第11話 会話のテーブル


 ティリオのホームにある広い部屋で、ジャラジャラとした音が響く。

 ティリオは、疑問を感じて四人で囲むテーブルに座っていた。

 目の前にあるテーブルは、立体映像の麻雀が並ぶ。

 手元には、映像の麻雀牌をタッチする端末が設置されている。


 ティリオの麻雀卓には、グランナ、ファクド、エアリナの三人がいる。


 ルビシャルとレリスは離れていて、ルビシャルが

「半チャンだっけ? 最下位と三位が交代ね!」


 ファクドが

「ああ…分かっている」


 ティリオが対戦する三人に

「ねぇ…なんで…ウチで麻雀なんてやるの?」

と、告げた頃に、ジュリアとナリルとアリルがお菓子や飲み物を持ってくると、ルビシャルが

「あ、ちょうど、三人が来たし。アタシ達はアタシ達で別でやるよ」


 グランナが

「好きにしろ」


 レリスが

「じゃあ、どちらかの卓で最下位が交代か…」


 ティリオが

「あの質問を…」


 エアリナが

「デュエロタクトが再開されないから、その暇つぶしよ」


「ええ…」とティリオは困惑して

「自分の所で…やる必要があるの?」


 ファクドが

「いいじゃないか。キミは今…長期休暇の最中なんだし」


 グランナが

「オレ達のホームには、多くの同郷の仲間がいて、スペースがないんだよ。ティリオの所なら人も少ないのは分かっていて、スペースが余っているのも知っている。だから…」


 ティリオが

「だからって、そんな…」


 エアリナが

「みんな、アンタに気を遣っているのよ。アンタ…授業にも出ないし、それにあの事件で…仕方ないってみんなは納得しているから、アンタを責めるつもりはないのに…アンタが」


 ファクドが

「それ以上は言い過ぎだ。まあ、色々とあって楽しみに来ているってだけは分かって」


 ティリオは黙るも、始まった麻雀卓に…。


 ティリオ達の麻雀は

「おい! それズルいぞ!」

とグランナが吠える。


 エアリナが

「それを出すアンタが悪い!」


 エアリナがグランナから勝ちを取る。ロンというヤツだ。


 グランナがティリオとファクドに

「お前等! 真剣に勝負しろよ! さっきから下りているだろうが」


 ファクドが笑み

「ごめん。配牌が悪すぎてね…」


 ティリオも

「こっちも同じだ」


 グランナが悔しげな顔で

「それでも勝負を諦めるなよ…」


 ファクドが笑みながら

「そうやって、熱くなるから勝負事に負けるんだよ。冷静に見極めないと…でも、そこがグランナの良いところでもある」


 隣の卓のルビシャルが

「おお! 盛り上がっているねぇ…それに比べて、こっちは…」


 ルビシャルの卓で対戦するジュリアとナリルとアリル、ジュリアが

「うん。仕方ないでしょう。そういう配牌なんだから」


 四人とも一進一退で、代わり映えしない静かな麻雀だ。


 再度、ティリオ達の卓で牌が配られると、ティリオは項垂れる。

 これ…どうすれば…。

 配られた牌の組み合わせに頭を抱えた。

 すっかり、麻雀を楽しむようになった。

 アースガイヤでも同じゲームは存在していて、存在は知っていたが…やるのは初めてだった。


 ファクドは、ティリオが考え込んでいる姿に少しだけ安心する。

 気晴らしになってくれている。


 エアリナが

「ティリオ、アンタ…最初は文句を言っていたけど。今じゃあ夢中ね」


 ティリオがハッとして笑み

「そうだね。気付いたら…」


 エアリナが

「アタシは、黙っているのが苦手だから言うけど、彼女の母親、アンタに謝りたいって言っていたわ」


 ティリオの顔が固くなる。

 彼女の母親とは…シャナリア・エリストの母親の事だ。


 グランナとファクドが「エアリナ!」と声を荒げる。

 何て事を言うんだ!という二人の無言の圧をエアリナが受けるも


 エアリナが二人を睨み返してティリオに

「これは伝えないとダメよ。アンタが引きこもっているから、彼女の母親がアンタに謝りたいって来ていたのに…」


 ティリオが俯き

「自分が…弱いから…」


 エアリナが

「関係ない。あの事件は、アンタのせいじゃない! スラッシャーってヤツが原因よ。アンタは…巻き込まれただけよ。だから、彼女の母親が謝っていたわ。巻き込んでしまって申し訳ないって」


 ティリオが苦しそうな顔をするが、エアリナが

「そして、アンタに感謝していた。アンタが彼女を…ディオートンに取り込まれたら…永遠に肉体さえも帰って来ない。でも、遺体だけでも…帰ってきた。言っていたわ。アンタのお陰で娘を取り戻して…最後の送り迎えが出来たって!」


 全体の空気が重くなり、ティリオが涙しながら

「そんな、だって…ぼくは、助けられなかったのに…」


 次を待っているレリスが

「いいや、キミは…助けた。彼女を…母親の元へ戻してくれた。キミにしかできなかった。それは絶対だ」


 エアリナが

「だから、メソメソしないで欲しい。悲しまなくていいって…訳じゃあないけど。アンタには前を向いて欲しい」


 ティリオは涙を拭いて

「…うん」


 それだけを聞いてエアリナが

「じゃあ、続きをやるわよ!」


 ファクドとグランナは呆れた顔をして、グランナが

「全く、どっちが問題児なんだか…」


 ファクドが

「グランナは問題児じゃあないよ。この爆走お姫様が問題児だね」


 エアリナが

「はぁぁぁぁぁ! ふざけんじゃないわよ! アタシは最優秀よ!」


 ルビシャルが呆れた苦笑いをして

「はいはい。そうですね。じゃじゃ馬お姫様…」


 重くなった空気が茶番によって和らいだ。


 そして…次の日、ティリオは制服に着替えて学園へ勉強に向かうのであった。

 悲しい気持ちは残ったままだが、それでも前には進める。

 ティリオは、前に歩み出した。



 ◇◇◇◇◇


 ティリオは一週間ぶりに学園の学び舎に来た。

 スラッシャーからの通信がシュルメルム宇宙工業学園の全域に響いていた。

 色々と…。

 そう覚悟して来たが…何も無かった。

 普通のように学園内移動のリニアに乗って、他の生徒も一緒に乗り、何もなく学園の校舎に来て

「ぼーとするな!」

と、エアリナが言い放ち。

 

 そこへジュリアとナリルとアリルが来て、ナリルが

「ティリオは、考え事をしていたのよ」


 エアリナが

「そんじゃあ、学校へ行きますか」


 それは、何時も通りの風景だった。

 なんか拍子抜けするティリオだが、自分が受けるマキナの整備や開発の講義や実習を受ける。

 そこでも…何も無かった。

 多少、ディオートンの事で止まっている授業や移動禁止区域はあるが、それでも何時も授業だ。

 

 ティリオは、何時ものようにマキナの整備や生産技術に関する講義を受けていく。

 その途中でシトリーと出会い

「こんにちは」


 ティリオが

「ああ…こんにちは」


 次の授業はシトリーと共に人工筋肉型のマキナの講義だった。


 ティリオが

「なんか…拍子抜けしている」


 シトリーが

「色々と事情があって一週間くらい休む生徒はザラにいるわよ」


 ティリオが微妙な顔で

「いや、そういう事じゃあなくて…」


 シトリーは悲しげな顔で

「誰も信じてないわよ。そんな都合がいい事なんて…」


 それでティリオは察してしまう。

 スラッシャーとの会話は、全員が聞いていたが…誰も信じていない。その理由は…

「彼女が…シャナリアさんが…」


 シトリーが首を横に振り

「貴方が原因じゃない。悪いのは彼女を騙した人よ」


 ティリオがそれでも

「それでも…ぼくは…助けたかった」


 シトリーが

「この宇宙については…知っている?」


 ティリオが頷き

「ああ…ディオートンやディスカードを作り出す存在が生まれた場所だ」


 シトリーがティリオを見つめて

「それによって、多くの命が消えたわ。自分の事を完全な神、人が求め病まない神と言って、多くの命を…だから、貴方が原因じゃない」


 ティリオは頷き

「分かったよ。ありがとう。でも…」

と、その先を言いそうになったが呑み込んだ。


 ◇◇◇◇◇


 マキナの技術授業を終えて、ティリオはジュリアとナリルとアリルの三人にシトリーと一緒に昼食を取るそこへ

「アタシも一緒で良いでしょう」

とエアリナが来た。


 六人という大人数で昼食を取るティリオ達。

 シトリーが

「ねぇ、エアリナ…ティリオくんにエアリナのマキナの改修を手伝って貰ったら?」


 エアリナがティリオを見つめて

「ティリオ、それって問題にはならないの?」


 ティリオが食事をしながら

「問題にはならない。サポートマネージャーとしての役割として、安全で健全なマキナ運営と、マキナのメカニックも担当している。だから…いいよ」


 エアリナが得意げな顔で

「じゃあ、アンタに私のマキナの改修をさせてあげるわ」


 ティリオが眉間をしかめ

「じゃあ、やめる」


 エアリナがティリオを指さして

「なんでよ! 了承したでしょう!」


 ティリオが

「その偉そうな態度が気に入らない」


 エアリナがプーと頬を膨らませるが笑顔に変えて

「ごめんごめん、ちょっとからかっただけよ。お願い。見て欲しい」


 ティリオも笑顔にして

「分かっているよ。で…問題は?」


 シトリーが

「実は…エアリナのマキナが壊れた理由ってマキナがエアリナの力に耐えられなかったからなの」


 ティリオが

「もしかして、グランナのような…」

 そう、グランナには僅かだが超越存在としての力が受け継がれている。

 エアリナもそれと似たような…。


 エアリナが右手をティリオ達四人に向けると、ティリオにジュリアとナリルとアリルの四人の端末が勝手に起動する。

 ジュリアとナリルとアリルの三人は驚いていたが…ティリオだけはエアリナを見つめて

「ネオデウスか…」

 ティリオの超越存在の知覚には、エアリナの手から広がる見えない電子回路模様、ネオデウスの力が見えていた。


 エアリナは頷き

「ええ…私の父さん、ヴィルガメスはネオデウスを持っているのは知っているわよね」


 ティリオ達は頷く。


 エアリナが

「私も父さんからネオデウスを遺伝しているの。だけど…父さんほど強大ではないわ」


 ティリオが暫し考え

「つまり…エアリナは、マルチタスクが得意なんだね」


 エアリナが困惑を見せつつ頷き

「ええ…そんなに簡単に分かられると…何か…」


 シトリーが

「これが原因で、エアリナのマキナが耐えられなくて壊れたの」


 ティリオが

「なるほど、エアリナの戦い方は、多くの武器を同時に扱うマルチタスク戦術なんだ」


 エアリナが頷き

「そう、アタシが同時に扱えるマキナの武装は…五十にもなるわ」


 ジュリアが

「そんなに…扱いきれるの?」


 エアリナが

「私の戦い方は、多くの武器をドローンのように飛ばして、遠距離からの精密射撃で相手を倒すの。相手との戦いは全部、ドローンが行っているわ」


 ティリオが

「だから、操縦が…普通くらいだったのか…」


 アリルが

「そういえば、初めてゼウスリオンに乗った時も直ぐに思考制御になれたわよね。それって」


 エアリナが

「アタシも似たようなシステムを組み込んでいるから」


 ティリオが渋い顔をして

「なるほど、エアリナのマルチタスク演算力が高いがゆえに、それにマキナが追いついて行かなくて…オーバーフローしたって事か」

 ティリオは、前にデュエロタクトのランキングを見た事がある。

 ランキング上位、一位は今の所…グランナで、二位は同列にレリス、ファクド、ルビシャル、その下の三位にエアリナがいた。

 ティリオがエアリナにゼウスリオンを貸した時には、それ程の操縦センスを持っているように思えなかったが…そういう事実があったという事に納得した。


 シトリーが

「お願い、貴方の知恵を貸してくれないかしら?」


 ティリオが頷き

「分かった。後で…そっちのホームへ行ってみるよ」

 こうして、エアリナのマキナの改修を手伝う事になった。

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