第25話 宇宙戦闘は妖精さんと共に
「タカちゃんおかえり!」
「おかえりなさい、
グレートジンバーの接舷チューブをくぐり、ハイダウェイジンバに降り立つと、アカ姉の出迎えの声が聞こえた。返事をしながら声のした方をみると、色違いのピンポン玉大の球体が宙に浮かんでいる。
深紅と翠色の球体、多分深紅がアカ姉で翠色が
「感想をいうのはまだ早いわよ! いい感じに仕上がったんだから」
感想を言おうとした僕を遮ったアカ姉と永さんがその場でくるりと回転すると——。
なんという事でしょう……目の前に妖精さんがいます。少し透けているような質感がより幻想的な雰囲気を演出し、二十センチほどの小さな体もあいまって、より繊細さを引き立てます。
「どうよ!」
「黒髪のアカ姉も綺麗だけど、赤い髪のアカ姉も新鮮だね。良く似合ってると思うよ。永さんの緑もヒスイみたいで、可愛いよね。てっきり普通の人間サイズで会えると思ってたから驚いたよ」
「あー、受肉体の方ね。あれって普通の人間の体を一から作るものだから時間がかかるのよ。特にこだわってるから、完成は来年になると思うの。仮に身体が出来てたとしても、なじませるまでリハビリで時間がかかるから、どうなるか分からないような今の状況ではそっちは無理ね」
「その点、この体は
「気にしなくていいのよ。一体作るのも二対作るのも手間はあまり変わらないし、お母様も新しい試みだからデータが欲しかったみたいだしね。それよりも、見てよタカちゃん! わたし達って空力で飛んでないのよ。最新のエーテル空間理論の応用なんですって。この本体とカップリングさせている、エーテル空間内に準備した分体をエーテル空間上で動かすとコッチの空間の本体も影響されて移動するらしいわ。アッシャー理論? とか言うそうよ」
もしかしたら、この手の件についての命名は、すべてムー的な感じになっているのではなかろうか? そんな気がする今日この頃です……。
夕食中に燈理さんと話す機会があったので、アッシャー理論? について詳しく聞いてみた……世の中、不思議なことがあるってことが分かりました。
続いて教えてくれた、賢者の石についての話はフワッと理解できた……気がする。
鉄と銅は一定の条件下で原子の隙間にエネルギーをため込む性質があるらしい。このエネルギーには電気や重力等の初歩的な計測器で測れるもの以外のものも含まれるそうだ。その性質を利用して並行空間のエネルギーをやり取りする技術が今の技術の根幹にあるとの事。
僕には、燈理さんが、彼女の研究について話してくれたことに、より興味をひかれた。
燈理さんとジンバさんは、似たような研究をしている。生物に賢者の石と同じような機能が存在しないだろうかという事だ。
今では、賢者の石を身体に埋め込むことは上流階級のステータスとなっている。これによって、様々な恩恵を享受できるらしく、さらに賢者の石を利用した機器によるサイバー化手術も頻繁に行われるとのこと。
ただ、稀にサイバー化せずとも似たような能力を発揮する者もいるらしく、彼らは賢者の石との親和性が高い人種として一目置かれるのだとか。
しかし、そんな彼らもサイバー化を施すと元々の能力を失うことがあるらしい。
燈理さんもジンバさんも、メインで研究している事は異なるが、先の件について注目している部分は同じだと、燈理さんは嫌そうに言っていた。
注目しているのは、血液だ。
血液の成分である、鉄や銅について、その振る舞いに秘密があるのではないかと考えているらしい。
その話になってから、燈理さんの話が、も、ホント長い長い。
翌日は作戦の決行予定日なので、永さんを生贄にして、途中で下がらせてもらいました。
で、現在グレートジンバー内の桜花のコクピット内にて、絶賛言い争い中です。
「アカ姉も永さんも降りてください。ハッチを閉められないでしょう?」
「いやよ!」
アカ姉がプリッとそっぽを向く。永さんはオロオロしている。
「このために、小さい身体にしたんだから、ゼッッッタイに一緒に行くわよ」
「あの、サポートもしますんで、置いてもらえないでしょうか?」
「弱気じゃ駄目よ!? 置いてもらうんじゃなくて、居座るつもりで行くのよ」
「燈理さん、燈理さんからも二人に降りるように言ってください」
「え? そもそも、私が許可したから二人ともその身体なのよ?」
「……連れてってやればいいじゃないか」
僕たち四人の押し問答に挟まれたダンディなヴォイス。
コクピットハッチの直ぐそばで、あずきさんがケーブルを繋いだ携帯端末をチェックしながら話しかけてきた。
でも……ダメだ……猫がキーボードをテシテシしているようにしか見えない……。
「二人とも覚悟を決めてんだ、受け入れてやっちゃあどうだい? それに、考え方によってはそっちの方が安全だ。それに、今日はたぶん……いや、これは不確定事項だ。聞かなかったことにしてくれ。とにかく、そこは安全地帯だ、私が保証する」
「まあ、そういう事なら……」
というやり取りを経て、現在は発艦チューブ内で待機中だ。
今回の作戦は、敵艦隊の注意を引きつけること。何か隠し玉を使うまでの時間を稼ぐことが目的らしい。隠し玉の内容は秘密だそうだ。
注意点は、敵をなるべく傷付けないこと。敵の機体にもバリア機能があるので、敵の同士うち程度は気にしなくていいらしい。ひたすら引っ掻き回しながら、相手陣地の中央を目指してほしいそうだ。
「来たわよ! 鷹揚! 相手の第一射をやり過ごしたら、ぶん投げるから、しっかり役目を果たすのよ!」
グレートジンバーの眼前二十キロの位置にジャンプアウトしてくる敵艦隊。
「敵艦隊、ジャンプアウトを確認。補足後、NeC0ジャイロ機動」
「敵、バラクーダ級戦闘艦二隻、ソードフィッシュ級戦闘艦八隻、カンディル級戦闘母艦八隻ニャ。カンディル級に各八機のドラゴンの割り当て終了、NeC0ジャイロ起動ニャ! 桜花同期確認、いつでも行けるニャ!」
敵はバラクーダを中心として、正面から見るとソードフィッシュとカンディルがそれぞれ円を描くように配置されている。
側面から見るとソードフィッシュがやや前に、カンディルがやや後ろに陣取っている。
カンディルがドラゴンを発進させ、少し間をおき、ソードフィッシュ、バラクーダの順で砲撃が始まった。
「鷹揚! 突撃形態の全面バリアは特攻かけても平気な強度があるから、弾幕はまっすぐ突っ切りなさい! カウントスリー、ツー、ワン、射出! 暴れてこい!」
グレートジンバーの船体中央から電磁パルスを纏って桜花が発進する。
言われた通り敵の砲撃を受けながら真直ぐにバラクーダを目指す。敵のドラゴンが慌てて引き返すべく反転機動をするのを横目にさらに加速。
ソードフィッシュのラインに着いたところで、周囲から機銃掃射が行われる。
突撃形態から機動戦闘機形態へ移行。それぞれの部位の変形タイミングをずらして、弾丸を素通りさせる。
はじめての体験だが、NeC0ジャイロの性能はすさまじい。どんな機動をしてもグレートジンバーを中心に軸をイメージできる。さらに、戦場の全てのオブジェクトの位置をリアルタイムで把握できる。
これによって、回転を含む複雑な機動を行っても、敵をロストする心配がほぼなくなる。
弾が飛んでくる方向が分かれば、後は射線を意識すれば、被弾のリスクは大分減る。
それでもやはり被弾はする。これについてはバリアが仕事をしてくれている。どうやら連続して被弾しなければ、すぐに復活するようだ。
それならば、多少の被弾はバリアに任せ、なるべく敵ドラゴンを背に置いたまま相手陣地の中央——バラクーダを目指す。
「戦闘宙域に味方機接近! 停止限界を超える速さで敵陣中央に向かっているニャ。コイツ正気じゃないニャ!」
「え? 予定より早いじゃない! 鷹揚、急いで! このままじゃ作戦が崩壊しちゃう!」
あれ? 味方だよね? なんでそんなに慌ててるの?
確かに、コッチに向かってくる光点が見える。光点は見るたびグングン大きくなり、機体のシルエットが見え始めた。でも、スピードじゃ、止まれないだろう。大丈夫か?
僕がバラクーダの脇に到着した時、その期待がバラクーダの横っ腹にツッコんで……反対側から出て来た。
……ああ、こうやって止まるつもりだったのね。
「だああぁぁぁ、もう、浸食機関、状況開始! 兎働卿、戦闘は終了しました。これ以上の破壊行動は止めてください」
「おお! きなこ嬢、そうであったか。スマンスマン。では、
「鷹揚……、そいつら、もうコッチの指揮下だから……。帰ってきていいよ……」
どゆこと?
「無人機の指揮権を奪ったんですよ。多分、桜花の石機関は強力ですからね。それを仲介して敵艦内部の賢者の石と敵本隊の賢者の石の接続を阻害してシステムを乗っ取ったんですよ。相当強力な石がないとできない芸当です。ボクも実戦では初めて見ました」
「ほら、こういう解説も入れられるから、私たちを乗せる方がお得よ?」
……損とか得とかいう話だろうか?
そんな僕らの横を、敵のドラゴンが敬礼をしながら通り過ぎていく。破壊されたバラクーダの曳航作業に入るらしい。
それなら、後は任せて僕も直接ハイダウェイジンバに戻ろう。あずきさん達、これから忙しそうだし……。
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