第9話 シャナリアの接触


 ティリオは斜面の草縁で横になっていた。

 ティリオが横になるここは、シュルメルム宇宙工業学園である。

 全てが人工的に作られた学園コロニーであり、この芝生の草部も全て環境を操作するナノマシンの一つで、空気を綺麗に保っている。

 そのナノマシン芝生から香る清涼な空気を感じながら空を見上げる。

 六角形の天井が幾つも組み合わさったコロニーの青空。

 それが悪いという訳ではない。でも、自然という環境を身近に育ったティリオにとって、少しだけ哀愁を感じているそこへ

「こんにちは…」

 声を掛けてきたのは女子生徒だ。


 ティリオが体を起こして

「ああ…こんにちは…」


 女子生徒は微笑み

「となり座ってもいいかなぁ?」


 ティリオは頷き

「どうぞ…」


「ありがとう」と女子生徒はティリオの右に座り

「初めまして、シャナリア・エリストです」


「どうも…」とティリオはお辞儀して

「自分は…」


 シャナリアは

「知っているよ。ティリオ・グレンテルくんでしょう。有名人だもん」


 ティリオは面倒くさそうに頭を掻いて

「有名人になるつもりなんて、無かったんですけどね」


 シャナリアが

「いずれ、バレていたんだろうし…気にする必要ないと思うし、それに…他に有名な人は多いから…」


 ティリオがその有名人の面子を思い浮かべる。

 ファクド、ルビシャル、グランナ…と。

 その思い出しを何処かへ置いて、シャナリアに

「ぼくに話を…って事は、何か聞きたい事があるんですよね?」


 シャナリアが複雑そうな顔で

「うん。その…聞いても良いかどうか…不安があるんだけど…」


 ティリオが気軽に

「答えられないなら、答えられないって言うんで…いいですよ」


 シャナリアが

「ティリオくんって超越存在なの?」


 ティリオが頭を掻いて

「らしいですね。自覚がないですけど…」


 シャナリアが

「何か、そういう感覚があるの? 超越存在としての…」


 ティリオは困った顔で

「生まれつきそんな感じなんで、特別感はないですけど…。その…遠くまで感じられるって言えば分かります? 何て言うんだろう…そう、遠くにいる人を感じられるレーダーみたいな感覚って言えば良いのか…そんな感じで、その…とある領域を感じられるんですよ。それが超越存在の証らしいです」


 シャナリアが

「上手く説明ができないんだね」


 ティリオが

「シャナリアさんだって、自分が当然のように持っている感覚とかありません? そんな感じですよ」


 シャナリアが少し俯き気味に

「私は…普通だから、みんなと違う特別な感覚なんて、ないなぁ…」


 ティリオが申し訳ない顔で

「すいません。その傷つけたみたいで…」


 シャナリアが首を横に振り「いいよ」と

「ねぇ…じゃあ、それを…他の人に分け与えるって事はできるの?」


 ティリオが困り顔で

「ああ…父さんみたいにですか? 残念ですけど…出来ません。ジェネレーターのように利用する事は出来ますけど。同じにしろ…なんて、自分には…」


 シャナリアが「そうか…」と頷く。


 ティリオは、この学園に来ている生徒の大半は、超越存在への覚醒を目的としている。多分、自分を頼れば超越存在への覚醒が成されるかもしれないっていう望みを持ってきたのだろう。

「ごめんなさい。ご期待に添えなくて…」


 シャナリアが微笑み

「いいよ。気にしないで…。また、お話できるかなぁ?」


 ティリオは

「はい、何時でも…暇そうだったら話し掛けてください」


 シャナリアは「じゃあ、少しだけ話そう」とティリオとの他愛もない話を交わした。


 それを物陰に隠れて見ているエアリナがいた。


 ◇◇◇◇◇


 エアリナは、すぐにとある三人に連絡を入れた。

 アンタ達の旦那が浮気をしたわよ!と物陰から隠れて撮影したティリオとシャナリアの会話する画像を添付して、ジュリアとナリルとアリルの端末に送信した。


 それを受け取ったジュリアとナリルとアリルは、首を傾げた。


 ティリオがホームに帰ってくる。

「ただいま…」


 ジュリアが迎えに行き

「おかえり…散歩はどうだった?」


 ティリオが微笑み

「気晴らしにはなった。でも…やっぱり」


 ジュリアが

「やっぱり?」


 ティリオが複雑な顔で

「この学園に来ている人達の目的は分かっている。だからこそ、どんな方法でも…と必死になる気持ちは分からんでもないが…」


 ジュリアが

「何か、それで…」

 玄関のインターホンが鳴らされる。


 ティリオが

「オレが近いから出るよ」

と、玄関の開閉ボタンを押して玄関をスライドさえたそこに、腰に手を当てて胸を張り偉そうな顔のエアリナがいた。


 エアリナの偉そうな態度にティリオが「なんだよ…」と少しムッとした。


 エアリナが

「アンタ、浮気したでしょう」


「はぁ?」とティリオは首を傾げて


「これが証拠よ!」

と、エアリナがティリオとシャナリアが映る端末を見せた。


 ティリオが鋭い目になって

「お前…また、隠れて見ていたな…」


 ジュリアが呆れた顔で

「だってさティリオ。エアリナさんがその話でうるさくて、ナリルやアリルと一緒に無視していたんだよねぇ…」


 ティリオが腕組みして

「はぁ…全く…」

と、盛大に呆れていた。


 エアリナがティリオに迫り

「さあ、浮気をした事を認めなさい! そして、アタシの事も婿って認めなさい!」

 

 最近のエアリナは、こんな調子なのでティリオが頭痛の種を抱えていた。

 エアリナは、ティリオを隠れてストーキングして、女の子と喋っているなら浮気として、何時もこのように迫ってくる。



 ◇◇◇◇◇


 ティリオと会話をしたシャナリアは、自分のホームへ帰る。

 シャナリアがホームに帰ってくると、自室へ向かう途中に同郷の男子生徒が通りかかり

「お帰り…」

と、呼びかけるとシャナリアが

「ただいま」

と、答える。

 その男子生徒は戸惑う。

 シャナリアの笑顔が引きつっているように見えたからだ。


「どうしたの? 何かあった?」

と、男子生徒が呼びかける。


 シャナリアが

「何でも無いわ」

と、自室へ向かった。


 シャナリアは自室へ入ると、胸部からぶら下げているペンダントを取り出す。

 そのペンダントはウソ発見器の機能がある。

 シャナリアは、ティリオとの会話から、とあるウソを見抜いていた。


 シャナリアはその場に座り込み、何度も呼吸を繰り返し

「私には…これしか…」

 そして、懐から端末を取り出して、とある一文を見る。

 その文には、こう記されている。

 ティリオ・グレンテルは、対象者を超越存在への覚醒する能力を持っている。

 そのティリオ・グレンテルをディオートンに取り込めば、その権能を使う事が出来る。

と…

 シャナリアは、文がある端末を握り締めて項垂れる。

「私には…これしかないんだ」


 シュルメルム宇宙工業学園は、五年生の工業専門学園だ。

 無論、成績が良ければ飛び級もあるし、途中留学からある程度の知識と能力を加味されて初学年以上から始められる。

 だが、それは異例中の異例であって、だいたいは五年を過ごす事が通常だ。

 シャナリアは、今年で卒業する。

 無論、卒業しても問題ない学力と能力を授かっている。

 だが、卒業しただけではシャナリアにとって意味は無い。

 

 二年前、この学園に聖帝ディオスから超越存在への覚醒する方法が渡り、シャナリアは超越存在への覚醒を目指していた。

 毎年、卒業する者達から三人ほど超越存在への覚醒が行われている。

 シャナリアもその枠に入る為に必死に努力していた。

 シャナリアの故郷、時空は別の時空にいる超越存在からエネルギーを融通されている。

 そのお陰で無の空間から膨大な物資を生成して生活が維持されている。


 シャナリアの時空に超越存在のエネルギーを融通している超越存在、宇宙王もシャナリアの時空を支配しようなんて思っていない。

 しかし…融通される超越存在のエネルギーにも限りがある。

 それを巡って、争いといった問題なる事は多い。

 何とかしようと…超越存在の力を擬似的に生み出そうすればする程、超越存在の力の凄さが顕わになる。

 無から存在を生成するというのは、凄まじい程に超越存在以外に者にとって不可能な難問なのだ。


 シャナリアは…故郷を救う為に覚悟を決めた。



 ◇◇◇◇◇


 この日、ティリオは大きな訓練大地で合同のマキナ訓練をしていた。

 今回の合同訓練に参加しているのは、グランナ達とエアリナ達のマキナで、その機体数は四十機近い。

 二十メートル越えの人型機体マキナが並ぶ姿は壮観で、ティリオのマキナであるゼウスリオンもあった。

 だが、今回はティリオ達四人が一つに乗るゼウスリオンではなく、四人が個々に乗る四機のゼウスリオンだ。


 最近、ルビシャル達、デウスマキナの生徒のマキナ訓練を請け負った事が評判だったらしく、グランナがティリオに

「頼む、オレ達も鍛えてくれないか?」

と、グランナがティリオに頭を下げた。


 ティリオは快く

「分かった。何時ぐらいが良い?」


 エアリナの事でグランナともめた時には良い感じでは無かったが、決して傲慢なタイプではないようだ。もしかしたら、ティリオの力を認めて大人しいだけかもしれない。

 だけど、それだけなら…あんなに慕われる事はないだろう。

 ティリオが了承した後、グランナが去って行くその遠くで、グランナのホームの生徒達がグランナを讃えていた。

 グランナの時空にいる様々な種族達の生徒がグランナに楽しそうに話し掛けて輪になっている姿は、微笑ましかった。


 そして、なぜか知らないが

「アタシも訓練しなさいよ」

と、エリアナが加わり、エアリナのホームの生徒達も加わって大きな合同訓練となった。


 ティリオはゼウスリオンの操縦席から、グランナのマキナ、人工筋肉を元にしたクガイ型のマキナ達と、エアリナの各関節部分にエネルギーコンデンサーを備えたマキナ達の姿を見て、悪くないと思う。

 それぞれのマキナには、それぞれの良さがある。

 それを生かし切りたいとティリオは思った。


 まずは、グランナとの訓練をするティリオ。

 ティリオが操縦するゼウスリオンとグランナの操縦するガイオが縦横無尽に訓練大地を走って攻防を繰り返す。


 他の生徒は、武装を固定してそれぞれが訓練をして、ジュリアとナリルとアリルが乗るゼウスリオンがそれを補佐する。

 その訓練の一団からエアリナが操縦席から、グランナとティリオが戦う様子を見て苦い顔をしている。

 それにジュリアが来て

「アナタもアレに加わりたいなら、訓練して強くならないと…」


 エアリナはフンと鼻息を荒げて

「分かっているわ」


 ◇◇◇◇◇


 ティリオとグランナは、楽しそうに訓練の戦いをしている。

 グランナは元から相当な操縦センスを持っている。

 ティリオがゼウスリオンで遠距離の砲撃をすると、グランナはマキナのガイオで紙一重で避けてティリオのゼウスリオンに迫る。


 グランナのマキナが迫り、ティリオはゼウスリオンをエネルギーソードに変えて、グランナのガイオと剣劇でぶつかる。


 グランナも楽しかった。

 的確にティリオは防いで攻撃を繰り出す。

 それはマキナ同士の武の舞、舞踏だった。

 お互いの切っ先が切っ先で衝突して光を放つ。


 ◇◇◇◇◇


 それを遠くから運ばれるカーゴから見ている者達がいた。

 グランナ達とエアリナ達の訓練に更なる訓練する者達のマキナがカーゴに乗ってくる。

 それは、レリス達だ。

 そのレリス達のマキナの一団にシャナリアの乗るマキナもあった。


 レリスが操縦席からグランナとティリオの舞踏マキナを見て

「余裕だな。楽しそうに遊んでいる」


 ◇◇◇◇◇


 そして、別のデュエロタクトのラウンジからファクドとルビシャルが訓練する風景を巨大な立体画面から見ていた。


 ルビシャルが隣にいるファクドに

「いいの? アンタ達も…加わらなくて…」


 ファクドが笑み

「ぼくは、ティリオくんとお茶会をしたしね」


 ルビシャルが

「あと、接触していない勢力は…レリス達の方か…」


 ファクドが

「ああ…グランナの側もコレで正式な接触という事だ」


 ルビシャルが怪しむ笑みで

「抜け駆けしないの? ファーストエクソダスの長老級の次代様」


 ファクドが

「フェアじゃない勝負は嫌いなんでね」


 ルビシャルが「フン」と鼻で笑う。


 ◇◇◇◇◇


 レリス達が訓練大地に到着する。


 グランナとティリオは模擬戦闘の訓練を止める。


 レリスの機体マキナが迫る。

 レリスの機体は可変型で、戦闘機型に変形したマキナがティリオとグランナのマキナ達の前に来て、可変して人型になって着地して

「やあ…ぼく達も訓練につき合わせてくれないかなぁ?」


 グランナが

「約束も無しにか?」


 レリスが

「ごもっともだけど、ぼく達も訓練に加わる事で…より訓練の幅は広がると思うけど…」


 グランナが黙る。

 今までこんな垣根を越えた訓練は無かった。

 これもティリオの影響だ。


 ティリオが

「彼らも加えたいのだけど…どうかな。グランナ・アルド・親王殿」


 グランナがフッと笑み

「グランナでいい」


 ティリオもフッと笑み

「じゃあ、グランナ。彼らを加えて訓練するとより幅が広がって良いと思うが…」


 グランナが

「分かったよ。認める。そして…」

と、グランナのガイオが構えて

「さて、続きの再開だ」


 そこへレリスが

「ぼくも加わっていいかね? 三人のバトルロワイヤルで」


 グランナが

「いいね。やるか?」


 ティリオが

「ああ…やろう」


 ティリオの白い装甲のマキナ・ゼウスリオン

 グランナの人工筋肉型のクガイのマキナ・ガイオ

 レリスの可変型マキナ・ラプター


 三つの攻防訓練が開始された。


 その戦いは高レベルだった。

 ティリオがゼウスリオンの開いた装甲から拡散のエネルギー攻撃をして、それをグランナのガイオが避けながら、その合間を可変のレリスのラプターが走る。

 レリスのラプターの誘導レーザーミサイルが放射され、それを避けるティリオのゼウスリオンとグランナのガイオ。

 グランナのガイオは、全体に波動の衝撃波を放ってゼウスリオンとラプターを弾くが、ゼウスリオンとラプターは素早く体勢を直して、ガイオに向かっていく。

 

 三機の凄まじい攻防。それに訓練するマキナに乗る生徒達が動きを止めて見入ってしまう。

 訓練に加わっているシャナリアの仲間の男子生徒が

「すげ…レベルが違い過ぎる。なぁ…シャナリア」

と、シャナリアに呼びかける。


「う、うん」とシャナリアは遅れるように答える。


 男子生徒が

「ねぇ…シャナリア…なんか、あった?」


 シャナリアは

「ぜんぜん、どうしたの?」


 男子生徒が少し戸惑い気味に

「なんか、元気がないように見えるから…」


 シャナリアは

「本当になんでもないわ。ちょっと、調子が良くないだけだから」


 男子生徒が心配げに

「ムリするなよ」


 シャナリアは「うん」と頷いた。


 

 ◇◇◇◇◇


 前日の夜。

 シャナリアは…とあるマキナの部品格納庫へ来ていた。

 その部品格納庫には、スラッシャーが送り込んだ製造マシンが潜んでいた。

 製造マシンがとあるマキナをくみ上げて、自分の胸部に格納していた…とあるコアをマキナに組み込むと、製造マシンはその場に崩れ落ちた。


 シャナリアは、そのマキナの前に来ると…端末に通信が入る。

「よう!」

 スラッシャーだ。


 スラッシャーが

「どうやら出来たようだな。で? どうするかい…」


 シャナリアは苦しそうな顔をしている。


 スラッシャーが苦しそうな顔で

「いんだぜ。そのまま卒業して故郷の時空へ帰っても、そこの学園で得たネオデウスの技術を使えば、それなりに暮らしていける。でも…現状は変わらない」


 シャナリアは、何度か呼吸をしてスラッシャーが用意したマキナを。


 スラッシャーが

「アンタの選択に幸あらん事を…」

と、通信を切って、スラッシャーが部屋でイスに座ってテーブルに足を乗せて

「さて、曲でも聴くか…」

と、とある曲を書ける。

 未来になれなかったあの夜に…

 スラッシャーは聞きながら

「年を取ると涙もろくなるねぇ…」

と、笑っていた。  

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