第35話 実戦!(で) 魔法学講座〈入門編〉②
「それでは、魔法の講義を始めます!」
現在、アカ姉はスマートな眼鏡に紺のスーツ姿のいかにも先生という姿だ。
きっと、形から入るタイプなのだろう。
二人がその場で回転したら、既にこの格好になっていた。魔法って便利でいいですよね? あ、これは魔法じゃない? そうなんだ。
ところで、永さんもサポートを外れてしまうと、敵機の掃討が僕一人の仕事になる事についてはどう考えてます? 何と言うか……つまり……趣味に生きるのも大概にせいよ?
あと、魔法の授業なら黒いローブとかの方がそれらしいのでは? と思うがそこは言わないことにする。メンドクサイし……。
とにかく、二人の好きなようにさせて、早めにサポートに戻ってもらった方が楽そうだ。
あんたら、気を抜き過ぎだからな!?
「アカ姉「先生と呼びなさい」……先生」
「はい、タカちゃん」
「魔法って何ですか?」
「魔法はエーテルを利用して様々な現象を引き起こす技術の総称よ」
「……」
「……」
「終わり?」
「終わり」
アカ姉がコクリと頷く。
「……」
「……」
「……さて、桜花のプログラムからそれらしいものを探すか。アカ姉、永さん、迎撃のサポートに戻ってくれる?」
僕はコンソールから、昨日の整備中にアタリをつけておいたプラグラムの読み込みを始める。
「ごめんね。無視しないで! 昨日から楽しくて、チョット調子に乗っちゃっただけなのよ~! ほら、お母様の監視もないし、羽目を外しすぎちゃったってことで……ね?」
燈理さんからの監視がない? ……それはどうかな? アンタら母子でそっくりだから分かんないよ? 経験上、監視が無くなることは無いと断言できる! 余分な事は言わないけど……。
「了解。今が楽しいって気持ちは受け取った。だけど、もう少し落ち着こう? 楽しい気分を継続するためにもキリキリ説明しようか? ホント頼んます」
僕がプログラムを閉じると、「オッケー、任せて!」とアカ姉がコクピット正面の外殻部へ飛んでいく。
コクピットの外殻部は球状で内側が外を映し出すモニターを兼ねている。
星空に舞う妖精というファンタジーライフに超どストライクな状況だが、肝心の妖精が女教師のコスプレ姿なのは何とかならないだろうか。
「まず、魔素についてだけど、これは簡単にいうと、魔法に分類される現象を起こす原因物質をまとめたものの総称ね。
例えば、わたし達機械由来の存在でも使える魔術の素はエーテル。気功なんかの素はプラーナ。これらとは少し違うけど、奇跡の一部や超能力を引き起こすアストラル。
魔法はこれらを意識的に操作する事で世界に干渉し、望んだ現象を引き起こす技術のことよ。
今のところ、人類が干渉方法を模索して体系化できているのがエーテルとプラーナ、アストラル三つね」
全周モニターの正面に魔法使い、武道家、宗教者のピクトグラムが表示される。
「先生! 手っ取り早く感覚を掴みたいんだけど、何か簡単に実践できそうなものはある?」
「うんうん、熱心な生徒は好きよ。でも、もう少し待って。慌てなくても、タカちゃんは魔素への干渉はできるようになっているはずよ。では、問題です。魔素にはどうやって干渉するんだと思う?」
「呪文詠唱とか、型とか意志の力とか……あと魔法陣?」
「二割くらい正解。魔素はダークマター——え~っと、暗黒物質とか暗黒エネルギーとか言われていたものね。もちろん、ダークマターの全てが魔素という訳ではなくて、そう呼ばれていたものの一部って感じよ? そして、これらの干渉の鍵を握るのが、タカちゃんの大好きな鉄よ。何か思い当たらない?」
「賢者の石……」
「そ。鉄の原子核がとても安定しているわりに変化に寛容だったりとか、色々な特性を持っているってことは知ってるわよね。詳しいことは端折るけど、その汎用性が魔素を受け入れる器になっているの。鉄が磁力を帯びることを磁化するっていうわよね? あ、ピンときた? 魔素を取り込んだ鉄——つまり、鉄が魔化したものが賢者の石よ」
三つのピクトグラムがフェードアウトし、コイルに鉄心を巻いたものと電池の組み合わせの模式図が表示された。
「電磁誘導みたいに、魔素を誘導できる?」
「当たり、さらにこの電磁石を砂鉄に近づけるとどうなる?」
「賢者の石があれば、近くの鉄に影響を伝播させられるってこと?」
「そ。賢者の石と接続状態になった鉄は魔化されたものと同様の振舞いをするわ。魔化された回路は魔素の流れを生み出すから、それを制御することで魔法が発動するのよ」
「成程、アカ姉や永さんの
「残念。それは少し違うのよ。厳密にはわたし達の周りに魔素は無いわ。そうね、わたし達のごく近くにあるって表現が近いかしら?」
燈理は両手を広げて、薄く微笑んだ。その向こうで全周モニターの正面部が、複数の色の違う立方体を表示する。
「この箱がそれぞれ、わたし達がいる空間、エーテルが存在する空間、プラーナが存在する空間、アストラルに関わる空間、その他の未知のエネルギーが存在する空間を表すとするわね」
白、緑、赤、黄色の立方体が重なり合って、一つの白い立方体になる。
「こんな感じで、私たちの世界と別の空間世界は、お互いに重なり合って存在しているわ。ただし、何もしないままでは、お互いには認識できない状態にあるの。それを越えて魔法を成立させるために、仲立ちをする触媒が必要になるのね。
エーテルに干渉するエーテル触媒、プラーナに干渉するプラーナ触媒という具合よ。
コッチの世界のモノを触媒を通して魔素に近いモノに変質させて、魔素が満たされた空間に投入すると、余剰な魔素が触媒を通してこちら側に流れ込んでくるのよ。
その時に作られた、疑似的な魔素が魔素に変化するときに放出されるエネルギーを利用して、コッチに流れ込んできた魔素がコッチの物質や現象に変化させる技術を魔法と呼んでいるのよ。
あと、魔素をどうこうするために消費するエネルギーは、カロリー的なものだったり気合い的なものだったりと諸説あって正確にはわかっていないって言われてるわ」
「つまり、各空間世界の間で、触媒を仲立ちに疑似魔素と魔素をやり取りする時の、エネルギーの収支のやり取りを利用して使い手が意図した現象を引き起こす、この一連の流れが魔法って認識でオッケー?」
「その認識でいいわ。あとはそれぞれの空間の間での距離と時間の関係についてだけど……これは各々の空間に帰属する物質は距離と時間において、別の空間の影響は受けないって思っててくれればいいわ」
「理屈は大体わかったけど……実際の魔法の行使については、賢者の石を使った魔法回路を使うって認識でいいの?」
「それについても、今はその認識でいいわよ。ちなみに貴族や華族のほぼ全てが、後天的に賢者の石を体内に移植するの。その時、同時に魔法の起動装置の移植もするわ。頭蓋骨の一部を置き換えて移植することが多いかしらね。一般人の間では賢者の石が組み込まれた魔法起動装置を起動させる方法が普通ね」
「僕の中にも賢者の石が入ってるってこと?」
「タカちゃんには入ってないはずよ。でも魔法は使えるってお母様は言ってたわ。その理由は教えてもらえなかったけど、数は少ないけど、賢者の石や魔導回路の移植なしで魔法を使える人も確かに存在するから、ま、そういうことかな?」
「先天的に魔法に適性がある人もいるんだね」
「ええ、賢者の石……というより、なんらかの原因で魔化された鉄を体内に持っているんだと思うけど、ほら、少量でも魔化された鉄が回路状に配置されれば……ね?」
「血液と血管……?」
「当たり、正に血筋って感じよね。ほら、ジンバが言ってた、か〇は〇波みたいな気功砲の練習をした夢を覚えてるかしら? アレって一定の呼吸と体の動きをリンクさせる事で、動きに個人差はあるけど大抵の人が発動できたでしょう? 理屈としては血管と血液で可動型の魔法陣の効果で発動させるらしいわよ。道具無しで魔法を使える人は、先天的にこれに近い条件を体内に持っているってことね。ある意味、人工的だろうと先天的だろうと関係なく、賢者の石を持つ人は運命に選ばれてしまった人って言えるかもね。他に何か質問はない?」
「賢者の石って組成的には普通の鉄なんだよね?」
「うーん……ビミョーなのよねぇ。 さっき魔化された鉄が賢者の石って言ったけど、鉄が魔化されたときに、魔素に引っ張られて魔素由来の空間に存在する素粒子も鉄に入り込むらしいのよ。つまり、賢者の石の中でこちらの空間とあちらの空間が共存している状態にあると言えるわけね。
賢者の石の質量が大きくなるのも、こちらの空間では観測不能な粒子が重力波に影響を与えているかららしいわ。
この特徴から、魔化された鉄の周囲は空間の境界があいまいになって、様々な現象を引き起こすらしい……こんな風に認識されてるわね。だから答えは、賢者の石は普通の鉄の中に空間の境界を越えて未知の素粒子が入り込んだもの、そしてこの素粒子は今の観測機器では認知できないってところかしらね。
……あ、桜花の最適化が終わったわね」
「何かしてたの?」
「んふふふ〜、桜花の擬似魔力回路を、タカちゃんの身体に合わせてチューニングしたのよ。これで、今までの特訓でタカちゃんが習得した魔法は全部使えるわよ? ちょうど近くにおあつらえ向きな的がたくさんあるから、練習しましょ?」
……なんて言うか……この、すべて準備されてるっていうか、準備済みっていうか、そんな感じが釈然としないんだなぁ……みんな、なんか企んでる?
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