第15話 再臨

 

 スラッシャーを押さえたカレイドの千華と紫苑。

 千華の銃口がスラッシャーの背中にピッタリと付けられている。

「アンタ…なんで、こんなモノを…」

と、千華はスラッシャーが運ぶシャナリア・エリストが入る円筒の液体槽を横見する。


 紫苑が円筒の液体槽を調べる。

 円筒の装置の端末に触れて

「生きてる…」


 スラッシャーが

「乱暴に扱わないでくれよ」


 千華がスラッシャーの背中を銃口で押して

「お前等…何時から、こんな外道に」


 スラッシャーが両手を挙げて降参のポーズで

「オレじゃあねぇ。アイツだよ…聖ゾロアスだよ」


 千華の顔が忌々しげに

「ホント、最低だわ…」


 スラッシャーが

「なぁ…帰っていいか? オレは、これを置いてくるように頼まれた使いっ走りであって…」


 更に千華が銃口でスラッシャーの背中を押して

「お前は、アタシ達が連れて行くんだ。おいそれと」


”それは、こまる…”


と、千華と紫苑、スラッシャーの脳裏に言葉が転送される。

 同時に、円筒の液体槽にいるシャナリア・エリストが淡く光っている。

 そして…ビキッと液体槽の透明な素材の表面に亀裂が


「え?」と紫苑が下がった瞬間、一瞬で液体槽が割れて中身の液体が噴出する。

「紫苑!」と千華がスラッシャーから離れて、紫苑を抱えて脱兎した。


 液体槽が割れて中身の液体が広がり、その割れた液体槽からシャナリア・エリストが立ち上がると光を放って裸の体にシュルメルム宇宙工業学園の制服を構築して着る。


 スラッシャーが「じゃあ、そういう事で!」と脱兎する。


 千華に守られて抱えられる紫苑が

「待て!」

と、スラッシャーへ発砲するも、スラッシャーは軽やかに飛び跳ねて何処かへ消えた。


 千華が紫苑を離しながら

「まずい事になかったかも…」

と、千華と紫苑は、佇んでいるシャナリアを見つめる。


 紫苑が

「どうします?」


 千華が考えている間に、シャナリアの背中から電子回路のような翼が広がり、電子回路の翼が明滅した瞬間、シャナリアが短距離の瞬間移動を繰り返して移動して、このポータルから出て行った。


 ◇◇◇◇◇


 そんな事があった裏では、ティリオとグランナが話をしていた。

 二人はトレーニング機器があるトレーニングジムが密集する地域に来て、緩やかにランニングしながら

「え? じゃあ、エアリナを許婚にしようとしたのは、エアリナの母親を助けるのを手伝う為に」

と、ティリオはグランナと併走している。


 グランナが頷き

「ああ…」


 ティリオが

「じゃあ、なんで悪役みたいな感じで、エアリナとデュエロタクトをしようとしたの?」


 グランナが遠くを見るように

「売り言葉に買い言葉だよ。なんか…自分が上じゃあないと納得しなくて、エアリナが…自分の下に付け!って、うるさくて…」


 ティリオは「ああ…」と納得してしまう。

 自分の事を嫁にするとかしないとか、本当に自分が相手より上でないと…。

 そういうエアリナの幼い部分を見ているので…そういう声が出てしまった。


 そうして、会話しながら二人はランニングを終えて、汗を流して自分達のホームへ戻ろうとした矢先、二人の端末に連絡が入る。

 

 グランナとティリオは、お互いに端末を手にすると相手は、ルビシャルだ。

 グランナも同じルビシャル。

 つまり、多数との通話だ。


 ティリオとグランナが端末を開くと、立体映像の画面が出て、そこはデュエロタクトのラウンジだ。

 ルビシャルが

「ちょっといい。二人とも…これを見て」

と、別画面を転送する。


 その画面に映っていたのは

「ええ…」とティリオは驚きを。


 その別画面には、電子回路の翼を広げて空中静止するシャナリアがいる訓練大地があった。


 グランナが

「な、どういう事だ?」


 ティリオは青ざめて

「まさか…」


 ◇◇◇◇◇


 彼女は空中に浮かんでシュルメルム宇宙工業学園の訓練大地を見ていた。

「ここは…」


 彼女の目には、淡い光が宿っている。

 それは命の息吹でもある。


 彼女は、訓練大地を見渡す。

「そうだ…私…ここで」

 脳裏の無数の映像が過る。

 誰かを狙った。それが…その後には雑音と砂嵐のように視界が歪む。

 その後…

”どうしたの? 何かあったの?”

 マルスの顔と心配する姿が…

「ああ…マルスに会わないと…」


 彼女、シャナリアは背中から伸びる電子回路の翼を使って瞬間移動を繰り返して消えた。


 消えたそこに小型宇宙艦で来た紫苑と千華が通りかかり

「消えた…」

と、千華は宇宙艦の窓から外をのぞく。


 宇宙艦を操縦する紫苑が

「一体、何が起こっているんですか?」


 操縦する紫苑の隣にいる千華が腕を組み

「んん…攻撃する意図も無いし…」

 復活したシャナリアの意図が読めなかった。


 ◇◇◇◇◇


 ティリオは急いでホームに戻ってゼウスリオンの操縦席に入り

「ナリルとアリル、ジュリア!」

と、ホームの管制室にいる彼女達三人に呼びかける。


 様々な立体映像のタッチパネルを操作するアリルとナリルにジュリアの彼女達が

「今、シュルメルム宇宙工業学園の全システムにアクセスして、探しているわ」

と、ジュリアが


「ねぇ…」とナリルが

「もし…再び彼女、シャナリアさんと戦うしかないってなったら?」


 ティリオが苦しそうな顔で

「分からない。でも…放置するよりは…探し出して、行動する方がマシだ」

と、ティリオはゼウスリオンを操縦してホームから飛び立つ。


 ◇◇◇◇◇


 グランナは、小型電動バイクに乗って自分のホームへ戻っていた。

 このヤバい事態に、ホームの仲間達と力を合わせて…

 そう思っている目の前に、マルスの後ろ姿があった。

「おい!」

と、マルスの背中に呼びかける。


 マルスが立ち止まり声のした方を振り向くと、血相を変えて迫るグランナが見えた。

「ええ…」


 困惑するマルスの前にグランナが止まって

「おい、アンタ、今、大変な事が」


「マルス」と二人の背後で声がした。


 グランナが青ざめて、マルスが名前を呼ばれた方向を見つめると…

「ええ…シャナリア?」


 グランナとマルスの少し離れた所に、電子回路の翼を広げるシャナリアが立っていた。

「マルス…」



 ◇◇◇◇◇


 グランナが青ざめて下がり、マルスは驚愕の顔だ。

 そんな二人が見つめる先には、電子回路の翼を広げるシャナリアが佇み。

「マルス…」


 マルスはシャナリアの姿に

「ええ…そんな…だって、えええ?」


 シャナリアはゆっくりとマルスに近づく。


 グランナがマルスの手を取り

「急いで逃げるぞ」

と、マルスを小型電動バイクに乗せて走り出した。

 急いで逃げようとするグランナと、後ろに乗せられて混乱するマルス。


 だが、二人が乗る小型電動バイクの前にシャナリアが瞬間移動して、グランナはぶつからないように急ハンドルを切ってしまい、小型電動バイクが横転した。

 放り出されるグランナとマルス。


 近くの道路に転がりグランナとマルスが離れる。


 グランナが体を起こして見上げたそこに、唖然として腰を抜かしているマルスと、それを見下ろすシャナリアがいた。


 グランナが

「気をつけろ! そいつは!」

”すこし…黙ってくれたまえ”

と、グランナの脳裏に言葉が入り込む。

 それを聞いたグランナは、全身から血の気が引くほどに硬直する。

 グランナの脳裏に直接に呼びかけたのは、シャナリアを通して見ている聖ゾロアスだった。

 聖ゾロアスの言葉を聞いた程度で、グランナは自分の力の差を感じた。

 聖ゾロアスとグランナは、リンゴの実にある原子一個分もの圧倒的な差がある。

 それをグランナは肌で感じた。

 バケモノ…いや、そんな言葉なんて軽い、埒外、存在している領域が違い過ぎる。


 固まるグランナを余所に、マルスがシャナリアを見上げて

「シャナリア…なの?」


 シャナリアは淡い光を宿す目で

「マルス…私…」

 記憶が破片のようにバラバラで繋がらない。

 だが、マルスと接触した事で、記憶の破片が繋がり始める。

「マルス…ごめんね。私…もっと…アナタと…」

 そう、喋りたかった。一緒に居たかった。

 でも、でも、でも…

 アレを…そう、アレが…。


 この現場にティリオが乗るゼウスリオンが到着する。


 マルスとシャナリアが対面する場を操縦席から見て

「これは…」

と、驚愕するティリオ。

 もしかしたら…説得が…

 ティリオは、ゼウスリオンを近くの広場に下ろして、操縦席から出てくる。

 そして、動かないグランナに近づき

「大丈夫か?」


 グランナが怯えた顔で

「お前…もしかして、あんなバケモノと…戦っているのか?」


 ティリオが渋い顔をした次に、シャナリアとマルスを見る。

 シャナリアの背後からグランナに向けて聖ゾロアスの威圧が放たれているのを知覚し、ポンとグランナの背中を叩いて、その威圧の繋がりを消した。

 

 グランナは、唐突に聖ゾロアスの気配が消えた事に困惑するも

「ティリオが…」


 ティリオが

「ああ…立てるだろう」


 グランナが立ち上がり

「どうする?」


 ティリオが

「説得してみる」


 グランナが渋い顔で

「通じると思うか? 相手は…その…ディオートンと…」


 ティリオは、聖帝ディオスから受け継いだ額のサードアイを開いて、高次元からシャナリアを観測して

「ベースは、人としての彼女で、それにディオートンが付加されている感じだ。上手くコントロールさせるようにして…」


 グランナが

「そうか…だが。一つ疑問がある。アレは…本人なのか?」


 ティリオが渋い顔で

「肉体と魂は…消失したが…。その記憶は…」


 グランナが悲しい顔で

「そうか…死者を弄ぶ…クソって事か」


 ティリオが

「それでも、今の彼女は生きている」

と、ティリオが前に出る。


 マルスとシャナリアが見つめ合っているそこへ

「こんにちは…」

と、ティリオが呼びかける。


 ディオートンとの融合体であるシャナリアがティリオを見つめる。


 ティリオが和やかに

「どこから来たんですか?」


 シャナリアが

「ここの…学校の…マルスと同じホーム…」


 ティリオがマルスを見て

「マルスさん。彼女は知り合いですか?」


 マルスはハッとして立ち上がり

「ああ…はい、一緒のホームで暮らす仲間です」

 ティリオの説得の意図を察して合わせる。


 ティリオがシャナリアに

「少し、調子が良くなさそうですが…」


 シャナリアが視線を泳がせて

「調子、体調…分からない」


 ティリオが

「どうです? 検査を受けて体調を見てみるのは?」

 シャナリアを検査するとしてリミッターを設置する算段を始める。


 マルスがシャナリアに

「ねぇ…ぼくも心配だから、一緒に付いていくから…どうだい? シャナリア」


 シャナリアが暫し考える感じで

「うん…その方が」


 そこへ、紫苑と千華が乗る宇宙艦が現れて、紫苑が操縦席から飛び降りて銃口をシャナリアへ向け

「複製されたクローンめ! 少しでも抵抗するなら!」


「お馬鹿!」と、千華も宇宙艦から飛び降りて、宇宙艦はオートでゼウスリオンの隣に着地する。


 紫苑の銃口を上げさせる千華が

「バカバカ! 説得しているのが分からないの!」


 紫苑が困惑顔で「え」と


 ティリオは青ざめる。

 マルスが顔を引きつらせる。


 シャナリアが顔を両手で覆い

「ああ…そうだ。私…死んだんだった」

と、顔を退けたそこには涙があった。


 あああああああああああ!

 シャナリアが雄叫びを上げて、ディオートンの力を解放する。


「うああああ」とグランナ

「きゃあああ」と紫苑

「ああ! 何てーーー」と千華


 ティリオはマルスへ飛び移り、マルスを抱えてシールドを展開する。


 マルスが

「そんな、シャナリアーーーー」


 あああああああああああ!

 シャナリアは雄叫び、背中から伸びる電子回路の翼を羽ばたかせ飛翔して、どこかへ飛んだ。


 荒れた場でグランナが紫苑に

「アンタは! 何て事を!」


 紫苑が困惑して「ど、どうすれば」


 千華が頭を抱えて

「とにかく、追跡しないと」


 ティリオはマルスを離して、マルスが

「ティリオくん。まさか…また、彼女を…」


 ティリオが苦しい顔をしていると、グランナが

「追いかけるぞ。ティリオ、オレもつき合うぜ」


 ティリオがマルスに

「マルスさんは避難してください」


 マルスは頭を抱えて

「なんで、こんな事に…」


 悲嘆に暮れるマルスにティリオが気が引けるも、グランナが

「オレ達は、オレ達がやれる事をするぞ」


 グランナはティリオのゼウスリオンへ共に乗ってシャナリアを追跡する。


 

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