に対しても距離感があるっていうか…」


 ナリルが

「私達や近しい人、家族には、そんな事はないけど。それ以外は、どこか遠巻きに見るように冷静で、大人びていたわ」


 グランナが

「それって何か…原因があるのか?」


 ジュリアとナリルとアリルは、グランナに一莵の事を話した。

 それを聞いてグランナが

「そんな、ティリオが思い悩む事じゃあないだろう」


 ジュリアが

「それでも、ティリオは自分が弱かったから…って」


 グランナが渋い顔で

「そんな、弱かったって、誰だって完璧じゃないし、完全でもない」


 アリルが

「ティリオの家に関しては、宇宙戦艦の時に来たから事情は分かっていると思うけど、ティリオは小さい頃から、聖帝のお義父さんから色んな技術や能力に愛情を沢山うけて育ったわ。ティリオの弟妹達も同じで、超高位の創造能力が備わっているわ。ティリオは、その高い創造性の能力を無意識に自覚している。でも…それでも…」


 ナリルが

「助けられない事があって、ましてや…それが一番に気を許していた友人だった」


 グランナが目を瞑り痛そうにする。

 グランナにも…それと似たキズを受けた記憶がよぎる。

「そうか…そんな事が…」


 ジュリアが悲しそうな顔で

「でもね。ティリオだけが傷ついた訳じゃないの。クロスト達も傷ついたわ」


 グランナが

「あのアースガイヤの…」


 ナリルが

「クロスト達は、ティリオと私達が幼少期から一緒に育った同士なの。だから、クロスト達以外の仲間達もティリオとは友人だと思っていたわ。ティリオが体が大きかったし、成長も早かったから、ティリオが何となく纏め役みたいな感じではあったけど。クロスト達は将来、お義父さんやその仲間達のように、自分達がティリオと一緒にアースガイヤや色んな時空を守っていくんだって思っていたわ」


 アリルが

「でも、ティリオが傷ついた姿を見て、ショックを受けたと同時に、友人でもなんでもなかったって気付いて、クロスト達は自分の無力と幼さを思い知ったの」


 グランナは色んなピースが填まっていく感覚が過り

「ああ…だから、あんなに連中はティリオに拘っていたんだ。無力だった自分達が、今度はティリオを守る。本当の仲間に…」


 ジュリアとナリルとアリルが俯き加減で、ジュリアが

「本当に、あの事件は多くの傷跡を残したわ」


 ナリルが

「だから、私達は…ティリオがこの学園に来て、普通に学園生活を謳歌して、そして…グランナが友人となってくれた事に感謝しているわ」


 アリルが

「私達は、ティリオの奥さんで妻にはなれるけど、友人にはなれない。だから」


 グランナが

「心配するな、これからも未来も、ずっとティリオと友人だ」


 ジュリアとナリルとアリルが微笑み、アリルが

「ありがとう。グランナ」


 グランナは、ティリオ達の嫁三人から事情を聞いて、その帰りに

「ティリオ…エアリナの所へ行ったんだったなぁ…」

と、ティリオの後を追った。



 ◇◇◇◇◇


 ティリオはエアリナのホームに来ると、玄関のシステムがティリオを捉えて

「こんにちは、ティリオ様。どのようなご用件で?」

と、玄関のシステム、ホーム管理システム、人工演算知能AGIが返答する。


 AGIにティリオが

「エアリナ、いるかい?」


 AGIが

「はい、ご在宅です」


 ティリオが

「エアリナと話がしたいんだけど…」


 AGIが

「では、お呼び致しますね」


 数分後、玄関が開きバツが悪そうなエアリナが現れて

「な、何よ…」

と、何となくエアリナがぎこちない。

 

 ティリオは頭を下げ

「さっきは…すまなかった。謝る」


 エアリナが、んん…

「まあ、私も言い過ぎたし、こっちも謝るわ」 


 お互いにぎこちない。


 ギクシャクとお互いに固いそこへ

「おい、何、玄関でお見合いしているんだ」

と、小型電動バイクに乗ったグランナが顔を見せる。


 ティリオとエアリナが、グランナを見つめると、グランナが小型電動バイクから降りて

「こんな所で、立ち話も何だろう。中に入ってじっくりと話せや」


 エアリナが

「そ、そうね…じゃあ、どうぞ…」


 こうして、三人はホームの食堂へ来て


 テーブルを囲み、ティリオとエアリナは互いに向き合い、それを隣で見つめるグランナ。

 何時もなら、憎まれ口や、適当な話をするエアリナとティリオが固い。

 それにグランナが

「なぁ…ティリオ、どうして、何時ものエアリナの嫌みに反応したんだ。何時もなら余裕で受け流すだろう?」


 ティリオがハッとして

「確かに」


 エアリナが眉間を寄せて

「私の評価ってそんなに最低なの!」


 ティリオが考えながら

「いや、その…何か…不意に…そう…一莵の…」

 そう、何時もなら過る事がない記憶が、過ってしまった。

 なぜ? どうして? 


 グランナが

「ティリオ、最近、楽しそうだもんな。そういう時って…唐突に…嫌な記憶が蘇るんだぜ」


 ティリオはハッとしてしまった。

 そして、エアリナとグランナの顔を見る。

 エアリナは、何?って顔で

 グランナは、何処となく分かっているような顔だ。


 ティリオが

「そうだ。楽しんだ。楽しくて…」

と、唐突に涙が流れる。


 エアリナがえええ?と困惑して、グランナは静かにティリオの言葉を待つ。


 そして、ティリオの口から、過去に一莵の事件での事が出てきて、それをティリオは話し続ける。


 かつて、聖ゾロアスの覚醒のコマとしてティリオは利用され、一莵という人物がティリオの友人となり、友情を結んでいたと思っていた。

 でも…それは、聖ゾロアスの半身である一莵が、ティリオを利用する算段でしかなった。

 聖ゾロアスの覚醒は、成されて…一莵はティリオを裏切った。

 それにティリオは深く傷ついた。

 いや、一莵を助けられなかった事に傷ついた。

 自分は、あの聖帝ディオスの息子であり、能力的には、聖帝ディオスと同格というお墨付きまで得て、誰かを助ける事が出来ると思っていた。

 でも、出来なかった。

 聖帝ディオスから受け継いだ力でさえも敵わない存在はいる。

 そして、それでも助けられない人がいる。

 大切な友人であっても…

 そのキズを抱えて生きてきた。


 それが…この学園に来て、友人を得て…そして…学園生活を謳歌して。


 それを聞いたエアリナが少しだけ悲しげな顔で

「なるほどね。そういう事か…」


 ティリオが

「ぼく、ここが楽しくて…」


 グランナが

「なぁ…ティリオ、その時は、それしかなかったかもしれないが。今は違う結果になるだろうよ。オレ達がいるんだから」


 ティリオは微笑み

「そうだね。きっと、未来は変えられるから」


 三人は納得した後、ティリオとグランナは帰って行った。

 ティリオから話を聞き終えたエアリナは、部屋に戻り

「人なんだから、色々とあるか…」

 ちょっと、ティリオに対する態度を変えようと思ったと同時に、自分と同じく大切な人を失った悲しみをティリオが持っているのを知って、とても近くに感じた。



 ◇◇◇◇◇


 長期航行訓練が始まる。

 ティリオ達が乗る宇宙戦艦デュランダルがシュルメルム宇宙工業学園から出発していく。

 宇宙戦艦デュランダルの艦長は、何となくデュエロタクトの纏め役をしているファクドがその役目に就いた。

 そもそも、航海中はデュエロタクトの訓練もするので、それが適任だ。


 ファクドが全長四千メートルの宇宙戦艦デュランダルの艦橋で

「では、これより、長期航行訓練を開始する。皆、気を引き締めつつ、楽しむ所は楽しんで学んで行こう!」


 おおおお!と宇宙戦艦デュランダルの各部署にいる生徒達が盛り上がる。


 巨大な剣のような形状の宇宙戦艦デュランダルは、動力炉である推進力を生み出す鋼鉄の翼を回転させて、宇宙を進んでいくのであった。


 宇宙戦艦デュランダルの艦橋で、システムのチェックをするティリオが順調な滑り出しに満足していると、そこへエアリナが来て

「機関長、どうです。動力の具合は?」


 ティリオが微笑み

「問題ない、余裕もあるし、予定通りだ」


 エアリナが

「学園からの監視が、ありつつも。私達、生徒だけの艦内生活の二ヶ月だから、色々とあるわよ」


 ティリオが

「デュランダルのシステムは順調だけど、一番の面倒な問題は、艦内で発生する人間関係の問題だな。色恋沙汰が、一番の爆弾だな」


 エアリナが呆れ気味に

「同年代の健全な男女が一緒にいるんだから、色々とね」


 ともかく、長期航行訓練は始まった。


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