第16話 信じた先


 記憶の繋がりを全て取り戻したシャナリアの再臨は、とある訓練大地の空に浮かんでいた。

 そこは、かつて自分が死んだ場所の訓練大地だ。


 シャナリアは背中から電子回路の翼を広げて、その訓練大地の空に浮かびながら

「どうして…こうなったんだろう?」

と、涙して

 アアアアアアアア!

 融合しているディオートンの力を放つ。

 空間が歪む。

 シャナリアを中心に黄金の円環のような存在が出現し、そこから縦横無尽に光の雨が降り注ぎ、訓練大地の内部を蹂躙する。


 その衝撃は、百キロもあるシュルメルム宇宙工業学園の全体を震撼させる。


 連続する地震の震動が百キロの巨大なコロニーを揺さぶる。


 シャナリアがデタラメに攻撃を放つそこへ、紫苑と千華を乗せた宇宙艦が到着して、操縦席で千華が

「ああ…何て事を…」

 

 隣で操縦する紫苑が

「このまま力を暴走させ続ければ…このコロニーが…」


 千華が苛立ち気味に爪をかみ

「仕方ない。私達で…」

 

 その二人が乗る宇宙艦の脇をティリオとグランナが乗るゼウスリオンが通過した。


 ティリオのゼウスリオンの操縦席、四つの席がある中央にティリオ、その右にグランナが座り、シャナリアの元へ向かっていた。


 ディオートンの力を暴走させるシャナリアへ、ゼウスリオンが迫る。

 ティリオは、ゼウスリオンの防壁エネルギーを全力にさせて、先端を尖らせる。

 それによって、放たれる暴走の力をかき分けてシャナリアに迫ろうと…

「シャナリアさん!」


 悲鳴のような叫びを上げてシャナリアは、力を放ち続ける。


 そのディオートンの力の斥力にゼウスリオンは弾かれて止まった。


 更に暴走するシャナリアの力が増加して変化を起こす。

 シャナリアと、その周囲を包む黄金の円環を中心にコアを形成、そして、そこから存在の構築を開始する。

 黄金の人型のディオートンが出現する。

 光を放ち翼を持つディオートンの体が歪に膨らむ。

 二十メートルくらいのディオートンが、その数倍、十倍も膨れて、巨大な翼を伸ばす石像のようになった。


 白銀に輝く不気味な数百メートルの存在、幾つもの翼を伸ばし、その頭部には天使の輪のような円環を幾つも伸ばす、その姿は獣のようであって天使ディオートンでもあった。


 巨大な獣天使となったディオートンが、四方八方へエネルギーの触手を伸ばす。

 周囲を呑み込もうとしている。


 ゼウスリオンの操縦席の複座にいるグランナが

「ティリオ! このままだと!」


 ゼウスリオンの操縦席の中央にいるティリオが

「分かっている!」


 このままでは、このシュルメルム宇宙工業学園が…。


 ティリオとグランナの脳裏に呼びかける声がある。

 それはティリオが最も憶えがある声だ。

”元気かい? 聖帝の息子くん”

 どこか…人とは離れているようで、人のような声色の主は、聖ゾロアスだ。


”どうだね? 私のプレゼントは?”


 ティリオが苛立ち

「何が! プレゼントだ! 人を弄びやがって!」


 聖ゾロアスが

”当然だ。私は神人ぞ。命を弄んで何が悪い? 所詮、神から見れば、人なぞ…蟻と同じ。人という群体でしかない。その内の極少数の数匹程度を弄んで何が悪い。人とて、己の利益の為に人以外の命を弄ぶではないか…”


 グランナが

「ふざけんなよ。弄ばれる者の気持ちを考えた事があるか!」


 聖ゾロアスが

”考える必要なぞ、私にはない。その者の意識から記憶、魂まで私は視る、観測が出来る。故に、命を、死者蘇生を可能としている。だが、それで何か? 変わるのか? お前達は自分達…人の事を過大評価し過ぎだ。所詮、お前達は世界の数多にあるピースでしかない。ああ…そうだったな。ティリオも汝も、そのピース達の頂天にいる者達だったな。失敬”


 グランナとティリオは苛立ちを抱える。

 

 聖ゾロアスは、それを感じながら嬉しげに

”そうか、お前達は真理を知らなかったな…人は、格差、差別、偏見、貧困を絶対に生み出す。それが人たる由縁。お前達のような全てに恵まれた階級にいる者達には、奪われて恵まれなく死んでいった敗者や弱者の気持ちを理解できないだろうな…”


 ティリオとグランナの目の前に苦しんでいるシャナリアの姿がおぼろげに見えた。


 聖ゾロアスが続ける。

”良かったなぁ…弱者を食い殺して、お前達は満足だろう。人の上に立つ者は、皆、奪うだけの簒奪者なのだから…。良かったなぁ、また一つ真理を知る事が出来て…”


 グランナが

「お前は! どうなんだ!」


 聖ゾロアスがハッキリと堂々と

”我は違う。神人であるぞ! 真に与える事が出来る。お前等、人の上に立つ人とは違う!”


 ティリオが食い縛り

「ふざけるなよ! お前だって!」


 聖ゾロアスが

”私が何時、奪った? 与えただろう。今回も、昔も、これからも。だから、いただいて置け”


 目の前に再臨したシャナリアは、聖ゾロアスが容易した何かの晩餐だった。

 何かを与える。それが聖ゾロアスの力だった。


 ティリオが悔しさに震えていると、グランナが

「おい! ティリオ! 何か方法はないか! このままヤツの言う通りに…なるのが…悔しい」


 ティリオは、グランナを見つめて

 聖ゾロアスの思惑を超える為には…と考えた矢先に、とある考えがよぎる。

 それは、一応は揃っている。

 でも、賭けでしかない。

 でも…

「グランナ…力を貸してくれ」


 グランナが頷き

「ああ…どうすればいい?」


 ティリオが真剣な目で

「ぼく達がいる場所まで来てくれるかい?」


 グランナが暫し困惑した次に、ハッとして

「それってつまり…」


 ティリオが厳しい顔で

「賭けになる」


 グランナは迷わず

「やってくれ。絶対にオレは、お前の…お前達の場所まで来てやる」

と、自信の笑みを向ける。


 ティリオは頷き「オメガデウス・ゼノディオス発動」とゼウスリオンの装甲がはじけ飛び白銀に輝き翼を伸ばす機神へ変貌する。

 ティリオが乗る操縦席が、黄金の粒子、エネルギーに包まれる。

 そのエネルギーに耐えられるのはティリオ達、超越存在だけ。

 グランナは

「うおおおおおおおお!」

 エネルギーに呑まれて超越存在の極天へ導かれる。



 ◇◇◇◇◇



 グランナは上昇加速力に呑まれていた。

 光速を超えるような上昇圧に体が引き裂かれそうになり、意識が消えそうになる。

 超高次元の上昇する力に呑まれたグランナは…意識が途絶するかしないかの寸前の所で声が聞こえた。


「汝は、どうして…力を求める」


 その声にグランナが

「最初は、格好いいとか、ヒーローになりたいって子供じみた程度だったさ。でも、でも」

 グランナの脳裏に、自分を信じてシュルメルム宇宙工業学園へ付いてきてくれた者達の顔が幾つも見える。

 グランナと関わり、グランナが助けを願って繋がった者達だ。

「オレは、甘いのかもしれない。でも…でも…」

 そう、誰かが嬉しそうだと、自分も嬉しかった。

 誰かが救われると、自分も救われた。

 自分の為なのかもしれない。

 でも、でも…


”お前の持っているその優しさは最も大切なモノだという事を分かって欲しい”


 父親の言葉がよぎる。


 オレは、この優しさを…捨てたくない。無くしてはいけない。

 それが、グランナの誇りだった。


 際限なく上昇する超高次元の向こうに、微笑む女神がいた。

 誉れの彼女は、グランナに

「汝の誇りに幸いがあらん事を」


 ◇◇◇◇◇


 シャナリアが巨大な獣天使となったディオートンで暴走する現場、ゼウスリオンからオメガデウス・ゼノディオスとなったティリオ。


 ティリオが超越存在の力で満ちている操縦席、隣のグランナへ

「グランナ!」


 超越存在の力に包まれたグランナは、光になっていた。

 

 ティリオの最悪な予想が…

「ダメだったか…」

と、超越存在の力の発動を止めようとしたが、光からグランナの手が伸びて

「大丈夫だ」


 光、超高次元から帰還したグランナがいた。


 ティリオが

「グランナ…」


 グランナが微笑み

「やるぞ!」

と、告げた瞬間、グランナのホームにあるグランナのマキナ・ガイオの目が灯り、ホームから飛び出す。

 同時に、グランナが空間移動してガイオの操縦席に座る。

 ゼノディオスとグランナのガイオが並ぶと、鎧武者のようなグランナのマキナ・ガイオが変化する。

 黄金の光を放ってオメガデウスのように光の翼を持つ機神に変化する。

 ブルーメタルに輝く機神となったガイオ、オメガデウス・ガイオロスに神化した。


「行くぞ! ティリオ!」

と、グランナはオメガデウス・ガイオロスを翔る。


「ああ!」

と、ティリオはオメガデウス・ゼノディオスを駆る。


 白銀と青銀の光が、数百メートルの巨大な獣天使となったディオートンの周囲を駆け巡り、その放つ力を相殺する。


 そして、二機のオメガデウスが巨大な獣天使となったディオートンのコアへ向かって疾走する。


 巨大な躯体を貫き、コアであるシャナリアをその手に握るオメガデウスの二機。


 グランナとティリオは、お互いの超越存在の力を織り交ぜて、シャナリアのディオートンの力を別の力に変換して、その別の力にしたソレをシャナリアへ返還する。


 シャナリアに付加された力は、ディオートンではなく、ネオデウスの力に変えられて、そのリミッターをティリオは施した。


 シャナリアのディオートンの力が消えると同時に、出現した巨大な獣天使となったディオートンも消滅し、ティリオはオメガデウス・ゼノディオスの両手にシャナリアを乗せて着地する。

「何とか…なった」


 その隣にオメガデウス・ガイオロスも着地して

「あのクソヤロウの思い通りにならなくて、スカッとしたぜ」


 ティリオがグランナに

「ごめんね。こんな事に」


 グランナがハァ?という顔で

「むしろ、礼をいうのはオレの方だ。ありがとうな。信じてくれて…」


◇◇◇◇◇


 聖ゾロアスは、シャナリアとのリンクが切れた事に天井を見上げて

「そうか…そういう選択を取るか…」


 そこへ幾つもの装甲腕とキャタピラーの足を備えるデウスマギウスと融合してローブをまとう男、アルファティヴァが来て

「ゾロアスよ。どうだね? アナタの加護を一身に受ける愛し子くんは?」


 聖ゾロアスは嬉しそうに王座の肘掛けに肘を乗せて、その手に顎を乗せて

「ああ…おいしく育っているよ。本当に素晴らしい」


 アルファティヴァは、全身を覆うローブの向こうに見える口元に笑みを浮かべ

「そうですか…アレは…仕掛けを担当している人物は?」


 聖ゾロアスが額を数回小突いて

「ああ…スラッシャーか。まあ、上手く仕掛けてくれているよ。評価には値するが…少々、面白みに欠ける」


 アルファティヴァが溜息交じりに

「聖ゾロアス、アナタを超える策士は、存在しない。求めすぎるのは…」


 聖ゾロアスがハッとして

「ああ…私は、彼に求めていたのか…はははははははは!」

と、笑い

「ああ…これでまた一つ、人を理解できたよ」


 アルファティヴァがお辞儀して

「それは僥倖、ああ…一莵が相談したい事があるそうだ」


 聖ゾロアスが

「分かった。まあ、どうせ、使い捨てのコマを捨てられない…と嘆いているのだろう。問題ない」



 ◇◇◇◇◇


 シャナリアの再臨した事件の後、多くの超越存在、宇宙王達の艦隊がシュルメルム宇宙工業学園へ入り、様々な調査が行われた。


 シュルメルム宇宙工業学園が学生や職員以外で、騒がしい日々が続く。


 ティリオがジュリアとナリルとアリルの四人と食事を取っていると、そこへ千華と紫苑が来て

「よう」と千華が呼びかけ

「やってくれましたね。アンタは…」


 紫苑が

「ビックリですよ。消滅しかなかったのに、彼女…」


 シャナリアの事だ。

 シャナリアは、様々な検査を受けて通常の生活に移行している。

 だけど、彼女はシャナリアであって、過去のシャナリアではない。

 どうするか? このまま保護か? と話がなっている時に、シャナリアの母親が彼女を引き取りたいとして、監視付きではあるが…そういうシャナリアの母親に引き取らさせた。

 そして、マルスも彼女を亡くなった彼女の妹のような感じとして、繋がりが続いている。


 ティリオが

「ぼくの力だけじゃあ…ムリだった」


 千華が

「その結果、一人の超越存在の覚醒ですか…」


 グランナの事だ。


 ティリオは難しい顔で

「グランナ…どう…?」


 グランナは今、超越存在、宇宙王達の庇護下にいる。

 今後、どうするか? グランナとティリオの父親、聖帝ディオスがいる宇宙王達との話し合いや面談が行われていた。



 

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