第16話 現実と幻実と②
僕が吹き抜けの下の階への階段を探し始めた時、武装集団の一人が発砲した。続けて他の七人も発砲を始める。
突然の射撃音に作業中のロボ君達が、奥へと逃げていく。負傷したロボ君は他のロボ君が運んでいく。置き去りにされなくて良かった。
それにしても、コイツ達……潜入任務かと思ったら、制圧部隊だったか。
それにしても、雑な仕事だ。お仕事中のロボ君たちを狙ってどうすんだ? 遊んでるのか?
とりあえず、ロボ君達に犠牲が出る前に処理をしとくか……おや? 引き込み役のロボ君が何やら抗議をしている?
やめとけって、それ系のやつらは言うだけ無駄だぞ?
ほら、ストックで殴られた……さて、行きますか。
初手で軽く人数を減らそうと、適当に選んだ二人の頭を踏みつけて着地する。ヤッパリ僕の体は見た目通りの金属製だったようで、その重量で僕が乗った二人が潰れたトマト缶のようになる。
お前ら! 味方がやられてんのに、呆けてんじゃねーよ。あと、敵地に入るならヘルメット位は装備しといた方が良いぞ。
眼前の男の眼窩に指を突っ込み、そのまま振り回して勢いを追加。隣の女と頭同士をかち合わせる。うむ、腕力も上がってるんじゃないか?
これで半分。ほら、早く反応しないとどんどん不利になるぞ?
ようやく反応して、コチラに銃を構えた残りの男達との間に、頭が融合した二人一組の死体を挟み込み盾にする。ギョッとして射撃を戸惑う男達。
僕は男たちに向かって盾を蹴り飛ばし、足元のアサルトライフルを拾う——で、即射撃。盾の攻撃を逃れた男の眉間が消滅する。
僕から一番離れていた男がサブマシンガンを乱射。立ち上がった二人を始末してくれた。味方を撃ってどうすんだ?
「きゅふう、くひゅ、く、く、くるな! 化け物!」
嚙んでやんの。今まで七面鳥撃ちめいたことしかしてこなかったんだろうな。狩られる立場になって、混乱してるね。
……ふむ、試したい事もあるし、チョット雰囲気出して近づいてみるか。
乱射を続ける最後の一人に、ゆっくりと近付いていく。
狙いがブレブレでほとんど当たらない。君はサブマシンガンの二丁拳銃よりも、アサルトライフルかショットガンの方が良いかもよ?
ようやく一発当たったが、想像通り衝撃はあるが、体には弾痕が残る程度で済んだ。
「ぃぎぁがぁンぬがぁ」
『きかんなぁ』って言おうと思ったら、僕の方がビックリしたわ! 何だこの声!? 硬いものをこすり合わせて作ったような声だよ。地獄の窯が喋ったらこんな感じかな? とにかく、現状では喋るのは無理だな。
よし! 検証も終わったし、捕虜にしよう。相手が一人なら僕でも拘束できるだろう。
「来るなよおおぉぉぉぉ」
どうやら、調子に乗って脅かし過ぎたようだ。捕虜(予定)がよだれを垂らしながら、ライディングパンツの膝を引きちぎる。
膝の連結が解除され、太腿側の断面があらわになる。中から顔をのぞかせているのは……!
膝からミサイルランチャーキターーーーーー!
ッと喜んでいる場合じゃない。僕の後ろの隔壁の向こうは宇宙やぞ!
どうする?
①取り押さえる→射出は止められません。
②飛んできたロケットをつかまえるまたは投げ返す→爆発は止められません。
③信管と火薬を切り離す→やれるもんなら、やってみろ!
④空中へ誘導、物資集積所の中空で爆発させる←コレで行こう。
とにかく、隔壁に穴が開いたら被害が……別に良いんじゃないか?
隔壁に穴が開いたって、この部屋が真空になるだけだろう。ロボ君は問題ないし、僕もこの体なら耐えられるような気がする。被害と言っても捕虜(予定)が死体(確定)になるだけだよね。
危険を冒すより、好きにさせた方がよさそうだ。
僕をめがけて飛んできたミサイルを大げさに躱す。前に紙一重で避けて、爆発に巻き込まれたことがある。信管の起動条件にも色々あるらしい。
想定通りミサイルは隔壁を破壊。気圧差により宇宙へ放り出される物資の一部。それらに続いて元侵入者だったモノと捕虜(元予定者)も宇宙に吸い込まれていく。
僕は重量が重量なのでね。重力があれば飛ばされないみたいだ。患者衣はバッタバッタなってるけど。
すぐに非常用の隔壁が下りて、この空間より先の空間の機密が確保されれば、この風も収まるだろう。それまで伏せたまま大人しくしてることにする。
視界の端で、ロボ君が宇宙空間へ走っていく。まさか、アイツを救助するつもり?
ワイヤーフックを持って宇宙へ躍り出たロボ君は真直ぐ捕虜(予定)へ向かっていく。
ロボ君がそのつもりなら、巻き上げ位はしてあげますかね。
しかし、ロボ君の健闘むなしくワイヤーの長さの限界の方が先に来た。そしてロボ君は躊躇なくワイヤーを手放すと船外作業用のスラスターを使って再加速する。
ほどなく、捕虜(生死不明)をキャッチしたロボ君が、今度はスラスターを使っての帰還を試みる……が、減速したところで推進剤が尽きたようだ。
速度は落ちたが、依然遠ざかり続けるロボ君と目が合ったような気がした。
……あー! もう!
僕は引っかかっていた死体からアサルトライフル二丁をひったくると、ロボ君に向かって宇宙へ飛び出していた。
おおぅ……なんか心細い……。
……静かだな。 聞こえる音が海に潜った時のものとは違う……自分の音しか聞こえないって、なんか慣れないな。
先ずは加速してロボ君を回収だな。
……では、レッツ加速!
うおおおおおおお、回ってる回ってる! って行き過ぎた!
マッテ、チョットマッテ!
ライフルの再発射で回転は緩やかになったが……ロボ君との距離、遠くね?
お、ロボ君の向こう側に、僕がいた施設が見える。
……ほほう。あそこから来たのか……でかいな! ほぼ岩石じゃん!
近くに母星もないし……小惑星か? 滾るねぇ! ロマンだねぇ!
さて、どうやって戻るかだが……やはり、ライフルは移動手段足りえないということが身に沁みました。
そもそも、出力の調整ができない……が、残念ながら移動手段はこれしかございません!
残弾があるうちに試行錯誤してみましょうかね。
……!……?……?!……!!
さて、複数回の試行錯誤により、タイミングさえ合えば合力でどうにかなりそうだと判明いたしました。とても楽しかったです!
さて、現状、残弾数が心もとない中、僕の現在位置は小惑星よりロボ君の方が大きく見える状態まで、小惑星から離れてしまっております。
何はともあれ、先ずはロボ君の回収です。
ジンジャーブレッドマンくらいになってしまったロボ君からなんだか呆れを含んだ空気を感じますが、今は無視しましょう! 重要案件ではないです。
では、帰還プロジェクトを開始します! 実況は
ごめん。ふざけてないと、心細いんだよ……。
で、結論から言おう。非常に消耗したが、なんとかロボまでたどり着いた。
現在、ロボ君と金属グールとフリーズドライ(捕虜)が一塊になっている状態だ。
やにわにロボ君が手を僕の耳たぶをつまんだ。
「ボクは『トワ』。見ての通りあの施設のレイバロイドだよ。助けに来てくれてありがとう」
うお、びっくりした。……なんだ、骨伝導か。
こちらからは伝える手段がないのでとりあえず、頷いておく。
「突然だけど、君の持っているライフルを貸してほしい。失礼な事を言ってると思うけど、君ではたどり着く前に弾切れを起こすと思う」
イヤイヤイヤ、普通にないだろう。どこに自分の得物を敵かもしれない相手に渡すやつがいるよ?
当然、僕はロボ君の要求を拒否した。
「でも、君では帰れないよ。あくまで計算上だけど、贔屓目にみても君が帰還に成功する確率は4%に満たない」
どう計算したんだよ? そもそも、計算できるモンなのか?
「君もボクもあの施設に戻りたい……ね、少なくとも施設までは目的は同じじゃないか。ここはより確率の高い方法を採ろう?」
ぐぬぬぬぬ……、分かった。ライフルを渡そう。
ライフルをロボ君に渡す——え? もう一丁も? そうしたら、僕は丸腰なんだけど? 分かったよ降参だ。ロボ君に全面的に協力するよ。
再び、結論から言おう。
ロボ君スゲー。
四ショットで出てきた集荷場の穴にドンピシャで戻りました。
「やっぱり、ロックがかかってるね……」
元の場所に戻ったのは良かったのだが、やはりというか何というか……通路の先の隔壁が下りていて行き止まりになっていた。
トワがなにやら調べていたが、こちら側からは操作できそうもない。
まあ、考えてみれば真空側から操作で来たら危ないわな……。
あと、重力は残ってた。上下があるのは助かる。
「まだ、残弾に余裕があるから、別の物資搬入口にまわろうか? エアロックがある、正規の入り口なら外からでも操作できると思う」
うーん……現状では僕に代案はない。しゃーない。再び宇宙へ出ますか。
……? あれ? 光流? どしたん?
「鷹揚君、おっかえりー。ご飯にする? お風呂にする?」
後ろから肩を組んできた宇宙服の人物と至近距離で目が合った。
……え? ……ジンバさん? ナンデ?
「そ・れ・と・も、永眠、する?」
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