第36話 実戦!(で) 魔法学講座〈入門編〉③

 アカ姉の魔法講座と戦闘の並行展開で気が付かなかったが、とわさんがやけに静かだ。

 ん? 微動だにしてないじゃん! 



「あ、永ちゃんは今取り込み中だから、そのままにしといてあげて」



大丈夫だろうか?



「暫く激しい動きもないし、この子の分も私がサポートできるから大丈夫よ。ほらほら、時間が無くなっちゃうわよ? どれでもいいから一隻選んで、エネルギーボルトをかましちゃおう! 

 いい? 夢の中の時みたいに術式を編む必要はないから、魔法を打ち出すイメージだけで良いわよ」



 とりあえず、言われた通りに適当に目標を決めて意識を向ける。


——エネルギーボルト——


 自分の中で勝手に思考が進んで行くような、あ、あれだ! 会話中に条件反射で答えちゃって、ヤベって思うやつ。

 うん、あの感覚に似てる。


 僕の気持ちとは無関係に桜花の正面に小さな光球が発生。

 直後に土星の輪の様に魔法陣状の円盤を纏った光球が消失。目標とした敵機への着弾と魔法の光跡を確認するのは同時だった。



「上出来ね。続けて次行ってみましょう! 今度は爆砕の魔法を使ってみて。

 タカちゃんから相手に向かって、目標の中心から弾き飛ばすイメージを打ち込んでみて。イメージの途中で抵抗を感じると思うけど、構わずねじ込む感じでやってね」


 とりあえず、言われた通りに適当に目標を決めて意識を向ける。


——爆砕——


 再び、くしゃみが出なかった時の様なままならないような感覚。

 直後に思考が何かに押し返されるような、妙な圧迫感を感じるがそのまま意識を押し込んでゆく。この部分は慣れた感覚だ。

 やがて、押し返してくる力の中を掘り進む感覚でイメージを押し込み続けると、氷にドライバーをねじ込んでゆくような感触で徐々に浸食が成功しているという感触が返ってくる。


 意識が目的の部位に到達したとき、目標の戦闘機を中心に角度をずらした同心円状の円盤型魔法陣が現れた。

 同時に戦闘機は弾けるように四散し、残骸が編隊を組んでいた戦闘機を引き裂いて追加の残骸を量産する。



「さすがタカちゃん! イメージもバッチリね。夢の特訓の成果が出ているわ」


「言っとくけど、特訓なんて生易しいものじゃなかったからね! 感覚で使えるようにならないと生き残れなかったから! むしろ夢の中とはいえ結構な回数死んだからね」


「ごめんね、タカちゃん。夢の内容に関してのクレームは受け付けてないの。特訓の監修はジンバと英司さんにヨロシクネ」


「そんな気がしてたよ! チクショー」


「気を取り直して、次いってみましょう。今度は狙った場所と自分の間の空間すべてに干渉するイメージよ。一般的な汎用武器はこの方式ね」


「え? アレってビームとかの未来兵器じゃないの?」


「ええ。レーザー以外の光学系兵器は概ね魔法技術が流用されてるわ。明確な定義はないみたいだけど、巷では魔術って言われる部類よ」



 戦艦が艦載機を吐き出した。

 敵機の数が一気に増える。



「艦載機を全部出したわね。百五機追加。素敵ね! 練習台が増えたわよ。

 あと、追加で穀潰しが来たわよ」

 

「天知る、地知る、チルチルミチる! 俺の悪事が知られてる! お茶の間の英雄ジンバ見参!」



——ジンバさん……アンタなんで未だに甲板に立っている? さっきからガッツリ対艦隊戦やってたよね?


 特徴的な三つの衝角とクラシカルな船尾楼が特徴的な明るめの藍色の戦艦が近づいてきた。

 はたして、ジンバが船尾楼で握る舵輪には意味があるのだろうか?



鷹揚たかのぶ様、燈理あかり様、永様初めまして、ジンバ様の旗艦ツィゴイネルワイゼンの管理を預かります。と申します。以後お見知りおきを』



 コクピットの外殻モニターが真っ白い猫を映し出した。

 お、オッドアイだ。声からして女の子かな?



「こちらこそ、宜しくお願いします。それから、状況の説明ってもらえますか?」


『はい、現在に至る状況から今後の展望までご説明させて頂く準備はできております。ただ、今の状況を終了させてからでもよろしいでしょうか? 現在、艦長が持病の突発性ロマン症候群を発症しておりまして……事態が落ち着けば戻ってくるので、その時に改めてお伝えいたします』


——大変そうだなぁ。


「宜しくお願いします。では、チャッチャと片付けてしまいますか」


『元々はこちらで処理するつもりでしたので、引き続き戦闘に介入しますね。

 武装商船団ザウバー旗艦、輸送戦闘艦ツィゴイネルワイゼンは民間機保護のため引き続き戦闘に介入します。この戦闘は星間連盟条約第二百四十七条により、同第八項準拠の手法により記録いたします。続いてグレートジンバ―艦長きなこに要請します。貴艦と本艦のNeC0ジャイロの同期のため貴艦INーUネットとの接続を希望します』


『こちらはグレートジンバ―艦長のきなこだ。先ずはツィゴイネルワイゼンの無事の帰還を歓迎する。本艦はツィゴイネルワイゼンの要請を全面的に受け入れる。ずんだ、聞いてたね? ナン達に通達。INーUネット、展開するよ! 原点は本艦に設——』


『あー! おこめちゃんニャ―! コッチ見えるぅ? ずんだだよ。おこめちゃーんアイラビューん——ゴスゥッ!——……イエス、マム』


『ナン、チャパティ配置に着きました』


『鷹揚! 聞いてたわね? 今からコッチの座標設定システムに桜花も組み込むわ。情報が増えるけど処理してみなさい。緋金あかねも永もキッチリサポートすんのよ? INーUネット展開開始!」


『戦闘宙域全域へのINーUネット展開を確認しました。いつでもどうぞ』


『戦闘宙域の掌握完了ニャ。以後、コードの割り当てはオイラが担当ニャ。カウントスリー、ツー、NeC0ジャイロ起動』



 うっわ、なにこれ‼ 戦場の見え方が変わった。

 今までは全周を同時に見るような視点だったけど、今度は視点無しで全部が見える感じだ。

 何と言うか、今まではあくまで僕からの視点だったのが、外から僕に向かう視点も加わったような、全部見えてますって感覚。これは慣れないと相当疲れるぞ……。


 ツィゴイネルワイゼンの様子も手に取るように把握できる。


 ツィゴイネルワイゼンから様々な色の円盤が十機放出された。

 円盤は手近な戦闘機に接近すると——そのまま突撃。

 あわや衝突と思われた瞬間、戦闘機は円盤に飲み込まれるように消失。

 見ると他の円盤も同じように戦闘機を捕食している。


 それでも円盤の防衛網を搔い潜ってツィゴイネルワイゼンに接近する機体もチラホラ存在した。


 ツィゴイネルワイゼンの主砲をはじめとした対空砲火を抜けた戦闘機からの機銃掃射とミサイルがジンバを襲う。

 ジンバは微動だにせず、舵輪の操作を続行する。

 弾丸と爆風に飲み込まれるジンバ。

 やはりメインのモニターの映像では遠すぎて、ジンバの詳しい状況は分からない。

 船尾楼に視点をフォーカス——ジンバは無事なようだ。

 映像の中で頬に切り傷を作ったジンバが不敵に笑っている——コレ、絶対ヤラセだ……。



「タカちゃん、コッチも負けてられないよ! 機体の制御と防御はわたしと永ちゃんでやるから、タカちゃんは魔法の練習に集中しよう」



 アカ姉と永さんの着席と同時に桜花が加速する。

 敵の砲弾を機体のロールでかわし、追ってくるミサイルをチャフで躱す。それでも避け切れないもののみバリアで受け止める。



「いい? どれでもいいから狙いをつけたら、今度はタカちゃんの馴染みのある方式でやるよ。夢の通りの魔法を術式を意識して展開してみて」


——エネルギーボルト——


 言われた通り、正面の戦闘機に向かって術式を発動する。やがて、先ほど同様に押し返してくる力に対してこちらも意識を押し込み続ける。

 押し込み切った感触とともに光跡が発生し、目標の戦闘機が爆散した。



「おみごと! でも、毎回これじゃ大変でしょ? 今度は押し込む力を強くしたイメージしつつ目標とコッチをつなげる感覚でなるべく奥の方の的にいってみよー」



 狙った戦闘機と自分を繋げる感覚で、エネルギーボルトの術式を展開する。今度は光球の発生場所から目標までの射線上を走る光跡の上にいる戦闘機が連続で爆散する。光の帯は徐々に細くなるが、目標まで到達。目標の戦闘機を爆散させる。



「もう気付いてると思うけど、目標に対して魔法を行使する場合は相手の防御能力が抵抗として働くわ。対して、空間に影響を与える場合はその魔術の影響力は発現させたときの強度と範囲で固定されるの。

 だから、出力が弱すぎると相手のバリアを抜けなかったり、バリアを抜けてもその先の装甲で止まったりするわね。

 一般的な、引き金を引くとエネルギー弾が射出される兵器に採用されている理屈よ。抵抗とか考えなくていいから、万人向けなのよ。

 あと、影響範囲を無限に延長させることもできるわね。でも、タカちゃんの場合はあまりお勧めしないわ。タカちゃんの場合は、タカちゃん自身の魔力出力が大き過ぎるのよ。慣れるまでは思わぬ二次被害が出るかもしれないから、射程は短めがいいと思うわ。さ、あとは自習にするから好きにやっちゃって」



 その後も色々試してみた。エネルギーボルトなどの光弾はカーブでも、螺旋状の弾道でも思い通りに動かすことができた。

 さらに、一度射出した光弾についても、その光弾を対象として術をかければ再び操ることもできた。

 驚くべきことに、解析することができれば相手の弾丸も捕まえて操ることができるのだ。

 ただ、そのためには、相手の弾丸に探査解析フィールドを通過させる等の制限が加わる。そのため、初見での操作はリスクが大きく先読みができるとき限定の奥の手になりそうだ。

 とにかく、相手の弾丸も操作できるなら、いよいよ夢の中で身につけた魔法関連は、全て再現できそうだ。

 


「さて、大分慣れてきたみたいなので、ここからは防御の練習をしましょう。今、桜花の周りに展開しているバリアを探査解析して真似してみて。

 それが標準的なバリアパック一回分の防御フィールドよ。じゃ、機体のシールドを一旦解除するから、自分でやってみて」



 なるほど、自分で展開した方が攻撃を受けた方向が感覚的に分かる。なんだか、髪の毛に触られているような感覚だ。もちろん、より威力が大きい方が感じる圧も大きくなる。

 大抵の弾丸なら意識すれば押し返すことができそうだ。



「あとは反射とか吸収とかあるけど、これはバリアの周囲に探査解析フィールドを作ったりとか色々複雑になるから、折々で練習しよう。この辺りの教材も狩りつくしたし、戦域の反対側も掃除しましょう」



 ドラスケからの攻撃に腹部を貫かれ、キョトンとした顔で崩れ落ちるジンバさん。


 それが僕がツィゴイネルワイゼンに進路をとった時、桜花のセンサーで最初に捉えた光景だった。

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無地の旗 にくきう @nikukiu

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