第21話 間借りしたセカイ③
今いる場所と、周辺の状況は分かったが、理解するにはいまいち情報が足りない。
分からないことは手を挙げて質問だ。
「すんません。もう少し突っ込んだ状況って教えて貰えますかね? なにぶん初心者なもんで……」
「そうだよね、タカちゃんが生きていた世界とコッチでは状況が全く違うもんね。ごめんね。まず、タカちゃんが眠りについてから、外の世界では千九百六十一年過ぎてるの。今では人類の生存権は銀河系をほぼ満たした状態になってるわ。何もしなくても居住可能な惑星は発見し尽くしたって介錯でいいわよ。最初の内は地球の各国が共同で銀河系の開発を行っていたけど、基本的なノウハウが出揃えば、後は各国が早い者勝ちって状況に移行したの。だから、地球から離れれば離れただけ、国や民族色が濃いエリアが多くなってる。想像ついたと思うけど、私たちがいるエリアは日本の色が濃い地域よ」
ここまではいいかしら? とコッチを見たアカ姉に頷いて答える。
アカ姉の説明に合わせてディスプレイが切り替わり、銀河の地図から分布までがアニメーション化されている。今度はミーティングスペース全体を使った立体映像だ。
ミーティングスペースの隅っこで、ナンとチャパティが何やらやっていると思っていたら……ホント、いい仕事するよね。職人か?
「銀河系に人類が満ちるに従って、旧来の国家は秩序を支えきれなくなったわ……目の届かない所が好き勝手試打しだしたってことね。こうなってくると、我も我も独立機運が高まって、あちらこちらで主権を主張しだす。最初は、旧国家体系も
「アカ姉。ここって、銀河系のどのあたりになるの?」
大体この辺りね、とアカ姉が指差した当たりに緑色の光点が灯る。……結構な辺境だなぁ。銀河の中心を挟んでほぼ、地球と反対側じゃん。
「冴澄家って、やっぱり僕と関係あるの?」
「タカちゃんは、冴澄家の始祖の兄弟って記録にあるわ。そして、対外的にはタカちゃんは世界樹になって消えたことになってるの。つまり、タカちゃんは記録の上では幽霊ってことね。それでも、冴澄国の上層部では知ってる人もいるわね。彼らの中では始祖に対して真祖って言われてるわ。中には狂信的な人もいるから気を付けてね?」
さらっと爆弾ぶっこんできたよ。そんなのどう対処しろって言うのさ。
「冴澄家の勃興は賢者の石ありきだから、それも仕方がないんだけどね。ついでに今回の件の原因だと考えられる事件について説明するわね。十三年前まで、冴澄家は独立国家の宣言はしてなかったのよ。
「あの……、いいでしょうか?」
トワがおずおずと立ち上がる。
「ボクが貴出水邦爵から受けた依頼は、賢者の石の生産プラントの特定、または生産方法の奪取でした。ただ、一つ気になることがあって……命令書の中で賢者の石についてよりも優先順位が高い項目があるんです。施設内での簡易ジャンプポートの設置と起動。これについては、賢者の石に関連する痕跡がなかった場合も、潜入に失敗した場合も必ず起動するようにとありました。もしかしたら、この施設そのものが目的ではないかと……」
「理由は大体察しはついてるのよ。貴出水が動いた時点で目的は十三年前に関わるものでしかありえない。本当に後手後手に回ってるわね。情けない……。それから、鷹揚君に伝えておくべき事があるの。現在この国は国王、冴澄
「はい。渡海家の大奥様——渡海子爵家前当主も三年前に同じような状況で行方不明になりました。グリンウッド氏によれば、まだ生存の可能性があるとの事でしたが、それ以外は教えていただけず……」
トワさんの提案を受ける形でもたらされた燈理さんの情報を聞く限りだと、貴出水家ってのは真っ黒だな。冴澄家の当主さんの行方不明と貴出水家の侵攻の時期が偶然一致したなんて事はないだろうし……。やっぱ、ジンバさんに確かめるのが早いんだろうなぁ。
「ねぇ、タカちゃん。タカちゃんはどうしたい?」
「? 何を?」
「ジンバに答えた内容だと、タカちゃんはリアルの世界に行きたいんでしょ? 今の状況だと、目覚めた状態でここにいるのは危ないと思うし、本星でも周辺コロニーでも良いけど、一時的に身を隠した方が良いと思うんだけど……」
「判断する前に確認したいことがあるんだ。まず、僕がリアルの方の世界に行った時、世界樹の周りにあったカプセルがあったんだ。大きさ的にも人が入ってるんじゃないかと思うんだけど、合ってる?」
「……そうね。うん、合ってるわ。あのカプセルは生命維持装置よ。十三年前の事件の犠牲者達の命をつなぐための装置ね。元々この施設は賢者の石の生産と並行して、世界樹の生産性の向上に関する研究をするために作られたの。生産性の向上にはタカちゃんの眠りの質が大きく関係している事は分かっていたから、眠り続けるタカちゃんの眠りにアプローチしようって発想ね。その技術が、脳だけが健康な状態になってしまった犠牲者に仮想現実空間の生活を提供する事に役だったってわけ。さらに、より高いクオリティーの仮想現実世界の実現に世界樹が利用できること、世界樹と事件に巻き込まれたみんなを繋ぐことで賢者の石の生産性の向上が見られたこと、これらの理由で今の状態に落ち着いたってわけね」
「そう……。じゃあ、ここには生きている人間がいるってわけだね。彼らをこの宙域から避難させることはできる?」
アカ姉が困ったように燈理さんを見ると、僕の質問の答えを燈理さんが引き継いだ。
「無理ね。この施設には航行能力もジャンプ能力もないわ。それに今から移送の準備をしても間に合わないでしょうね」
「ふむ……、燈理さん、アカ姉、僕の立場というか、立ち位置というか……貴族とか平民みたいなものってどうなるの?」
「そうね、鷹揚君は王族の始祖の兄弟だし、同時に存在しない人でもあるわ。だから、今ならなんにでもなれるわよ? 王族だって一般市民だって本当になんでもなれる……それに、あなた一人なら、ここから逃がすこともできるわ」
「なんだ、じゃあ答えは決まってるよ。ねえ、燈理さん、桜花ここにあるんでしょ? あの夢の通りの性能なら、援軍が来るまでいい勝負ができるんじゃない? 防衛戦に参加するよ」
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