第30話 来訪者②
——二時間前
「作戦の説明を始めるわよ。チャパティ、表示をお願い」
ブリーフィングルームに集まった僕たちの前、スピーチテーブルの上からきなこさんが会議の開始を告げる。
きなこさんの横にレモン型の岩の塊——ハイダウェイジンバが投影された。
レモンのヘタ部分の延長線上にいくつかの光点が表示され、その周りに戦艦の映像が並べて表示される。
戦艦同士で縮尺を揃えてるらしく大きさの対比が分かりやすい。
楕円の筒の後方に四機のスラスターを備えたバラクーダ級戦闘艦。
尖った船首と胴体上下の砲撃艦橋が特徴的なソードフィッシュ級戦闘艦。
船首に四つの発着チューブを備えた、頭でっかちのカンディル級戦闘母艦。 夢で戦った機体と同型のブルーグレーにイエローラインを施された可変型ドラゴン。
ここまでは昨日の戦闘で実物を見ている。
それ以外では、まずほぼ球体の戦艦というより、移動要塞のような異容の戦艦。下に名前が付いてる。親切だね! なになに? 超弩級戦闘母艦ますらお。
でかいね! 複数の出入り口からはバラクーダ級が発着してる。そう、この映像、静止画じゃなくて動画なんだよ。あ、砲撃した……うん、これは移動要塞だ。よく見ると表面にびっしり砲塔がついてる。
続いて、メタトロン級超弩級戦闘母艦。ほら、同じ超弩級のくせに大きさ全然違うじゃん。メタトロン級は艦首がないね。三つの艦首を束ねたような作りの
次がわだつみ級弩級戦闘母艦。何だか戦闘母艦ばっかりだね。あ、コレ赤城だ。日本帝国海軍の空母赤城を二隻用意して甲板同士で重ねた感じ。なるほど、全通式で着艦と補給と発進を一連で行うと……違うな。そうか、上下の甲板がそれぞれ二階建てになってるのか、下の階から着艦して上の階から出る……なるほど。武装はメタトロンより少ないけど、ドラゴンや戦闘機の搭載機数は多そうだ。
で、一気に小さくなってバラクーダ級となるわけだ。
それにしても、ますらおの大きさだよ。バラクーダ級がますらおから発進してるからな。あれで前線に攻めてくるって頭おかしいんじゃないか?
戦闘機は二種類とも大気圏でも飛行できそうな形の正統派だね。
一機目は可変翼の大型戦闘機、裂空。翼に追加スラスターを装備して宇宙でも対応できるようにしてるのか。可変翼の強みをなるべく殺さないようにしてるんだな。うん! 好き! こういうの。スラスターは二機装備で、これも僕の好みだ。
もう一機はスラスター一機の小型の戦闘機、ダーク。その上面に二機、下面に一機の追加スラスターを装備して機動力を確保してる。大気圏内では長距離航行後にパージするのか最初から外しておくのか。
全体的にカラーリングはブルーグレーで統一されているが、名称に統一感が無いのが気になる……あ、諸侯軍。なるほど、悪く言うと寄せ集めか……納得。
「敵の陣容は表示のとおり、ますらお一隻、メタトロン三隻、わだつみ八隻、ますらお内にバラクーダ級戦闘艦二隻、ソードフィッシュ級戦闘艦八隻、カンディル級戦闘母艦八隻から成る一個宙戦中隊が百と、ドラゴンと戦闘機が合計一万二千機。合計五万ユニット……大軍ね。ザッとこちらの戦力の五百九十五倍ってところね」
ところねって、
「だーいじょうぶっ! まーかせてっ! 絶対勝ってみせるわよ? 我に秘策ありってやつよ! とはいっても昨日と同じことをするだけよ。流石に全軍鹵獲って訳にはいかないけど、五分五分から六分四分位に持っていけるはずよ! アチラの人員は精々千人が良いトコね。残りのユニットは自立攻撃AIだからそのうちの六割を頂くわ。戦闘艦もAI任せにしていてくれればもっと助かるけど」
きなこさん……悪い顔してるなぁ……。
昨日と同じかぁ……桜花を起点に相手をジャックするんだよね。
「きなこさん。僕は中央突破になるんでしょうか?」
「おぉ!
いや、助かってます。メタトロン級の正面から突撃したらイカンでしょう……。
「ジャンプで敵陣の中央に送るわ」
は? 今なんつった?
「だから、アチラさんがどこにジャンプアウトしてくるかは先んじてわかるから、そこに桜花をジャンプで送り込むのよ。タイミングはキッチリ合わせるから、アチラさんにしてみれば、ジャンプアウトしたら自陣のど真ん中にあなたがいるって事になるわ。お・ど・ろ・く・わよ~。あ、心配しなくても、ジャンプ移動する側は移動先に何がジャンプアウトしてくるかは分からないのよ。そうそう、昨日鹵獲した戦力はギリギリまでハイダウェイジンバに隠しておくから、暫く一人でガンバってね」
「ガンバってねってアンタ……」
「まあ、ドコ撃っても誤射の心配がないって事は保証できるから、安心して? どの道やるしかないのよ」
死んだら化けて出てやる……。
なんて、実は言うほど心配していない。桜花に近いほど敵AIをジャックできる確率が上がるはずだから、結果的に味方に囲まれた状態になるからだ。
桜花の性能なら、まず撃墜されることはないだろう。今回は攻撃しても良いみたいだし、なんとかなるでしょ。
——十五分前
「敵ワープアウトまで、一分ニャ」
「今回はNeC0ジャイロの展開は敵機の鹵獲後に行う! そう時間はかけないから、キッチリ暴れてらっしゃい」
「桜花、ジャンプシークエンス開始ニャ。カウントファイブ、フォー、スリー、ツー、ワン、ジャンプ!」
視界が切り替わり、星々の海が……と思いきや、真上に視界いっぱいの球体——ますらおがいる。この状態だと宇宙が二、ますらおが八って感じだな。
ムコウもこちらに気づいた気配はあるが、まごついて動かない。指示がない限り戦闘行動は取れないから当たり前か。
よし、はじめますか!
手始めにますらおに突貫かましますかね。
突撃形態で一気に近づく。機体の後方斜め上に淵飾りだけの識別旗の映像がはためいている。
シールドを前面に過集中させビーム状の刃を形成、砲撃をきり飛ばしながら地表を目指す。
それぞれの武装の有効射程確保の報告が飛んでくるが無視。まだ近づける。
おお! 重力がある!
何らかの方法で発生させているのだろう。地表から百メートル位のところから、重力が働き始めた。ここで、後は落下に任せることにして高機動戦闘機形態にモードチェンジする。
それまで胸部が機首の役割を果たしていたが、今度は腕部と肩部がこれに代わる。後ろに配置されていた脚部が側方へ移動し、制御翼兼可変スラスターとなる。人型の時の背部スラスターが下部へ、肩部スラスターが上部、腰部スラスターが中央メインの役割を果たす。
これにより、二等辺三角形の突撃形態から、オニイトマキエイのような形状に変化する。
全周視界を活かして、目につく砲塔に片っ端から重ビーム砲を撃ち込む。
ちなみに、アカ姉は敵機のジャックに向けてシステムの同期を担当し、
当然砲塔からも応戦が開始される。桜花の機動の先に置くように放たれるミサイルを縦回転で上方へ軌道変更。胸ビレを下にたたむことで生み出した縦回転を維持しつつ、ミサイルをすれ違いざまに小口径レーザーで撃墜。
回転モーメントのみを相殺し、後ろ向きに飛びながら残りの砲塔に重ビームを浴びせていく。
ここでようやく戦闘機と遭遇。小型戦闘機ダークの八機編隊。
散開したうちの二機が旋回し、教科書通りに僕の背後に付いてくるが、残念、今は後ろが正面だ。スプレーミサイルでダークのビーム機銃を減衰させ、バリアで受ける。この程度ならすぐに復旧するので心配はない。ダークが爆煙を抜けたところで、重ビームの集中砲火で一機ずつバリア飽和に落として仕留める。
前後を元に戻して急加速。近付いてきていたミサイルの爆発タイミングをずらしつつ接敵。横を抜けるついでに胸ビレのビームカッターで切断していく。
そして、急に敵の攻撃が止んだ。
どうやら、AIのジャックが始まったようだ。
もう少し試したいことがあったが、今度はジャックの効果範囲外へ援護に行かなければならない。
——なんか来た。
殺気は感じなかったが、嫌な予感に体が反応した。
咄嗟に片ヒレだけスラスターを最大で開き、錐もみ状に落下する。
さっきまでヒレと肩部があったところをビームの火線が通過していく。
続けて迫る光の刃を左肩部と右脚部のスラスターを開けたまま人型へ変形することで、本体への直撃は避ける。ただし、今ので一瞬だけバリアが飽和させられた。
「今のを躱すとはね……お前、ジ・エッジか?」
白い人型の機体が共通回線で話しかけてきた。
それでも攻撃の手を緩めない白い人型。
狙ってくる場所がいちいちエグい。イヤな奴にあたったかも……。
さらに別方向から、機銃が撃ち込まれた。バリアを頼りに機銃の方向へ跳躍。機銃と並行してさらに別の方向から撃ち込まれたミサイルをかわした。
あれ? 敵機のジャックが解けてる?
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