第15話 現実と幻実と①

 いつもの夢を見ていたようだ。


 死なずに目覚めたから、ミッションクリアってことなんだろう……夢? ……ミッションクリアするまで繰り返し見る夢なんて、そんな都合のいいものがあるわけないだろうに。

 今まで見た夢に共通しているのは、どれも夢が覚めるまで生き残っていれば一区切りという事だけだ。

 何なんだ、いったい……ジャングル、砂漠に市街地などなど、今回は宇宙コロニーでの人型兵器と来た。あまりに実体験からかけ離れている——知らないことを夢で見ているのだ。

 今まで特に疑問にも思わずにいた事がどうも気になる。


 考えるべきことはまだある。ここはいったいどこなのか、という事だ。


 確か大学で黒メットに触られて……奴に引き込まれたら……その前に見た夢のやり直しをしていた。そして今に至る……っと。

 まてまて、黒メットなんて……あんな存在はあり得ないだろう?

 じゃあ、アレはなんだ? ……アレも夢? だとすると、どこまでが現実だったのか?


 よく考えたら、僕は? 高校生活までの記憶はなぜか二つある。

 それだけでも異常だが、高校合格以降の記憶というか思い出に至っては無数にあるのだ。

 既に僕が高校三年間を何周しているかはあいまいになってしまった。少なくとも百や二百では足りなさそうだ。既にどれが事実なのかも判然としない。


 それに、死に戻りめいた夢についても、経験した事は失敗も含めて全て覚えている。


 一体、何が起こっている……?

 なぜ、今になって今までの事に疑問を感じている?


 いけない、思考がずれている。ここはいったいどこなのか?

 先にこれについて確かめるべきだ。


 目の前にある枝状の金属製のオブジェ。時折、樹皮の隙間を虹色の光が流れている。

 その向こうにあるのは、カプセル状の何か。酸素バーとか日焼けサロンとかの画像で見たようなカプセルが、僕がいる場所を中心に放射状に並んでいる。より正確には、カプセルの間を通る通路が放射状に配されていると表現した方がしっくりくる。


 とりあえず、起き上がって周囲を確認しよう。


 『ブチブチブチブ…』草抜きの時に感じたような感触と音が背中と腕からする。

 思わず目を閉じて、ゆっくりと視界を腕の下側——感触と音の発生源——が見える位置に合わせ、ゆっくりと目を開ける。


 うっわぁ。ため息とともに考えたことはそれだけ……。


 いや、したよ? ビックリ。

 うん、僕史上最高なくらい驚いたよ……うん。

 でも、ここまででケッコウお腹いっぱいっていうかさ、納得してないけど受け入れざるを得ないっていうかさ……強いて言えばそんな感じで、既に驚く感覚が麻痺しているんじゃないかなと思う。


 目の前の僕の腕は、骨に乾燥した皮膚と筋肉がついているような見た目で、かつ、質感は最初に見た金属製の枝みたいな感じだった。

 これは……なにかい? ……『転生したらグールでした』的なモノでしょうか?

 触った感じ、顔も同じような状態らしい。


 よし! 分かった! 今の状態も今朝からの一連の現象と同軸ベクトル上にあるとして、その上で今現在の僕の体がコレだというなら、とりあえず受け入れることにしよう。

 グールなどと言うファンタジー色溢れる種族? になったという事なら、この状態で生きる方法を考えてやろうじゃないか。 


 しっかし、ファンタジーならファンタジーに徹してほしかった。


 僕の背後にある金属製の樹木以外は、まるっと全部が未来施設くさい。

 床と言い、壁と言い、樹脂とも金属ともつかない材質不明なナニカで出来てるし、カプセルの先にある、両引き戸は取っ手がないことを考えると自動扉なのだろう。

 いや、偏見なのは認めるよ? でも、今の僕の見た目は中世くらいの雰囲気の方がしっくりくると思うんだ。こんなロボットがうろついているような、宇宙ステーションかくやって雰囲気の部屋は……って、ロボットまでいるよ。コッチ見てるし……。


 今更、元の窪みに戻っても遅いんだろうなぁ……。


 あっ! 木の実発見! ヤッパリ、枝と同じ質感なんだな。思わず見上げて現実逃避をした僕を誰も責めはしないだろう。 ホント、なんなん? 朝からこんなのばっかりじゃん!


 ロボットが真直ぐコッチに向かって歩いてくる。うん、そうだよね。確認しに来るよね。

 走ってこないところを見るに、とりあえずは攻撃の意思はなさそうだ。


 近付いてきたロボは、僕から三メートル位離れたところで立ち止まり、コチラの観察を始めた。


 僕を避けて後ろの樹木を間近で観察したり、木の実を拾って腹部に収納したり……。

 もしかして君、ここ初めて?


 チョット試しにココから出てみようか。あのロボが自由に動き回れるなら、僕だって普通にしていれば問題ないのかもしれない。

 ほら、ロボ君もコッチをチラッと見ただけで追いかけてこない。


 百メートル四方はありそうな大きな部屋の出入口についた時、僕は自分が全裸である事に気が付いた。見た目は金属製のミイラだけど、全裸で部屋の外に出るのは如何なものか……?




 はい、こちら謎の施設の探検中の冴澄さえずみです。

 着るものは途中で発見した患者衣を着用しています。似合わないですよね!


 謎の施設の内部探検もいよいよ佳境です。いやね、最初はおっかなびっくりだったけど、今じゃあ堂々としたもんよ? ホント。

 あれから、作業中のロボ君達とすれ違ったけど、みんな僕の事なんか気にしないからね。

 そういうもんなんだろう。


 ここまでくる道々は、僕の体について色々と考えられるくらい平和だった。


 例えば、

 推測①、僕は動くミイラになった!

     ——ないない。ミイラにしては硬すぎる。匂いからして鉄だもん。

 推測②、真空でフリーズドライになったが、ドッコイ生きてる!

     ——これもない。理由は①と同じ。

 推測③、生きている化石になった! しかも鉄分多めの地層産!

     ——見た目が骨じゃないし。それに生きている化石って意味が違うから!

 推測④、モンスターとして異世界転生した!

     ——検証不可。

 なんて、アホな事を考えるのは、今の状況に慣れてきたっていうより、ヤケクソになってるからだな、きっと。

 

 さて、結論から言うと、ここにはナンもない。しかも、外は宇宙だったよ。もう、このくらいじゃ、驚かないね。


 さて、行ける範囲内限定だけど、ザックリと内部構造も把握できたし、怪しいところからじっくり調べてみましょうか。結果、誰かが事情を聞きに来てくれれば、何とかなるでしょ。




 手始めは物資搬入口。なぜなら、ここが樹木の部屋から最も遠いから。

 ここから元の部屋に戻るような順番で調査をすれば、効率もいいだろう。


 お、第一ロボ君だ。彼、他のロボ君達と雰囲気が違うからなんかわかるんだよね。

 あんな隅っこで何してんだ?

 

 ロボ君がバックパックから饅頭型の何かを取り出し、饅頭のコードを自分に繋ぐと……なんか饅頭の上の空間が四角く切り取られ、どんでん返しのように回転する。

 切り取られた空間の向こうは別の部屋に繋がっていて、複数人の人影が見える。

 空間の開口部は八人の武装した集団を吐き出すと、饅頭が起動した時と逆の手順で消えていった。


 スタッフが来た……ってわけじゃなさそうだね。

 それにしても、身なりは良さそうだが、ヘラヘラしてて態度悪いな。

 なんかやらかしそうだし、用心のため下に行くとしよう。

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