第28話 来訪者①
——ズン——
宇宙空間に音が響いた。音ではなく、空間が振動しその余波が届いたような……そんな響き。
——ミシィ——
先ほどより硬質な響き。
敵艦隊の後方の宇宙がひび割れた。ヒビをこじ開けるように巨大な支柱が八本。宇宙に突きたった。
——十八時間前
「桜花の装備をエーテル空間に格納した。カップリングしたマテリアルは腕部付近に設置しておくから確認をしておいてくれ。それから、追加装備にかなり特殊なものがある。ジンバ様が作ったものだから、強力らしいのだが戦場があったまるまで使えないらしい。指示書通りに設定しておくが、使う時は注意してくれ。機能については書かれてないんだ」
端末をタシタシ叩きながら、あずきさんが整備記録を転送してきた。相変わらずのダンディヴォイス。
そして、ジンバさんってこういうの好きだよね。謎に包まれた物体……的な? 絶対、なんか企んでるよ。
「後十五時間は攻めてこニャいって、猪八重関にいる協力者も言ってるんだから、慌てて仕上げる事ニャいんじゃニャい? オイラ、接収した艦の修理とカラーリングでヘトヘトニャ。動物虐待ニャ」
「……
「へいへい、分かりニャしたよ」
勤勉な猫たちに挨拶をして、コクピットを離れる。休めるときに休んでおこう。これ、緊急時の鉄則。
——四時間前
「タカちゃん。おはよ」
「おはよう、アカ姉」
ダイニングに近付くと、アカ姉がダイニングから飛び出してきた。
待ってたんだろうか?
僕は自動調理機に朝食を注文すると、アカ姉と適当な席に着いた。メニューはお任せだ。この自動調理機、なんでも作れるという事なのだが、そう言われると逆に困ってしまう。そこで、おすすめをお願いしたら、なんと、対応してくれた。しかも、あ、これ食べたかったかもとか思うものが出て来た。以来、注文はおすすめでお願いしている。
「そうそう、タカちゃん。お母様から伝言よ。猪八重関の協力者から、ジンバの戦闘艇が停泊していた場所の写真が送られてきたんだって、チョット待ってよ。映すからね」
アカ姉が手をかざすと、中空に映像が出現。タラップの写真のようだ。踏板に落書きが……サルベージ……?
「タカちゃんは何だと思う? タラップに争った形跡がないから、乗り込むまでは無事だったんだと思うんだけど……」
「アカ姉……プライベートシップのタラップの落書きって消されたりしないの?」
「ずーっと残ってることはないと思うけど……あー、これジンバの字よ! きったない字だからすぐわかった」
確かに、特徴的というか自由というか……味のある字だね。
「サルベージって、サルベージ船? 何か引き上げるのかしら?」
あ、分かったかも。
「アカ姉、
「ちょっと待ってね。お母様に聞いてみるから……展望ラウンジね。コッチよ」
「……ごはん、食べてからでもいい?」
ちょうど僕の前に運ばれてきた『朝の和食膳』が強力な存在感を纏っていた。
育ち盛りだからね! しかたないよね?
薄暗い展望ラウンジ。つなぎ目のない透明なドーム型の素材で覆われた円形のスペース。
満天の星空の下、ポツンと手摺の上に座る永さんを発見した。
「トワちゃーん。タカちゃんが聞きたいことがあるって」
「あ、
お互いに挨拶を交わして、ベンチに腰を下ろした。
うーん、聞きにくい……。宇宙で天気の話をしても意味ないし……。
「
もう、ぶっちゃけました。えーぶっちゃけましたとも! 気の利いたトークをしようなどと……僕は僕に何を期待していたんだろう。無理です!
「なぜ? とお聞きしても良いですか?」
「ジンバさんがいなくなった件と繋がりがあるような気がして、貴出水によると、ジンバさんが死亡したのは事故。ただし、死体はない。ジンバさんのアニマルズのみんなも何だか準備に忙しそうだし、あの人は派手好きのくせに裏で動くのも好きそうだから。何かやってるんだろうと思ったんだ」
アカ姉にさっきの映像を出してもらう。
「ジンバさんの戦闘艇が停泊していた場所のタラップなんだけど、サルベージって書いてあるのわかる?」
「……言われてみれば……これ、文字なんですね」
ジンバさん、字の練習をしましょう。そういえば、随分前に「これ何て読むんだ?」とか聞きに来たことがあったっけ、自分で書いた字が読めなくなってたんだよ、あの人……。
「うん、文字なんだ。信じられないことにね。とにかく、サルベージってもしかしたらエーテル空間から何かを引っ張り出すって事なんじゃないかと思うんだ。だから、このサルベージってジンバさんを引き揚げろか、ジンバさんが引き上げに行くか、またはその両方なんじゃないかって思うんだ」
「つまりタカちゃんは、ジンバがエーテル空間から何かを取り出そうとしているっていうのね? でも、それは無理よ? アッシャー側とエーテル側のやり取りは、入れ替え、事象の反射、事象の変換、それから通過のみよ? 引っ張り出すなんて聞いたことないわ」
「でも、僕の知る限り、ジャンプ移動中に消えたという事故が少なくとも二件あって、しかもそれが事故であると普通に認知されている。つまり、他にもあるんじゃないの? そういう事故」
「確かに昔はありました。最近でこそありえませんが、千年位前までは頻繁にあったそうですよ。……では、鷹揚さんはジンバさんが何かを引っ張り上げるつもりで、エーテル空間に行っていると考えているのですか?」
「永さんもそう思ってるんじゃないの? 永さんがこちら側に来る代わりにジンバさんが請け負ったのって、渡海家の先代さんのサルベージなんじゃないの? そして、多分その内容を口止めしていたんじゃないかな? 理由はレイバロイドのボディに盗聴などの機能があることを警戒したか、その方がおもしろそうだったから?……かも」
「鷹揚さんのおっしゃる通り、奥様は新造艦の試運転中にジャンプ航行の事故により消息を絶ちました。ジンバさんは冴澄様が消息を断った件の調査の中で、渡海家の事故にも貴出水が関与していた可能性を得たようです」
「絶対にアイツなんか企んでるね。タカちゃんは何か分かったの」
「いや、何も。多分、この件はジンバさんの掌の上だから、考えるだけ無駄じゃないかなぁ。ほら、深淵を覗くものは……っていうじゃない。考えない方が良いよ。多分、ジンバさんも勝率は高いと踏ん永さんに取引を持ちかけたんだろうし、任せておけばいいんじゃない?」
「コッチはコッチで大物釣りがあるしね。タカちゃんも参加するの?」
「僕も出るよ。燈理さんと兎働さんがいうには、専守防衛で完封できるらしいよ。相手方が軍を分けたんだって、全軍で来られてたら厳しかったって。ねえ、猪八重関にいる協力者って名の者なの? 相手の数から陣容まで全部筒抜けみたいだよ?」
「わたしはジンバだと思ってたんだけど、タカちゃんの推理だと、違う人ってことになるんなんだよね」
「ボクにも分かりません。貴出水は周囲を神経質なくらい警戒していましたし、諸侯軍から漏れたにしても、貴出水側の陣容まで筒抜けという事が説明できません」
「僕から振った話だけど、それこそ考えても仕方ないね。アカ姉、この会話も燈理さんは把握してるよね? 時間まで散策でもしない? 何かあったら言ってくるでしょ」
集合時間までは時間があるし、もう少しのんびりしようかな。
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