第33話 帰還者【別視点】
「
無謀な特攻機を中継して石システムへ干渉された時は肝を冷やしたが、眞喜志からの対策データですぐに対策を講じることができた。
眞喜志はその後の行動も良かった。すぐに艦を引き、これ以上の功績を放棄した。
作戦に関する功績は男爵にしては大きすぎるが、戦線を離れた罰と相殺として功なしにしてやれば、皆が納得するだろう。
そもそも、神威などは
神威の被害と言われている、十万ユニットを消し飛ばし生き残り四千名も意識が戻らないという現象。これはこの戦域で起こったことを考えれば、全て説明がつく。
ハイダウェイジンバとかいう小惑星内の世界樹、そして天然石の中でも原石に近い賢者の石を積んだ特攻機を準備し、今回のように貴出水が率いた
その上で同士討ちを仕掛けるなり、乗組員を酸欠状態にするなりすれば、あの状況はつくりだせる。
つまり、目の前の小惑星が今回の功績の全てなのだ。あれを掌握すれば勲功一位は大比賀のものとなる。
さらに貴出水が有りもしない神威を探している間に、現在侵攻中である
「おい! 対策が取れたなら、サッサと戦力を投入せんか! こんなところで時間を潰している暇は無いのだぞ!」
モタモタと仕事をしないブリッジに檄を飛ばす。
大比賀が直接指揮を取れば、よりスムーズに展開を操れるのだが公爵は細かい指示を出すものではない。サロンで大人しくしていてやるのだから、せめて酒が不味くなるような戦さは見せないのが部下の務めだ。
折角取り立ててやったというのに、機会を物にできないような無能には罰を与えなければならない。
大比賀が部下に与える罰について考えていると、耳障りな声が耳に飛び込んできた。
『あいむ ばぁあっく!』
大比賀が十三年間忘れた事が無い声だった……珠玖樹恒星系独立の交渉人の一人。そして、あの屈辱を作り出した原因の一人。
「
『全国のジンバファンのJDの皆さんこんにちは! あの、ジンバさんが五割増しで帰ってきました! 小さなお友達も大きなお友達も、そして現役バリッバリのご老害のお友達たちも聞いてくれてるかな? 今からジンバ君が為になる標語を教えてあげるから、よおっく聞いてね。……気をつけよう。殺したつもりと死んだはず……ブッは』
♢♢♢
小惑星ハイダウェイジンバ付近で大比賀公爵がジンバの声を聞いた時、
「馬鹿にしおって、あの死にぞこないがぁ!」
どのようなトリックを使ったのか知らないが、既に魂砕きの悪魔達の一人を討ち取ったと本国に報告してしまった。今更やはり生きていたなどと、良い恥さらしだ。
まあいい、諸侯軍の戦域に姿を表したのだ。ジンバの命も長くはあるまい。奴を殺したい者は諸侯軍の中にも多いのだ。
貴出水は気を鎮めるために茶を用意させる。
同行した家令が茶の準備を整える間に室内に流れる香気が気を落ち着かせてくれる。
『それでは、ここで特別ゲストを紹介します。今回はなんと二名の方々が駆けつけてくれましたぁ。まずは一人目、国主として
貴出水は思わずティーカップを取り落とした。ティーカップは絨毯の長い毛足に受け止められたが、中身はそうはいかない。絨毯に作られたシミが湯気を放たなくなる頃、ようやく貴出水は自分が立ち上がっていたことに気付いた。
何がどうなっているのか。あの二人は確かにエーテル空間へ放逐したはず。時間と位置の概念がない空間で長い時間を無事でいられるとは考えられない。
『こっからは見えないが、なぜって顔してるだろうから、説明してやんよ。エーテル空間に物質を収納する時、収納しようとする物には必ず紐づけを行う。コイツをアンカーとしてエーテル空間にしまった物を見失わないようにする訳だ……これが基本。では、紐づけが失われた時、エーテル空間内に収納された物はどうなるか。答えは簡単、コッチ側にはじき出されて塵になる。仕掛けは単純。ジャンプ移動する船そのものを予め紐づけしておく。ジャンプ移動ってのはゲート移動と違って、船は必ず一分程エーテル空間に滞在する。んで、紐づけされたのと、そうじゃないのと、二艘の船を同一座標に向かってジャンプさせ、船がエーテル空間にいる間に紐づけされてる方のアンカーを破壊する。そうすれば、もう一方の船はエラーで戻ることなくジャンプ移動に成功し、アンカーを失った方は宇宙の藻屑となる……こんなトコだろ?』
貴出水にとって、冴澄暁麿と渡海碧が生きていたのは命取りになりかねない。ジンバが証拠を掴んでいようがいまいが、名代として預かっている渡海家の資産の変換を求められた場合、売却によって流出した渡海家の技術に関する賠償を求められる可能性がある。渡海家の後ろ盾に冴澄国がついた場合、武力と経済力で劣る鈴浪嶺連邦国は冴澄国の要求を容れかねない。
『次は、俺がどーやって救出したかって話だが……それは、秘密です』
冴澄国もここまで大きな抵抗がなかったのは、国主不在の混乱で対応が遅れていただけのことだ。皆、自領の防衛に重きを置いていたため、現状では侵入しただけの鈴浪嶺連邦国諸侯軍に対して様子見を決め込んでいた。しかし、暗殺されかかった国主が帰還し、しかも犯人が領域内にいるとなればどうか? 兎働家のように血の気が多い氏族は真っ先に攻勢に出るだろう。神威を手に入れた後ならどうとでもなっただろうが、今、冴澄国に攻勢に出られるのは非常にマズい。
「クククク……秦野。すぐに賢者の石の散布を行う。目標は玖樹恒星系の全ての居住可能惑星。使用可能な戦闘機全てに積み込み、数で圧倒せよ。冴澄軍が対応をしている間に双石の本星、
貴出水は家令に指示を出すと、暗い笑みを浮かべて茶の香気をゆっくりと楽しんだ。
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