第12話 エアリナのマキナ改修


 ディオス達四人は、エアリナのホームの来た。


 ティリオは、改修中のエアリナのマキナを見つめる。

 エアリナの時空が使うコンデンサータイプの機体、マキナを見上げて

「さて…どうしたモノか…」

 悩んでいた。


 隣にシトリーが来て

「デュエロタクトの規定通りに作ると…限界が…」


 デュエロタクトは、あくまでも競技であって戦争ではない。

 エアリナのマキナの限界である演算力による負荷を解消するには、単純にそれに見合うシステムを搭載すれば良い。

 そうなると…エアリナのマキナは十五メートルから倍の三十メトールの大きさになる。 デュエロタクトで使われるマキナは、最大でも二十メートルで最小で十メートルとなっている。

 では、幅を広げても限度が決まっている。

 更に、対戦の都合によっては、その規定を無視してデュエロタクトを行える。

 それは、ティリオがグランナと初めて戦った時に、出力に関して無制限にしていた事だ。

この出力値に関する規定だけは、限定するか?無制限か?という二択の緩やかにしてある。

 だが、出力値が無限だろうと、デュエロタクトで勝てる事は無い。


 じゃあ、エアリナのマキナの出力を無限にすれば解決するのか?

 答えはノーだ。


「さて…どうしたモノか…」

と、ティリオは考えが思い浮かばず悩む。


 そこへエアリナが来て

「どう? 解決案が浮かびそう?」


 ティリオが

「エアリナが扱える遠隔兵装の一覧を見せて欲しい」


 エアリナが頷き「良いわよ」と改修待ちの自分のマキナの操縦席へ導く。

 その途中、グランナ達と合同訓練の時にエアリナが乗っていたマキナの横を通り過ぎる。

 そのマキナは様々な装甲が遠隔ドローンになるマキナだった。


 ティリオがそのマキナを見つめて

「エアリナは、遠隔ドローン兵装でも問題なく扱えるのか?」


 エアリナが立ち止まり

「ええ…でも、遠隔ドローン兵装じゃあ…勝てないわよ」


 ティリオがエアリナの渋い横顔を見つめて

「もしかして、遠隔ドローン兵装を潰すのか?」


 エアリナは頷き

「ええ…そのぐらいの操作技量を持っている連中なんて上位にゴロゴロいるわ」


 ティリオは少し驚く。

 小型といっても二メートルサイズの遠隔ドローンは、凄まじい速度で動いて攻撃を加える。それを墜とすのは、人間で言うなら素早く飛ぶ虫を叩くのと同じだ。

 高い集中力と技量が求められる。

 ここの生徒の技量の高さを垣間見た。


 ◇◇◇◇◇

 

 ティリオは、エアリナに連れられてエアリナのマキナの兵装の一覧を見る。

 エアリナの兵装は、遠隔操作の砲台達がメインだ。

 多くの遠隔で動く砲台ドローンと防壁ドローンの軍団を纏っていると言った方がいい。

 それが相手の攻撃を防ぎ相手をしている所を遠距離狙撃で相手を倒す。

 武装型スナイパータイプという感じの戦いだ。

 その多くの武装のコントロールをエアリナは完全に掌握していた。

 だが、それがマキナに大きな負担となって壊れた。

 

 ティリオが額を抱えて考える場は、エアリナのマキナの操縦席だ。

 それを操縦席に座るエアリナが見つめて

「やっぱり」


 ティリオが一つだけ案を考える。

「エアリナ…こういう事って出来そう?」

と、エアリナに伝える。

 

 エアリナは頷き

「問題ないと思う」


 ティリオが少し戸惑い気味に

「普通は出来ないんだけどね」


 エアリナが得意げに笑み

「アタシは特別なのよ!」

と、胸を張る。


 ◇◇◇◇◇


 ティリオは、自分のホームに戻って四機のマキナを建造する。

 ホームにあるナノマシン加工機と、巨大なマテリアル創成機を操作して、四機のマキナを作る。その方式は、エアリナのマキナと同じコンデンサータイプだ。

 このマキナ達を製造しながら

「我ながら…無茶な事を思いついたもんだ」

と、ティリオは呟く。


 ティリオが出した回答。

 それは…。


 ◇◇◇◇◇


 訓練大地でエアリナの新たなマキナのテストが始まった。


 その様子は、デュエロタクトのラウンジでファクドにルビシャルとグランナ、レリスが見つめていた。


 エアリナの新たなマキナは五機だ。

 それを乗せたカーゴが到着して訓練大地へ下ろされる。

 その後、ティリオ達四人が個々に乗る四機のゼウスリオンのカーゴが下りて、四人が個別に乗る四機のゼウスリオンが降り立つ。


 エアリナのマキナ達を乗せた五つのカーゴが開くと、そこには様々なマキナ達が乗っていた。

 その内の一つにエアリナが乗るマキナがある。

 この五機のマキナを動かすのは、全てエアリナの操縦だ。


 ティリオは自分が乗るゼウスリオンを構える。

「エアリナ、これから…そのマキナ、エンリルの操縦訓練を行う。もし…問題があったら」


 エンリルの操縦席にいるエアリナは頷き

「問題ないわ…」


 ティリオは微妙な顔で

「問題ないじゃあない。これは」


 エアリナがエンリルの操縦席にあるキータッチの操縦桿に手を置いて

「分かるの…これ…アタシは上手く扱える」

と、自信が溢れていた。


「分かったよ」とティリオは呆れつつも「始める」と、ティリオ達四人のマキナ、ゼウスリオンが動く。


 エアリナは息を吸って吐いて

「さあ…始めるわよ」

 エアリナの思考とキータッチの操縦桿が同時に動く。


 エアリナが乗るエンリル・ファーストが手をティリオ達のマキナに向けると、その両脇にいる四機のエンリル・セカンドからファイブまで動き出す。


 速力重視のエンリルのセカンドとサードが直角な軌道を描いてティリオ達のマキナに迫る。


 それにティリオ達が対応する。


 交差するエネルギーソードの攻撃をジュリアとアリルが行い、それをエンリルのセカンドとサードが受ける。

 その二機を二人に任せて、ティリオとナリルが動く。


 そこへ、重武装のエンリル・フォースとファイブが迫る。

 フォースとファイブには大多数の砲撃兵装があり、それを回避して動くティリオとナリルのゼウスリオン。

 ナリルのゼウスリオンがその場に残り防御、ティリオのゼウスリオンが抜けて、エアリナが乗るエンリル・ファーストに迫るがエンリル・ファーストの背中から十メートル前後の小型マキナ、エンリル・ゼロが飛び出してティリオのゼウスリオンと衝突する。

 

 その間に、エアリナが乗るエンリル・ファーストが背中に背負う長距離ライフルを構えてエネルギー弾を発射する。

 数多に分裂するエネルギー弾がティリオ達四人のゼウスリオンへ向かって疾走する。

 直線ではない、誘導を伴った光の線を描いて、同時に四人のゼウスリオンを攻撃する。


 ティリオはゼウスリオンを後退させる。

「マジか…」

と、ティリオは焦る。


 エアリナは完全に六機のマキナ、エンリル達を操縦していた。



 ◇◇◇◇◇


 エアリナは、自分のマキナ達を操縦してティリオ達に波状攻撃する。


 近距離はエンリル・セカンドとサードが、中距離をフォースとファイブが、遠距離をエアリナが乗るファーストと、そのファーストの護衛にゼロが。


 ティリオ達は様々に動いて、この波状攻撃を何とかしようとするが、その隙間を別の機体マキナがカバーして、攻撃の隙を与えない。


 ティリオ達は、完全に手詰まった。

 数の暴力という大多数の攻撃手が緻密に絡み合う戦いをエアリナは完璧に熟している。


 ◇◇◇◇◇

 

 それをデュエロタクトのラウンジで見つめるファクド達。


 ファクドが

「おいおい。これ…ヤバいんじゃないのか?」


 ルビシャルが

「まさか…一人で六機のマキナを使い熟すの? あのお転婆お嬢様は…」


 グランナが渋い顔をしているとレリスが

「これは…うかうかしていられないかも」


 そう、エアリナの戦法はデュエロタクトの規定に反していない。

 あくまで、エアリナが一人で六機も同時操縦しているので問題ない。


 ルビシャルが

「じゃあ、マキナの機体数の制限でもかける?」


 ファクドが笑み

「それでも意味はないだろう」


 ◇◇◇◇◇


 エアリナがマキナ達にとある指示を与える。


 六機のマキナ達、エアリナも含めて機体がバラバラに分解して、その場で様々に組み合わさる。

 六機は三機のマキナになる。


 エアリナのマキナ、ファーストには様々な武装と加速のスラスターが着き、移動しながらの射撃中を、変形で似せたもう一つが追随、そして、別の一機のマキナは数多の腕とシールドを持つマキナとなってティリオ達に向かう。


 ティリオは、エアリナのマルチタスク能力を最大限に活用する事を考えた。

 様々な武器をドローンのように扱うではなく、マキナのように合体して組み合わせる事で様々な事をさせる。

 エアリナにとっては、この程度…造作も無い。


 エアリナが思う通りにエンリルのマキナ達は合体して機体を再構築、様々な状況に合わせて戦略を繰り出す。


 ティリオは、そんな提案をした事がムチャクチャだと思っていたが…エアリナには問題なかったらしい。


 ティリオの目が輝き、背中にある黄金の印が疼いて光の粒子を上らせると、ジュリアが

「エアリナ! もういい。成功よ」


 エアリナはエンリルを止めて

「そうね。操縦訓練としては、十分な成果だわ」

と、告げた後にグッと手を握り締める。

 十分な成果に笑みが零れる。


 ジュリアがティリオに

「ティリオ…落ち着いて」


 通信に出たティリオは落ち着けるように深呼吸して

「ああ…すまない」


 ◇◇◇◇◇


 エアリナはエンリル達と共にホームに戻って、シトリーとタッチする。

 シトリーが笑顔で

「やったね!」


 エアリナが胸を張って

「ええ! これでアタシが一番になれるわ! ついにアタシがデュエロタクトのトップになるのよ!」


 ティリオ達のゼウスリオンを乗せたカーゴが到着して、ゼウスリオンが降りて来た。

 ティリオが乗るゼウスリオンのハッチが開くと、ティリオが額を抱えていた。


 そこへエアリナが来て

「どうよ! アタシの実力は!」

と、胸を張る。


 ティリオが疲れ気味に

「ああ…上手すぎるよ。ごめん、ちょっと疲れた…」


 エアリナが本気で疲れているティリオに戸惑いつつ

「ああ…うん。そう、まあムリしない方が良いわよ」


 ジュリアが来て

「ごめん、ティリオ…休ませたいから」


 ティリオは、ジュリアとナリルとアリルの三人に連れて行かれて自分のホームへ帰った。


 エアリナは、それを見つめて

「あれ? 訓練前は平然としていたのに…」


 シトリーが来て

「きっと、疲れているのよ。短期間でエアリナのマキナを仕上げたんだから」


 エアリナが

「そうか、けっこう…がんばってくれたんだ」

と、感謝するエアリナだった。


 ◇◇◇◇◇


 ティリオはホームに帰ると、額を抱えてベッドに座る。

 それを覗き込むナリルが

「ティリオ、背中を見せて」


 ティリオは頷き上着を脱いで背中を見せると、ティリオの背中にある黄金十字を円で囲むアヌンナキの加護が疼くように淡く光を明滅させていた。


 ジュリアとアリルもその場にいて、ナリルと共にティリオの背中を見つめ、アリルが

「もしかして…エアリナは、持っているの?」


 ティリオが頷き

「おそらくだが…エアリナが無意識に使っている能力に…」


 ジュリアが

「どっちの方?」


 ティリオが右腕の肘から手先まである黄金の剣を模した聖帝の印を上げて

「超越存在なら、こっちが反応する。こっちは微かだけど」


 ナリルが

「アヌンナキの加護が反応するって事は…」


 ティリオが難しい顔で

「聖ゾロアスは、この宇宙で誕生した。その時に別の二つの…その一人がヴィルガメス理事長だが…理事長は…何というか、同族であって違う側だった」


 ジュリアとナリルとアリルが頷き合って、ナリルが

「理事長は、反存在側。エアリナさんは…」


 ティリオが

「エアリナは、そっちとは反対だったという事だ」


 ティリオ達四人は難しい顔をするが、ジュリアが

「とにかく、苦しいでしょう…ティリオ」

と、ジュリアとナリルとアリルが服を脱ぎ始める。


 ティリオが申し訳ない顔で

「ごめん。本当にこういう時は、男である事が…嫌になる」


 アリルが

「別に良いわよ。私達は…受け入れているし、それにティリオだったら…何度でも、ね」

 

 四人は、お互いに繋がり合った。

 ティリオの疼く力を沈める為に、ジュリアとナリルとアリルはティリオの腕の中を何度も往復した。


 ◇◇◇◇◇


 翌日、ティリオ達は普通に学校へ向かう。

 その通学にエアリナとシトリーも共にあるのが当たり前になってきた。


 エアリナが

「昨日はどうしたの? 急いで帰って」


 ティリオは頭を掻いて

「エアリナのマキナ、エンリルを作るのに徹夜してね。完成してハイテンションだったけど。性能を知った後にどっと疲れが…」


 エアリナが呆れた顔で

「夢中になるのは悪くないけど、体を壊さないでよ」


 ティリオが微妙な顔で

「いや、つい…作成するってなると…」


 ジュリアが

「ティリオは昔からそう。何かを作るになると夢中になりすぎるんだから」


 エアリナが

「アンタ達、嫁なんでしょう。止めないの?」


 アリルが

「止めるわよ。それでも隠れて起き上がって」


 ナリルが

「もう少し、そこを考えて欲しいわ」


 ティリオが「すまん」と謝る。


 何時もの学校へ向かう途中、グランナが顔を見せて

「おう、おはよう。ティリオ…相談したい事が…」


 ティリオが

「おはよう。なに? 相談って」


 グランナが難しい顔で

「オレのマキナ、ガイオの方も見て欲しい」


 ティリオは笑み

「ああ…分かったよ」


 エアリナが

「ちょっと! なんで手伝うのよ!」


 ティリオが

「それがサポートマネージャーの仕事だから」


 エアリナが苛立った顔をしてグランナに

「アタシより強くなるのは許さないわよ」


 グランナが呆れ気味に

「それ…卑怯だろう」


 その会話にティリオ達は微笑んでしまう。 

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