第34話 実戦!(で) 魔法学講座〈入門編〉①
『あいむ ばぁあーっく!』
戦場に飛び出した竜を追いかけるように、一隻の戦艦が空間の裂け目を抜けて来た。
戦艦の後ろで避けた空間が逆再生されるようにゆっくりと修復されてゆく。
アレが船首に三つ、等間隔に配置されている。色はグレートジンバ―と同じで目が覚めるような鮮やかな明るめの藍色。
艦の後方には見た目が木製のクラシカルな船尾楼が存在を主張している。この船尾楼の優雅な雰囲気が艦の印象を鈍重から重厚に押し上げるのに一役買っている。
艦の上面と下面に二か所ずつある、三連カノン砲を備える砲塔も存在を主張している。
逆に砲塔と船尾楼の中間にある艦橋は控えめだ。
……時にジンバさんや……アンタ船尾楼の上で舵輪を掴んで何やっとんの? 生身だよね? ってか、その艦は舵輪で操船する仕様じゃないよね?
通信回線は繋がっているようなので、ツッコんでやりたくて仕方がないが、いかんせん敵小型機の襲撃が多い! ってかジンバさんに向かっていくついでにコッチに来てない?
ジンバさんの方にもかなりの数の敵機が群がっているが、ドラゴン型ドラゴンにアッサリと迎撃されている。
二本の尻尾に二対の羽根型ユニット、大きな肩幅とそこから生える大型の腕というか前足には巨大な爪が生えている。先程、空間に突き立った柱に見えたものがこれだろう。
竜の骨格標本のような巨体は全長二百メートルほど。巨腕を振るうドラゴンゾンビが群がる戦闘機を叩き落としていく姿が、なんだか特撮めいてみえる。
あ、バラクーダ級の戦闘艦がこん棒代わりに振り回されとる……でかいなぁ。
こんどは、額部分の角と顎下の角が放電して……やっぱりブレス吐くんだ。ってメタトロン級の主砲と拮抗してんじゃん! ……競り勝ったよ……。
つえーな! ドラスケ(仮)!
「タカちゃん! 戦闘空域内の敵艦への
一仕事終えたアカ姉が僕の目の前で伸びをする。
「今頃、敵艦内の戦闘ボットや武装レイバロイドがブリッジの制圧に動いているはずです。状況の終了も時間の問題だね」
「んふふ……碌に白兵戦を経験してこなかった貴族サマが、百倍の戦力差をどうやって抑えるのか見ものね。良いスキルをインストールすれば強いなんて幻想だって思い知るがいいわ」
白兵戦で百倍の戦力差って……瞬殺って事では?
「という事は、この宙域の安全確保は達成されつつあるって事かな?」
確かに敵艦の動きは小さくなっている。しかし、戦闘機や敵ドラゴンは相変わらず攻撃を仕掛けてくるし——まあ、動きは単調だが——小型戦闘艦からの砲撃も継続している。
おそらく、本艦の方に指示を出す余裕が無くなったから、直前までの指令を実行しているといったトコだろう。
「アカ姉、仕事が終わったならハイダウェイジンバへ送ろ「帰らないわよ」……だよねぇ」
敵機の掃討も単調なお仕事になりつつあるし、アカ姉のお仕事も終わったなら……と提案してみたのだが、秒どころか被せ気味に却下された。
『あー、テステステス……全国のジンバファンのJDの皆さんこんにちは! あの、ジンバさんが五割増しで帰ってきました! 小さなお友達も大きなお友達も、そして現役バリッバリのご老害のお友達たちも……』
お! 爆散する敵戦闘機の間から見えたジンバさんが、何やらMCよろしく舵輪を片手にノリノリで何か言い始めた矢先、一気に音声ボリュームが絞られた。
あれ? どうした?
「それに、この先の予定を考えるなら、わたしがサポートした方がお互いに安全よ?」
席を離れて、僕の顔の周りを飛び回りながら全身でプレゼンを始めるアカ姉——どうやらボリュームを絞ったのは彼女のようだ。
僕の顔の周りを飛び回りながらのアカ姉による説明によると、ワンオペでは桜花の機動にムラや無駄が発生し、効率的な機動が難しいらしい。
そもそも、ドラゴンという兵種は複数人で動かすことを前提として設計されている。
一般的にドラゴンは正規のパイロットの他に、サブパイロットを同乗させるか、機体にサポートAIを搭載して運用するようにデザインされているそうだ。
なかでも最も普及している方法が、アンドロイドの枢核のみをコクピットに持ち込む方法だ。これにより省スペース化はもちろんの事、各アンドロイドにそれぞれのパートナーであるパイロットの設定を記録しておけば、機種転換によって起こる設定変更の時間を大きく短縮できる。これは、同種複数のドラゴンの組織的運用の効率化にも繋がるものだ。
枢核とは、アンドロイドの思考や記憶を担う、人の掌くらいの大きさのパーツであり、彼らの本体といえる。大抵のアンドロイドのボディはメンテナンスの都合上、枢核部分だけを取り外せるつくりになっており、これにより、ボディの破損時などに枢核をスペアボディに移したり、その時々に必要に応じて目的の機能を有するボディへ乗り換えることにより効率的に仕事にあたることもできる。
つまり、枢核のこの機能を利用し、枢核をドラゴンの機体に接続することで、より直接的に制御しようという訳だ。
「で、わたし達のお披露目の時に見せたのが、わたし達の枢核。わたし達は桜花の機内にいる限りワイヤレスで接続できるし、いつでも自力で自由に動けるからタカちゃんのサポートもバッチリよ!」
散発的にやってくる敵機を迎撃する僕の前を横切って、モニター前のコンソールの上に制止したアカ姉が僕の顔を覗き込む。……それ、半ダイブで桜花と感覚共有してなかったら、メッチャ邪魔だからね?
「それに、さっきの戦闘だってエネルギーの使い過ぎよ? もっと効率よくやらないと、戦闘中にガス欠になるわ。それに、魔法、使いたいんでしょ? ロマンだものね。わたしならより効率的な練習プログラムを提供できるわよ」
「あ、それ、言わない方が良いよ? 多分、
永さん、アカ姉とはタメ口で話せるんだね。打ち解けた様で良かった……そして、なんで言っちゃうかな?
「ツツツ、タカちゃん。まだまだ甘いわね。わたしはタカちゃんの事ならおはよう前からおやすみ後まで全てを監……観……見守ってるのよ? そんなことはお見通しよ」
「分かってたなら、早く言おうか? ……ところで、仮想現実の中ならホスト側のアカ姉が僕の行動について知ってたのは理解できるけど、リアル側にいる僕のことを知ってるのはなんで?」
「女には秘密があるのよ? イイオトコは細かいことを気にしたら駄目よ?」
さいですか……教える気はないですか……。
「あの、鷹揚さんが繰り返す夢で体験した事は、全てこの世界で再現可能です。むしろ、あの夢は鷹揚さんがお目覚めになった場合へのチュートリアル的な措置です」
「あー、ソレ、わたしが言いたかったのに。とにかく、魔法も気功もオカルトも存在は確認されてるの。理屈の解明が追いついてないだけ。仮想現実内でジンバがプロデュースした一連の目覚めの事件の時も、使おうと思えば気功方とかも使えた筈だけど、タカちゃんは使わなかったわね」
使えた筈って、アカ姉……アノ状況で魔法や気功砲に望みをつなぐ思考って、普通にないですよね? 確かに、ジンバさんが出がけに〇め〇め波がどうとか言ってたけど、気付くわけないじゃん! 使ってればホントに楽だったでしょうよ!
「いい機会ですし、このまま少し魔法を使ってみませんか? 私たちもお手伝いできますし」
「いや、止めとこう。アカ姉と永さんのこの作戦での役目は終わったんでしょう? 一度、帰還して二人の安全を確保するべきだよ。魔法なら、その後で僕が単独で再出撃するから通信でサポートしてくれればいいし、機動の無駄にしたって、現状は問題なく操縦できてるから、無駄とムラを削減するのは今後の訓練でってことでいいんじゃないかな?」
アカ姉が僕の正面空間に浮いている表示モニターを指さして、僕を振り向いた。アカ姉の身体で見えなかった空間表示モニターを確認して、思わずアカ姉の顔を見る。
表情はほとんど動いていないが、多分笑いかけているのだろう。
「それに、もう登録しちゃったから、わたし達抜きでは桜花は動かないわよ?」
アカ姉の弾んだ声を聞きながら、永さんを見る。……ナンデ、目ヲ逸ラスノカナ? ン?
「言ったじゃない、ワイヤレスで接続できるって。油断大敵ね」
——やられた……。
片手で顔を覆う。僕の頭を撫でている手はアカ姉のものだろう……これで勝ったと思うなよ。
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