第14話 グランナの父親


 ティリオはファクドから頼まれていた五人の傍人達のマキナの改修を行っていた。

「さて…」

と、ティリオはホームにある巨大な設計製造装置を前に考えていた。

 ファクドから頼まれていた五人の特徴は…均一だった。

 多少は誤差はあるが、似たような感じだ。


 ティリオは考えつつ

「なら、こういう方法で…」

と、設計製造装置を動かし始めた。


 ◇◇◇◇◇


 数日後、アルド、ルアラ、ラアーラ、アルヤ、ミアラの乗るゴールドジェネシスのマキナが複数のマキナとの対戦をしていた。


 アルドが

「アルヤ! そっちに言ったぞ」


「分かってる」とアルヤのマキナの元へ様々な部品の装置であるドローンが集まり、大きなガトリングとなる。


 アルヤに向かったマキナへ攻撃して一体を撃破。


 別のマキナへは、ルアラとミアラのゴールドジェネシスのマキナが向かい、その二機の両手に部品のドローンが集結して大きなエネルギー剣を二人のマキナに持たせて、それによる近接攻撃でマキナを撃破する。


 この戦いの遠方にいるラアーラのマキナには、ドローンの部品達が集まって巨大な狙撃銃を構築して、ラアーラのマキナに装着される。

 ラアーラは、遠距離攻撃でマキナ達を倒す。


 それをデュエロタクトのラウンジで見つめる一同。

 ファクドが笑み

「流石だね」


 その隣にはティリオが座っていて

「まあ、こんな感じで…」


 ファクドが嬉しそうに

「十分だよ」


 ファクドの傍人達の勝利をラウンジで見届けた。


 ティリオが改修で行ったのは、彼女達五人のマキナが様々な装備が共用で使えるようにした事だ。

 色んなパズルとして組み合わさるドローン達を個々のマキナに装備させ、それを使って必要な時に必要な装備へ合体する。

 これは、五人のマキナに関する能力が近いからこそ出来た事である。


 同じラウンジにいるエアリナは、面白くないと鼻息を荒げている。

 その近くには、レリスが立っている。

 鬱憤を放つエアリナが

「アンタも、ティリオに改修して貰ったら? さぞ、強くなるでしょうね」


 レリスが淡々と

「ぼくは、必要ない」


 エアリナが

「ああ…そうですか! その自信満々を見習いたいですわ」


 レリスがデュエロタクトの戦いを映す画面を見つめながら

「デュエロタクトには色んな戦い方がある。自分が勝てる戦法を見つければいい」


 エアリナが「んん…」と苛立ちつつ「帰る!」とラウンジから出て行った。


 それをグランナが見て

「全く、ああいう所は…」


 ソファーに座るルビシャルが

「ああいう風にムキなってくれるのも、かわいいって」


 グランナが

「エアリナはもう少し操縦さえ良くなれば…オレ達に食い込むくらいに実力があるってのに…」


 ルビシャルが

「アンタのそういう面倒見が良いところは、諸刃の剣だから気をつけなよ。限界ってもんがあるんだから」


 グランナが少し黙った後

「分かっている…」



 ◇◇◇◇◇


 とある日、ティリオが何時ものようにジュリアとナリルとアリルの三人を連れて学園内を歩いていると…

「あの…」

と、一人の男子生徒が呼びかける。

 

 ティリオは立ち止まり

「はい?」


 男子生徒がティリオに近づき

「ティリオ・グレンテルさんですか?」


 ティリオは頷き

「ええ…そうですが」


 男子生徒が

「初めまして、マルス・カイラスという者です。その…シャナリア・エリストと同じホームの生徒でして」


 ティリオはハッとして、ジュリアとナリルとアリルが鋭い顔になる。


 マルスが

「少しお話を…」

と、ティリオに尋ねる。


 ティリオが頷き

「構いませんが…」


 マルスが

「じゃあ、近くの食堂で…」


 ティリオ達はマルスに連れられて、学園に幾つもある食堂スペースの一つへ向かった。


 その途中、グランナがマルスに連れられるティリオ達を発見し、マルスの姿に

「確か、あのヤロウは…」

と、ティリオ達の後を追う。


 

 ◇◇◇◇◇


 食堂スペースの一つにマルスとティリオ達は対面するように座り、ティリオが

「もしかして…シャナリア・エリストに関して」


 マルスはためらい気味に…

「その…シャナリアに」


「おい。ティリオが原因じゃあないぜ」

と、グランナが割り込む。


 全員がテーブル席の通路側に来たグランナに視線が集中する。

 グランナがテーブルに手を置いてマルスに

「もし、ティリオに怨みがあるなら、それはお門違いだぞ」


 マルスが困惑気味に

「あの…自分は、そのつもりで声を掛けたのでは無いのですが」


「え?」とグランナの目が点になる。

 グランナは、ティリオが責められると勘違いしていた。


 ティリオが

「どういうご用件で?」


 マルスが

「シャナリアの事、ディオートンから…救ってくれて、ありがとうございます」


 ティリオは俯き

「救ってないですよ。結果的に彼女は、シャナリア・エリストさんは…」


 マルスが泣きそうな顔で

「ディオートンに吸収されたら、遺体さえもなくなる。でも…アナタは、それを防いでくれた。シャナリアが思い詰めていたは、ぼく達の責任です。シャナリアがあんな行動をしてしまったのを止められなかったぼく達が…」

と、マルスは涙する。


 グランナはバツが悪そうだが、それをティリオの隣に座っているアリルが袖を引いて、近くに座らせた。

 マルスの話をグランナが入ってティリオ達が聞く事になった。


 ◇◇◇◇◇


 

 帰り道、グランナはティリオ達の後ろを歩いていた。

 グランナの態度が明らかにおかしい。

 何処となく申し訳なさそうだ。


 ティリオが後ろを振り向き

「キミの誤解だってのは、分かっているから…」


 グランナが顔を隠して

「それ以上、言わないでくれ。恥ずかしい」

 グランナは、マルスがティリオをお門違いの断罪に来たのだろうと勘違いしてしまった。

 マルスは、ティリオに感謝を伝えに来ただけで。

 そして、自分の助けられなかった思いを…。


 ティリオがシュルメルム宇宙工業学園の六角形の天空を見上げて

「ぼくは…彼女を助けられなかったのは、事実だ。だから…」


 グランナが

「お前がそれを気にする必要ないぜ。あの時だって、デュエロタクトじゃあなくて合同の訓練だったんだ。機体マキナのチェックだってしなくて良かったし、それに…そうなったのもお前が原因じゃあない。渡したヤロウだ。だから…」


 ティリオがグランナに微笑み

「ありがとう。気をつかってくれて…」


 グランナが頭を掻いて

「とにかくだ。もし、何か言われる事があったらオレに相談しろ」


 ティリオは微笑みながら

「キミに相談すると、さっきみたいに勘違いが増長しそうで…」


 グランナが渋い顔で

「その辺りは、今度はチャンと考えるからよ」


 ティリオが

「でも、かばってくれてありがとう。グランナ…」

と、穏やかに告げる。


 グランナも微笑み

「おう」



 ◇◇◇◇◇


 その夜、グランナのホームで、グランナは父親と通信していた。

 通信室の立体映像同士で話すグランナと父親。


 父親が

「どうだ? そっちの生活は?」


 グランナが

「ボチボチかな、父さん」


 父親は微笑み

「そうか。何かあったら連絡はしろよ」


 グランナが

「オレだってそんなガキじゃあ無い。早々、問題なんて起こさないよ」


 父親がグランナを見つめて

「なぁ…グランナ…。お前は…超越存在にならなくていい」


「え?」とグランナが驚きの顔をする。


 父親が少し悲しげな顔で

「オレは、お前に色々と押し付けてしまった。オレ達の時空エネルギー問題も、本来はオレ達の代でチャンと話し合いをするべき事なんだ。お前が…それを背負う必要は無い。いや、それを背負わせてしまった。ダメな父親だ」


 グランナが戸惑い気味に

「そんな事はないよ。父さん。セレソウム時空の超越存在、宇宙王から超越存在のエネルギーを提供して貰う事は、オレ達の問題でもある。だから…」


 父親が

「グランナ。お前は少し不器用だが…優しい所がある。お前は辛い目にあっている子達を見捨てては置けない。面倒見の良さと優しさがある。オレにはない…人徳というヤツだ。だから、お前がシュルメルム宇宙工業学園へ行くとなったら…多くの者達が付いてきた。その全員が、お前の思いを理解して…共に歩んでくれている」

と、父親は優しい顔で

「それは凄い事なんだぞ。だから…お前が…いや、お前達が超越存在を手にできなくても、ここで皆で一緒にがんばった事は、大きな財産であり勉強だった。それだけでも大収穫じゃあないか…」


 グランナが父親を見つめて

「父さん…」


 父親が

「グランナ、ハッキリ言う。超越存在を得られなくても構わん。もし、超越存在の力を得られる代償にお前のその優しさを失うのは、ダメだ。お前の持っているその優しさは最も大切なモノだという事を分かって欲しい」


 グランナと父親の会話が終わる。


 グランナは、父親との会話を思い返して

「父さん。それでもオレは…目指すよ。だって、それで救える人達がいるから」



 ◇◇◇◇◇


 シュルメルム宇宙工業学園の幾つもある宇宙ポートの一つ。

 その一つ、最小の動力で維持されている場所。特に来る荷物や人員も時空戦艦も宇宙戦艦もないので休止状態なのに…。

 動力が入り出して活動状態へ移行する。

 無人で誰もいない宇宙ポートの一つ。

 そこの物陰に隠れる二人、カレイドの紫苑と千華だ。

 紫苑と千華は両手に、エネルギーで形状が変化する特殊なグリップ武器を握り、形状を銃へ変える。


 紫苑が千華に

「本当に来るのでしょうか?」


 千華が

「来るよ。絶対に…」


 紫苑が

「スラッシャーが仕掛けたシステムを解析して、使われるポートは全部、修正したり監視下に入っていますよ。ここは…」


 千華が

「スラッシャーのヤツが使うポートには、特徴があった。スラッシャーのヤツは頭がキレる。仕掛けを見つけられて、使えるポートが押さえられると想定して先手を考えるなら…予備のルートは必ず残す」


 紫苑が

「その特徴から…ここが?」


 千華が頷き

「ええ…」


 紫苑が複雑な顔で

「私達が来た所為で、ポートの動力が開始しましたけど…」


 千華が

「ポートは、何かしらの生態反応があれば、動力が入るようになっているから…隠れていれば…問題、ん?」


 ポートのゲートは開いていていない。

 だが、その鋼鉄のゲートの前に空間湾曲のゲートが出現する。


 紫苑が腕にある端末を見て

「そんな…空間転移のエネルギーが検知されていないのに…」


 千華が鋭い顔で「来るよ」と…


 空間湾曲のゲートから一隻の時空戦艦タイプの貨物船が現れる。

 その時空貨物戦艦はポートに接岸する事なく、桟橋を艦から延ばして、何かを下ろし…それと共に人影が下りる。


 千華が素早く全身を隠すステルスのフィールド装置で包み、その人影の背後に急接近する。

「よう…元気だった?」

 千華が銃口を向ける大きな背中。


 大きな背中の主は

「ありゃ…見つかっちゃった」

と、イタズラに笑うスラッシャーだ。


 紫苑がスラッシャーの時空貨物戦艦から下りた荷物を確認すると

「ええ…これは…」

 円筒ケースには、液体に包まれる人の姿があった。

 その人の姿とは

「彼女…死んだ…はず…え? クローン」


 その円筒の液体に浮かぶのはシャナリア・エリストだった。


 スラッシャーが笑みながら

「クローンじゃあねぇ。死者の書から蘇った本人さ」


 

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