第10話 どうして…
どうして、私には…
ティリオが大きな合同のマキナ訓練を開催していた。
グランナ達とレリス達のそれぞれのマキナ達を交えた大きな訓練は、シュルメルム宇宙工業学園にとっても初めての事であり、それが上手く行っていた。
ティリオのマキナ・ゼウスリオンと、グランナのマキナ・ガイオと、レリスのマキナ・ラプターの三つ巴の戦闘訓練は、多くのマキナを動かす生徒にとって勉強になった。
ティリオのゼウスリオンは、遠距離、中距離、近距離を熟すオールラウンダー。
グランナのガイオは、遠距離から近距離に詰めるパワータイプ。
レリスのラプターは、可変式の戦闘機のような高速性能を生かして戦う。
それは、見ているマキナの生徒にとって、様々なタイプに合わせてどう動くか?の参考になる。
それは、無論…戦い合う三人、ティリオとグランナにレリスも承知だ。
そんな高度な戦いは、ジュリアの通信から
「ねぇ。ちょっと…休憩しない?」
と、ティリオへの通信から終わった。
ジュリアとナリルとアリルの三人は、各々の生徒達の訓練につき合っていた。
ティリオがゼウスリオンを止めて
「少し、休憩しないか?」
グランナもガイオを止めて
「そうだな」
レリスも可変を人型にして
「そうだね。少し水分補給をしよう」
◇◇◇◇◇
ティリオ達や他の生徒達が各々の休憩をしている。
ティリオはコクピットのドアを開いて外を見ながら水分のパックを呑んでいると、目の前に一機のマキナが近づく。
ティリオのコクピットに
「どうも」
と、シャナリアの顔が出た。
「ああ…どうも」とティリオは返事をする。
シャナリアを乗せたマキナがティリオのゼウスリオンの前に立ち止まり、コクピットのドアを開く。
シャナリアがティリオの手を伸ばして
「マキナの戦術AIに関して見て欲しい所があるの…こっちに来て見て貰えない?」
シャナリアは、コクピットの開いた扉の橋に乗ってティリオに向けて左手を伸ばす。
ティリオも自分のゼウスリオンのコクピットから出て、シャナリアのマキナの元へ行こうとしたが…
「あの…どうして右手を背中に隠しているの?」
シャナリアは、コクピットの橋に乗って左手をティリオのコクピットへ向けている。
そして、右手は背中に…腰に隠している。
シャナリアは、右手を出して
「お願い、大人しく…こっちに来て…」
と、レーザーガンを向けた。
ティリオが驚きの顔で
「え? なんで…」
シャナリアは悲しげな顔で
「お願い、こっちへ来て。そうでないと…私…」
ティリオがシャナリアの顔を見つめる。
見た事がある顔だった。
追い詰められて、張り詰めて…
「ねぇ…何があったの? 話だけでも聞かせて」
と、ティリオが言葉を紡ぐ。
シャナリアが
「私には時間がないの…もう、これしか方法がないの…」
ティリオが狙われているのをグランナとレリスが発見する。
二人はコクピットを開けて休憩していた。
グランナがレリスに目配せをすると、レリスが頷いた。
直ぐにグランナがガイオに入り、ガイオの右手に握る槍を投擲する。
豪速でティリオのゼウスリオンとシャナリアのマキナの間に入る。
シャナリアの射線上が塞がれる。
そこへレリスのラプターが飛行形態で突進してシャナリアのマキナを突き飛ばす。
シャナリアは突進された衝撃で中に戻り、ティリオが
「二人とも! 待ってくれぇぇぇぇ」
と、ゼウスリオンのコクピットの扉を掴んで叫んだ。
シャナリアを乗せたマキナは、グランナとレリスのマキナ達に押さえられていた。
グランナのガイオがシャナリアのマキナの頭部を押さえて上に乗り、レリスのマキナは人型になってシャナリアのマキナの両手にあった武装を引きちぎって外す。
グランナが
「お前! 何やってんだ!」
レリスが
「シャナリア・エリストだったか…どういうつもりだ?」
マキナのコクピットに倒れるシャナリアは、起き上がって
「やっぱりダメだった…」
と、涙して操縦席に行き、とあるシステムを起動させる。
「ごめんね。みんな…お母さん…」
と、呟き気を失う。
グランナが抵抗しないマキナに
「さっきの衝撃で…」
レリスがコクピットから生体反応を探り
「大丈夫、気絶して…え?」
シャナリアのマキナが光を放つ。
「な!」とグランナはガイオを押さえるマキナから外し、レリスが警戒でマキナを下がらせる。
レリスが
「内部から高エネルギー反応が…」
グランナが驚き
「どういう事だ?」
ティリオが光を放つマキナを見て
「まさか…このエネルギー波動…ディスカード? いや…それより進化したディオートンか!」
シャナリアを乗せたマキナは、閃光を放って百メートルを超える光の巨人になり、無数の光の翼を生やすと急送に巨大化した体を縮小させて、半分以下の二十メートルサイズになる。
先程までの可変型マキナだったシャナリアのマキナは、継ぎ目がない生体のような体と、頭部に角を生やす独特の肉食獣のような兜に、背中に光の翼を無数に生やす異形に変貌した。
グランナが困惑し
「なんだ…これは…」
その隣にエアリナのマキナが来て
「早く逃げるわよ」
レリスのマキナも来て
「参ったな…まさか…ディスカードか…」
エアリナがコクピットから厳しい顔をして
「ディスカードがマシに見えるヤツよ」
シャナリアのマキナは、シャナリアをコアとしてディオートンに変貌して、その視線をグランナとエアリナ、レリスに向ける。
グランナが
「マズい! こっちに狙いを定めたぞ」
と、ガイオの防壁を展開した瞬間だった。
ディオートンが光速の特攻し、グランナとエアリナにレリスのマキナを吹き飛ばした。
オアアアアアアああ!
と、ディオートンは雄叫びを放ち、衝撃波を轟かせた。
◇◇◇◇◇
ティリオは呆然としていた。
ゼウスリオンのコクピットの全面モニターに映るディオートンと、そのディオートンに吹き飛ばされたグランナとエアリナにレリスのマキナ達。
ティリオがディオートンへ向かおうとしたが通信が入る。
「よう…」
スラッシャーだった。
ティリオの操縦席正面のモニターに顔を見せるスラッシャーは笑っていた。
スラッシャーが
「どうやら、お前を捕まえる事は叶わなかったってらしいな」
ティリオが驚愕の顔で通信画面のスラッシャーに
「あれも…お前の…」
スラッシャーが笑みながら
「オレは切っ掛けを与えただけだ。どうするかは…シャナリア・エリストの選択だ」
ティリオが怒りの顔で
「ふざけるなぁぁぁぁ! 何が選択だ! あれじゃあ!」
スラッシャーが平然と
「ああ…死ぬな。だが…オレが原因じゃあねぇ。お前が原因だよ。ティリオ・グレンテル様…」
と、スラッシャーが地獄の悪魔のような笑みで
「彼女は…超越存在になりたかった。故郷を、母親を、仲間を助ける為に…必死に頑張っていたのに…なれなかった。そこへ、お前が来たのさ。超越存在への覚醒を行えるお前が!」
スラッシャーは、シュルメルム宇宙工業学園内の通信回線を乗っ取り、会話をオープンにさせた。
そして、話を続ける。
「ティリオ・グレンテル。アナタ様は…超越存在の最高位、聖帝の息子にして…この時空、シュルメルムで誕生したホモデウス・アヌンナキの加護を持つ、スペシャル中のスペシャルなんだよ。お前が…力を分け与えてトリガーとすれば…超越存在の覚醒が成される。無論、それに対応できるメンタルが無いと…暴走して死ぬが…。お前はホモデウス・アヌンナキの加護の力を使って限定する制御が出来る」
ティリオは、噛みしめて耐える。
それでもスラッシャーが続ける。
「お前が…ウソをつかないで、彼女に超越存在の力を一部でも授けてやれば…こんな事には成らなかったんだよ!」
通信でジュリアが入り
「ティリオ! 聞いちゃダメ」
スラッシャーが笑みながら
「お前みたいなスペシャルがいるだけで、不幸になる存在は幾つもいるんだよ。地位も権力も能力も運も何もかも恵まれた連中が一人いるだけで、何億人、何千億人という人々が絶望に沈むんだよ。そう、お前の友人だった一莵ってヤツも」
「おああああああああああああ!」
ティリオは激怒してスラッシャーが映る画面を殴り壊した。
「はぁはぁはぁ…」
ティリオは怒りで顔を歪めて涙する。
スラッシャーが別の通信画面を開いてティリオの右へ
「あれ? 本当の事を言われて怒っちゃった? ごめんねぇ…。じゃあ、後は好きにしてくださいな。何千億人、何兆人と絶望へ墜とすスペシャル様…」
と、残して通信を切った。
ティリオは拳をモニターから抜くと、その正面画面にディオートンが立つ。
ティリオが乗るゼウスリオンと、滑らかな体と翼達を持ち恐竜のような仮面の持つディオートンが立ち止まっている。
ディオートンは待っているようだった。
グランナがガイオを起こしながらティリオに通信で
「ティリオ…対応できるか?」
ティリオは無言だ。
レリスがラプターを起こすと両腕部の可変部が壊れてショートしている。
「ティリオ・グレンテル。もう…彼女は助からない…」
レリスのラプターのセンサーが…残酷な事実を告げる。
ディオートンのコアとなったシャナリアは、存在そのモノがディオートンと融合して、ディオートンを動かす装置となっていた。
エアリナが自分のマキナを起こして
「ティリオ…」
ティリオは超越存在の知覚で、ディオートンの内部を視る。
もう…魂までもディオートンに取り込まれてシャナリアが…。
最後のシャナリアの意識がディオートンの口から
「ご…めん…ね…」
ティリオはボロボロと涙を零しながら
「なんでだよ。どうして…なんで…」
と、告げてゼウスリオンをオメガデウスへ覚醒させる。
ゼウスリオンの装甲が弾けて、白銀に輝く装甲と翼を伸ばす。
白銀に輝く翼の機神、オメガデウスとなったゼウスリオン。
ディオートンが動く。
飛翔して、全てを破壊するエネルギー波を全身から放つと、それを閉じ込める結界をオメガデウスが翼から飛び出したフィン達が形成して閉じ込める。
その結界へオメガデウスが突入して、ディオートンと戦う。
ディオートンが手刀やエネルギーの攻撃を放つも、オメガデウスはそれを弾く程に防御力が高い。
ディオートンはオメガデウスに取り付き、恐竜の仮面の顎門を広げて噛みつくが壊す事はできない。
オメガデウスは両手をかざして、ディオートンの腕を刈り取る。
ディオートンは切り取られた部分から無数の腕を生やしてオメガデウスへ攻撃するも、オメガデウスの拳がその全てを粉砕して、そして腹部にオメガデウスの拳が衝突すると、ディオートンの背面が歪に沸騰して吹き飛ぶ。
それでもディオートンは動き続ける。
再生して活動を再開させようとして、周囲の空間やエネルギー、物質を吸収する。
ディオートンの背面は、有機的な機械のパイプや素材が露出しているが、その破れた部分がブラックホールのように閉じ込める結界や、周囲の存在を全て吸収しようとする。
その訓練大地にいるマキナ達が引っ張られまいと踏ん張っていると、訓練大地へ大多数のカーゴが入り込む。
そのカーゴから、ゴールドジェネシスのマキナと、デウスマキナのマキナが飛び出して、踏ん張るマキナ達の前に来ると、ファクドとルビシャルが乗るゴールドジェネシスのマキナとデウスマキナのマキナを先頭に、数名のマキナ達がディオートンとオメガデウスの元へ向かうと、全機が四方八方へ散らばり、再度、結界を構築する。
それによってディオートンのブラックホールが閉じ込められた。
ファクドが通信でオメガデウスのティリオに
「さあ、早く!」
と、言うがティリオの泣いている顔を見て
「泣いて…いるのか…」
ティリオは泣きながら、目の前のディオートンの急所、コアを発見し
「直ぐに終わる」
と、告げた後、ティリオの背中と両腕から黄金の光が伸びて、それがコクピット内を包む。
ティリオが乗るオメガデウスの全身から黄金の光が噴出して、オメガデウスはその光を右手に集中させて槍のように伸ばす。
そして、再生しようとするディオートンのブラックホールへ突き刺した。
それはディオートンのコアを捉えて貫いた。
ディオートンは構築するエネルギーの全てを噴出させて消失していく。
蒸発するディオートンを見つめるティリオ。
そのティリオの脳裏にアヌンナキの加護を与えた彼、ゾロアスが
”せめて…家族の為に…亡骸は残してあげるよ”
蒸発するディオートンから、残りかすのようにシャナリアのマキナがこぼれ落ちた。
結界の底に落ちたシャナリアのマキナへ、オメガデウスが近づきシャナリアのマキナのマキナを抱えて、ティリオはシャナリアのマキナのコクピットを開けて入ると
「う…ぐ…」
と、ティリオはシャナリアの亡骸を抱き締めた。
白く老人のようになってしまったシャナリアだった遺体を抱き締めて、泣き続けた。
◇◇◇◇◇
全てはスラッシャーの企みとして処理された。
シュルメルム宇宙工業学園は、くまなく学園内のシステムをチェックしてスラッシャーが仕掛けたシステムを探し出して潰していった。
そして…シャナリアの偽装された行動をから、シャナリアがディオートンのマキナを手に入れたマキナの部品格納庫を見つけた。
その処理にカレイドの者達、千華と紫苑もいた。
千華は深く溜息を吐いて
「全く、あの悪党は…」
紫苑が端末を操作しながら
「これほどのシステムの乗っ取り、内部から手引きした人物がいる可能性が…」
千華が端末を手にして、シャナリアのデータを見て
「その手引きした彼女が…死んだとなっちゃあ…」
紫苑が難しい顔をして
「どうやってスラッシャーは、シャナリア・エリストと繋がったのでしょうか?」
千華が嫌そうな顔をして
「嫌なもんでさあ、人間って自分が利用できそうな人を無意識に探し出す能力を持っているのよ。だから…」
紫苑が複雑な顔で
「利用されて…使い捨てに…」
千華が頭を振って気分を変えて
「ティリオくんは?」
紫苑が
「塞ぎ込んでいるそうです」
◇◇◇◇◇
ティリオは、自分のホームにいて引きこもっていた。
グチャグチャな気持ちだった。
自分の所為ではないのは、分かっている。
でも…もしかしたら…。
そんな事が過る度に、苦しかった。
ジュリアがティリオがいる部屋に入り
「ティリオ、食事が出来たわよ」
と、ティリオの手を取る。
それに引っ張られるようにティリオは、キッチンへ向かい、ジュリアとナリルとアリルの妻達と一緒に食事を取る。
三人の妻達は、ティリオが口を開くまで待っていている。
ティリオの気持ちを大事に思うが故に、ティリオが語りかけるまで待つ。
そんな感じで一週間が過ぎた。
◇◇◇◇◇
エアリナが父親ヴィルガメスと話をしていた。
「父さん、ディスカードの上位存在であるディオートンが入り込んだわ」
ヴィルガメスとエアリナは、理事長室で話している。
ヴィルガメスが難しい顔をして
「分かっている。まさか…こんな事になるとは…」
エアリナが意を決して
「ねぇ…父さん。どうして、ティリオをこの学園に迎えたの?」
ヴィルガメスが難しい顔で
「ティリオくんを我が学園に向かいれたのは…この学園内で多くの超越存在を生み出す為に…と本人の希望である普通の生活をさせる為でもあった」
エアリナが
「もう、普通の事態じゃあないけどね」
ヴィルガメスが
「その通りだな。安定した環境で多くの生徒が超越存在となれば…多くの時空の助けとなって、そして…エリドナを助けられる算段が…」
エアリナが
「父さんは、母さんを助けるのを諦めてなかったんだね」
ヴィルガメスが
「当然だ。だが、エリドナが封印の柱となって消えた銀河は、どこの時空にあるのか…分からない。超越存在が増えれば…その超越存在の知覚で見つける事ができる。超越存在、宇宙王がいる時空には、いないのが分かっている。だから…」
エアリナが
「超越存在を増やして、見つけやすくするって事か…」
ヴィルガメスが鋭い顔で
「だが、協力してくれる組織達の一部には、見つけたとしても…エリドナがいる銀河をエリドナごと滅ぼすべきだと…する者達もいる」
エアリナが「そうか…」と頷いて俯く。
ヴィルガメスが
「だが、絶対にそんな事はさせない。必ず…エリドナを取り返す」
それだけを聞けてエアリナが
「分かった。ありがとう。私も…自分のやるべき事を頑張るわ」
ヴィルガメスが
「エアリナ、すまなかった。私の意思をハッキリと伝えていなかった為に…」
エアリナが手を振って
「いいわよ父さん。じゃあ」
と、父の理事長室から出て行った。
そして、エアリナは自分のマキナも元へ行き見上げて
「さて…どうしようか…」
◇◇◇◇◇
ティリオは、ホームから出られなかった。
そんな状態が続いている時に…
「元気?」
と、エアリナが来た。
その後ろには…
「よう」とグランナ
「やあ、どうだい」とファクド
「こんにちは!」とルビシャル
「気になってね」とレリス。
四人がいた。
ティリオが「え…」と困惑していると、エアリナが
「入るわよ」
と、遠慮無く入り、それに四人が続く。
エアリナが空いている広い部屋を見つけると
「ここでいいわ」
と、指さす。
グランナが
「じゃあ、ここに置くぞ」
と、持って来た荷物を展開する。
それは…
ティリオは展開される荷物を見つめて
「何これ?」
ファクドが
「麻雀卓だよ」
「えええ…」とティリオは困惑する。
エアリナが
「あの事件の後、デュエロタクトがやれないの。再会されるまでの暇つぶしにアンタのホームを借りるわよ」
と、勝手に麻雀卓で麻雀が始まった。
それにティリオも巻き込まれてしまった。
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