第13話 再開のデュエロタクト


 それは久しぶりのデュエロタクトだった。

 シュルメルム宇宙工業学園で大きな事件があってから一ヶ月後。

 デュエロタクトが再開されて…

「おら! 歯ごたえが無いぞ!」

と、声を張ってマキナで戦うのはグランナだった。


 グランナのマキナ・ガイオは、ティリオの改修を受けた。

 鎧武者の外見は変わらないが、その背面に大きな翼と両手足に新たな鎧の装甲が加わっている。

 ティリオは、ジュリアとナリルとアリルの妻達と共にグランナが戦うデュエロタクトを見ていた。

 グランナが戦う相手は、なんとファクドだ。


 ファクドのマキナは金色に輝き、背中にゴールドジェネシス特有の円環を装備している。

 そして、ファクドのマキナの最大特徴は、その大多数の腕だ。

 まるで千手観音のように多くの腕が肩から背中まで続いている。


 ファクドがグランナの新たなマキナに

「なるほど…だいぶ、面白い戦いになりそうだ」

と、笑む。


 グランナがガイオを構えさせ

「お前の高見の見物のような澄ました顔が、何時もムカつくんだよ」

と、声にした次に改修した新装備ミリオンズ・テスタメントを発動させる。

 グランナのガイオの背中にある装甲の翼が輝き、エネルギーを放つとそれが形を形成して武器になる。

 グランナのガイオが握った武器は、光で構築された銃剣だった。

 その光の銃剣は、ガイオの腕にある鎧装甲とラインを繋げる。


「いくぞ!」

と、グランナはガイオを走らせる。


 ファクドが自分のマキナ、サスハラジャを動かす。

 ファクドのマキナ・サスハラジャがその数多にある手に光の渦を握ると、それを素早い速度の拳撃で放つ。


 それをグランナのガイオは、銃剣で攻撃する。

 銃剣から発射される光の弾丸が光の渦に当たると、光の渦は消えるが…。

「その程度では、この攻撃は消えないぞ」

と、ファクドが攻撃を続ける。


 グランナが笑み

「分かっているぜ」

と、光の銃剣を消して今度は、巨大なハンマーを構築してガイオが握る。


 数多の攻撃に対して、面がデカいハンマーで応戦したのだ。


 だが、ファクドの攻撃がそれで終わる事はなく

「では、これなら」

と、サスハラジャの背負う円環から漆黒と閃光の渦が出現し、周囲の重力と引力を暴走させる。


 だが…

「甘いぜ」とグランナが新たな武器をガイオに握らせる。

 それは、大きな槍であり、先に引っかける鎖が付いている。

 それをサスハラジャに絡ませる。


 そして

「でああああああああ!」

 グランナはガイオの背中にある装甲の翼から光のフレアを放って、ファクドのサスハラジャに迫る。


「それも」

と、ファクドが向かってくるガイオに正手の雨をお見舞いする。

 槍と共にガイオが粉砕される…と思われたが。

 それは、光のエネルギーで構築された残像だった。

「な…」

 ファクドは、まんまとグランナの策略にはまってしまう。


 グランナがいるガイオは

「ここだ」

と、サスハラジャの頭上から光の速度で墜落する。

 その両手には光のエネルギーのナイフが握られて、サスハラジャの数本の腕を切り裂いた。

「もういっちょ!」

と、グランナはガイオを動かす。

 サスハラジャと近接になったガイオ。

 ナイフを持ち連続斬撃をガイオが繰り出すが。


 ファクドが鋭い殺気を放ち、サスハラジャの背中から本体と同じ太さの腕が伸びて、斬りつけるガイオへぶつける。


「うぉぉぉぉぉ!」

 グランナは耐える。

 それ程までに凄まじい衝撃が襲いかかる。


 そして、再びグランナはガイオと、ファクドのマキナ・サスハラジャの距離が空いた。


 グランナが

「へへへ…やっと本気になってきたか?」


 ファクドが額を掻き上げて

「全く、嫌なんだよ。こういう感情って…」

 ファクドは殺気が嫌いだった。


 グランナが

「ようやく…同じ舞台に立てたって事だ」


 ファクドが呆れ気味に

「ホント、今度は…オレ達の機体の改修を頼もうかねぇ…」


 ◇◇◇◇◇


 その戦いの一部始終をデュエロタクトのラウンジで見ているティリオ達。

 ティリオ達四人が座る横のソファーにエアリナが座っていて

「ああ…なんで、アイツまで強くしたのよ…」

と、ブツブツ言っている。


 ティリオは、ふ…と笑む。

 ガイオの改修は成功だ。

 グランナの操縦技量は、とても優れている。

 それを生かすには…数多を動かすより、数多の武器を瞬時に与えて使って貰う方がいい。

 ガイオの装備する新装備ミリオンズ・テスタメントは、エネルギー構築で万の武器を瞬時に創造する。

 それをガイオの腕に装着されたアタッチメント装甲でエネルギーが拡散するのを防いで形状を維持させる。

 これによってガイオの操縦する機能は損なわずに、グランナの操縦技量は生かされて、戦いやすくなる。

 グランナは、ティリオからの提案を受けた時に、目を輝かせて

「直ぐにやってくれ!」

と、嬉しそうだった。

 その結果は、上々な現状が見せている。


 ルビシャルとレリスも見ていて、ソファーに座るルビシャルが隣に座るレリスに

「どうする? アタシ達も改修を頼む?」


 レリスが

「ぼくは、必要ない」

と、淡々と答える。


 ルビシャルが

「アタシは…迷うなぁ…」


 ティリオ達の隣にいるエアリナが

「クソ、クソ、私が一番に君臨できると思ったのに」


 それにアリルが

「簡単に一番になっても面白くないでしょう。だって、競技でしょう」


 エアリナが恨めしそうにティリオを見つめ、その視線にティリオが気づき

「何? その顔…」


 エアリナが

「やっぱり、アンタをアタシの嫁にするから、覚悟して置きなさいよ」


 ティリオは呆れ気味に

「いや、これ以上、嫁を取る気は無いよ」


 エアリナが

「アンタが嫁になるから、問題ないわ」


 ティリオは戸惑い気味に

「どういう理屈だよ…」


 このような感じでデュエロタクトも始まり、シュルメルム宇宙工業学園の日々が戻って来た。

 紆余曲折はあったが…ティリオの学園生活は順調ではある。



 ◇◇◇◇◇


 ティリオは、ファクドのホームに来てお茶会をしていた。

 ホームにある庭園ドームに設置された喫茶店のようなテーブルで、ティリオとファクドは対面でお茶を交えて話す。


 ティリオが

「で、キミのマキナを改修して欲しいって?」


 ファクドは微笑み

「オレじゃあない。オレの傍人達のマキナを頼みたい」


 ティリオが額を抱えて

「それって相当な人数じゃあ…」


 ファクドが笑みながら「五人だよ」と告げると、庭園ドームの扉から五人のゴールドジェネシスの乙女達が来る。

 一人は、最初の時に顔を見たアルドと、他の四人は知らない。


 アルドが他の四人の事を紹介する。

「右から、ルアラ、ラアーラ、アルヤ、ミアラだ」


 アルドと同じ騎士のような雰囲気を持つルアラが

「初めまして、ルアラです」


 次におっとりした感じのラアーラが

「ラアーラです」


 何処かイタズラな感じがするアルヤが

「アルヤだよ! よろしく!」


 大人しそうな感じのミアラが

「み、ミアラ…です。よろしくです」


 ティリオが頭を下げ

「こちらこそ、よろしくお願いします。で、なんでキミは…?」

 ファクドのマキナを改修しない理由を尋ねる。


 ファクドが

「必要ないからだ」


 ティリオが暫し考え

「それは、キミのマキナが…実戦仕様だから?」


 ファクドが真剣な顔で

「気付いていたのか…」


 ティリオが

「ぼくは、君達のサポートマネージャーだよ。デュエロタクトする前にチェックをしているのは、ぼく達だからね」


 ファクドは溜息交じりで

「そう、オレのマキナは…マキナという皮を被った兵器さ」


 ティリオが

「だけど、その力の一端が出た。それは…グランナの新たなガイオの時に…」


 ファクドは嫌そうな顔で

「アレは、本当に失敗だった。だから、もっとリミッターを増やして出ないようにするさ」


 ティリオが「そう…」と告げた次に

「どうして、ゴールドジェネシスの実戦仕様を持っているんだ?」


 ファクドが遠くを見る感じて

「身を守る事の必要性もある…という事だ」


 ティリオが

「ゴールドジェネシスの民、ファーストエクソダスの間にある権力闘争?」


 ファクドは首を振り

「違う。むしろ、オレ達の力を欲して…誘拐する事があったからね」


 ティリオが

「確かに…空間を操作してエネルギーを生み出す力…凄まじい」


 ファクドがティリオを見つめ

「ティリオの超越存在としての力は、超越存在の力を持ってしないと押さえられない。だが…オレ達の力、ゴールドジェネシスは、ある程度の物理法則を操作できる文明なら対処が可能だ。そういう事だ」


 ティリオが複雑な顔をする。

 エネルギー資源のようにされる。人類悪の一つ、奴隷という言葉よぎって嫌な気分になる。


 ファクドがそれを察して話題を戻し

「まあ、とにかく…頼むよ」


 ティリオが気分を変えて微笑み

「ああ…やってみるさ」


「ありがとう」とファクドは微笑んだ次に

「一つ、聞きたい事がある」


 ティリオが首を傾げ「なんだい?」


 ファクドが手を組んで前のめりになり

「どうして、カレイドと手を組んでいるだ?」


 ティリオが視線を横にする。


 ファクドが

「キミが偶に接触する他校の女子生徒の二人、カレイドの使者だろう?」


 ティリオが額を抱えて

「まあ、利害の一致ってヤツで、協力し合っているんだよね…」


 ファクドが真剣な顔で

「自分達の時空、ラジアータ時空の統治の為なら、どんな人物でも抹殺する機関と?」


 ティリオが渋い顔をして

「カレイドの成り立ちって知っているかい?」


 ファクドが

「資料には、かつてラジアータ時空に巨大な力を持った存在、最悪の邪神とされているが。それを使ってラジアータ時空を統一し、その統一を維持する為に作られた…と」


 ティリオが

「そう。それが建前の理由さ。本来の理由…それは…その最悪の邪神とされる人物が超越存在だった事。そして、その人物がとあるシステムに変えられて…いや、変貌して。そのシステムを探し出す為に…組織が維持されている」


 ファクドが訝しい顔で

「それは初耳だ。その最悪の邪神が超越存在だったのも驚きだが…それをシステムに変えるってどういう事なんだ?」


 ティリオが

「その人物が変貌したシステム。それの名を聖櫃というらしい。この聖櫃には、取り入れた存在を超絶に進化させる力がある。それは…超越存在や、完璧な者達アヌンナキ神人ホモデウスに神化させるね」


 ファクドが驚きの顔で

「それは…本当なのかい?」


 ティリオは頷き

「ああ…事実だ」


 ファクドが頭を抱えて

「全く、ティリオと話していると何度も驚愕する事に出会う。そんなのが知られたら」


 ティリオが

「知られたとしても、その聖櫃が手に入るとは限らない。なぜなら…その聖櫃は、絶えず別時空へ転移して移動している。どこに流れ着くかは…分からない」


 ファクドが顎を摩り

「なるほど、カレイドが求める聖櫃をティリオが求めていると…」


 ティリオは頷き

「ああ…そういう事だ」


 ファクドがティリオを見つめて

「もしかして、ティリオは…その聖櫃を発見する…」


 ティリオが固い顔をして

「それは、時期が来たら言うよ。今は…その時期じゃあないし…多分、キミのファクドの力を借りる事になるような予感がする」


 ファクドは笑み

「是非、協力に加えてくれよ」


 ティリオは「時期が来たらね」と…。


 ◇◇◇◇◇

 

 ファクドとのお茶会 兼 ゴールドジェネシスのマキナの改修を頼まれたティリオは、自分のホームへ帰る途中、グランナと遭遇した。


 グランナとティリオは並んで歩きながら

「ファクドの方も改修するのか?」

と、グランナの問いに


「ああ…」とティリオは頷く。


 グランナが

「じゃあ、ファクドのヤツが安心してデュエロタクトできるマキナでも作ってやってくれよ」


 ティリオがグランナを見つめて

「もしかして…気付いてた?」


 グランナが

「すまし顔のアイツファクド…色々とあるだろうから。どうしても…そういう機体を持つ事になっているのは理解できる。でも、さあ…ここは学園だ。少しくらい羽目を外すくらいは、問題ないだろう」


 ティリオが

「以外と鈍感じゃあないだね」


 グランナが学園のドーム天井の夜空を見上げて

「ここには、それなりの覚悟を持って来ている奴らが多い。そういう事さ」


 ティリオが

「それなりの覚悟を持ってかぁ…」

と、噛みしめるのであった。



 ◇◇◇◇◇


 とある宇宙のとある場所で、スラッシャーが円筒の培養液のポッドを受け取っていた。

 それを渡したのは、聖ゾロアスと繋がる裏謀躍王の青年だ。

 

 スラッシャーが訝しげに培養液のポッドの中身を見つめて

「マジか…これをゾロアスが使えって?」


 裏謀躍王の一莵は頷き

「ああ…ゾロアスが再構築して置いたから…使えって」


 スラッシャーは額を抱えて

「おいおい、ゾロアスは…悪魔か?」


 裏謀躍王の一莵は、フッと皮肉に笑み

「そんなのが小手先の三下に見えるくらいゾロアスは…恐ろしいのさ」


 スラッシャーは培養液のポッドに浮かぶ少女を見て、青ざめる。

「死者を弄ぶか…」


 裏謀躍王の一莵は平然と

「それが聖ゾロアスだ。神であり人であり、完璧な者達…アヌンナキであり、真理を理解する神人だ」

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